2
「しっかし、本当に見付かるのかねぇ……毎晩探してもいないんだから、もしかしたら変に慎重になって外に出ないようにしてんじゃないだろうな」
「……その可能性はあるかもしれませんね。かなりしつこく追いかけ回しましたから、ほとぼり冷めるまでってのは僕なら考えます」
宮村が疑惑を口にするが、残念な事にそれを否定する事はできない。むしろ否定どころか肯定せざるを得ないほどだ。そもそも逃げた段階で負けを認めたのだから、勝てなかった相手がいるであろう地域を昨日の今日でウロウロ歩くだろうか。
もちろんその可能性だってあるので今日までは探し回ったが、そろそろ認めなければならないかもしれない。
「そのほとぼりってのはいつになったら冷めるんだぁ? もしかすると俺らが毎晩歩き回ってわざわざ火を入れてるんじゃないだろうな」
「じっくりコトコト三日間。ほとぼりの良いスープができそうですねぇ」
「あーあ、ラーメン食いてぇなぁ……」
などと、真面目な話に移行するでもなくユルい発言が飛び出した。それに対して注意をするべきなのかもしれないが、真田も微妙にそんな気持ちになれない。
何故ならば――
「――暇だ」
「ですね……」
暇なのだ。真面目な考え事が長続きしないほど暇なのだ。
「アイツもいねぇし、かと言って他の魔法使いに会うワケでもねぇし。何も起きねぇと流石にダレてきた」
普段も索敵と言いつつダラダラ歩き回っているのだが、それとこれとはまた状況が異なってくる。今は明確な目的を持って歩いているのだ。その目的がまったくもって果たされそうにないのだから徒労感もひとしお。目的を持たずに歩くよりもさらに疲れて、頭も回らない。
真田の中には吉井と出会って生まれた使命感がある。しかし、それもずっと続くものではない。ここぞという時には燃え盛るだろうが、こうして歩き回っている間にも燃えているかというとやはりそれは難しい。しかも家に帰れば普通に笑って暮らしているのだから、その顔を見る度に緊急感のようなものも薄れてきてしまうような気がする。
すると宮村がガックリと肩を落として溜め息混じりに呟いた。
「なーんでこんなに会わねぇんだろうな……?」
その気持ちももっとも。これまで彼らはかなり頻繁に魔法使いと出会ってきた。真田で言えば腕輪を手に入れてからの一、二ヶ月でもう片手では足りないほどの人数に出会ったのだ。
気合を入れて探せばあの男も見付かるだろう、そうでなくとも他の魔法使いと戦闘になるかもしれないから慎重に行こうくらいの気持ちでいたので肩透かしの感が出て来る。
これを肩透かしと呼ぶ事が根本的に間違っているのかもしれないが。
「まぁ、ここらにしか魔法使いがいないワケじゃないでしょうからねぇ。会わない可能性の方が高いんじゃないですかね。むしろ僕達が今まで会い過ぎなんじゃないですか? ……ああ、もしかすると……」
そう言いながら足の向くまま角を左に折れたその時だった。真田の左耳は聞き取る事ができない、その微かな衣擦れの音を。




