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暁降ちを望む  作者: コウ
風の剣と風の拳
72/333

「っし!」


 二発のジャブを放ってからのワンツー。かつてこれほど頭を使った事はそうそうない、たったこれだけの行動でも頭が焼き切れそうだ。

 そんな必死の攻撃を日下はあっさりと防御する。魔法のパンチは相手が覚悟を決める以外の防御できない時だからこそ効果があるのだ、万全の体勢の所に打った所で刀によって防がれるのがオチ。


「無駄ですよ、これも!」

「無駄でも、だとしてもだ!」


 ジャブ、ひたすらにジャブ。相手には防がれるが、それで良い。それこそが目的。ほんの一瞬だけでも宮村の体から意識を逸らす事ができたなら、それだけで充分なのだ。


「!」


 本当に一瞬。瞬く合間よりもさらに速く、宮村が消えた。気配と魔力は感じる、その距離も変わっていない。同じ事をしているだけなのだ。普通にステップで回り込んだだけ、その速度が今までよりも速いだけ。


 日下がその姿を探そうと素早くターンする。方向は右手側。動きながら回る宮村よりもその場で回転するだけの日下の方が速いに決まっている。だから宮村が時計回りに動いていたならばすぐに追いつくはずだった。しかし、いない。

 逆回転。別に裏をかこうと思った訳ではなかった。ただ単純に、そちらの方が動きやすかっただけ。ちょっとした運だ。これですぐ視界に捉えられていたらこの後の展開はまた分からなくなっていただろう。そんなちょっとした運で勝敗は決まる。


 宮村の姿が見えない、そう思った直後には逆方向に動いている事、今は背後にいる事まで考えが回った。攻撃が来る、そう思って振り向きざまに防御しようとした時だった。


「なっ……強くなって……!」


 高速のジャブ。速度は先程よりもさらに上がっている。刀で防御した時の衝撃ときたら、ややもすると少し弱めのストレートかと思うほどだったが、同じ威力の風弾が直後にも飛んで来た事からジャブだと判断した。速い、そして強い。

 正面に捉えたはずの宮村の姿は防御に集中している内に掻き消えた。今はまた背後か、それとも横か。とにかくそれを追うように日下も回転する。待つ事も逆回転して迎え撃つ事もできるが、追わなければならない。宮村は円運動をして全方位からジャブを打ち込んできているのだ。一発でもまともに貰ったらそれだけで押し込まれる。それだけ威力が上がっている。


(まだ! もっと! もっともっと!)


 思考は極限までシンプル。速く強く、それだけを考え過ぎるあまりに他の事は考えようにもモヤがかかっているようでイマイチ上手く考えられない。体は完全に脳の操り人形、自分で動いているような気がしない。


「くぅ、どうなって……樫打ち!」

「うるせぇ! お前は、じっとしてやがれ!」


 思い切って防御と攻撃を両立させようと放たれた樫打ちだったが、そんなものをぶっちぎるスピードで宮村は動いている。多少は防御の役に立っただろうが、攻撃には僅かばかりも役に立っていない。それどころか、攻撃後の隙を宮村に晒してしまっていた。


 側面、背面。散弾銃の雨あられ。左側から殴られて、そのまま反対側に倒れ込もうとしたところを右側から殴られて押し戻される。そうしてその場に縫い留められたように動けない日下だったが、だからこそ見た。

 もはや向きを変える事も許されないため正面しか見られなかったが、だからこそ宮村の姿がたった一瞬でも良く見えたのだ。


「――っ! スイッチ……」


 構えが、変わっている。


 これまで顔の前にある左手でジャブを打っていたのだが、今は右。左拳を顎に付け、顔の前にある右でジャブを放つ。経験だとか慣れだとか感覚が違うとか、そんな話は関係ない。通常の構えを頭の中で逆転させれば、それだけで体は良く動いてくれるのだ。


 利き腕を使う事によって攻撃が速く、そして強くなる。実際は知らない。あくまでイメージの話。「右でやってんだからそりゃ速いし強いだろ」などという勝手な思い込みが威力を増大させている。


「おぉぁぁぁっ!」


 日下の背後、右足で強く地面を踏んでブレーキをかける。攻撃が止んで日下も防御のためそちらを向くのだが、その時にはもう次の行動は終わっていた。

 左足を前に出して踏み込み、左手から風弾が放たれる。刀での防御はもう不可能だろうが、ダメージの軽減はできるだろう。


しかし、この通常のフォームから放たれたパンチには、相手にぶち当たってダメージを与えるための《魔法》が掛かっている。


「タイミング、が……っ!」


 覚悟の直後、ほんの一瞬だけ必ず訪れる気の緩み。そこで鼻っ柱に風弾が当たる。軽いパンチだが、それでも充分。その後にもう一瞬だけ思考の空白時間を生み出せればそれで完璧。


 左足の強い踏み込み。右足を捻り、腰を回して、拳は一直線に前へ。徹底的に叩き込んだ修行がここに繋がる。体を動かす脳に鮮明に描き出されたそのフォーム、無駄のない完璧な形。


「ぶっ飛べぇぇぇぇぇっ!」

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