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真田 優介は欠伸をしていた。今日はどうにも眠い。しかし発売されたばかりのゲームと言う物は止め時を見失わせる。
現在時刻は午前一時。宮村と二人、夜の街を魔法使いを探して歩き回り始めて二時間近く。収穫もないのでそろそろ解散となるだろうが、きっと帰ってからもすぐに眠る事はなくゲームの世界に引きこもるだろう。
そう思うと再び欠伸。やはり眠い、しかし止められない。目に溜まった涙を人差し指で拭っていると、不意に右隣にいる宮村が口を開く。
「なあ、お前さ、何で加わんなかったん?」
「はぁ?」
脈絡もなく始まった話は主語も述語もあるくせに内容が伝わってこない。言葉という物は難しい、などとボンヤリ考えながら眠気にあかして不機嫌全開で返事をした彼に、宮村は笑って肩を竦め、続ける。
「いやさ、お前眠そうだったから。話題の提供を」
「はぁ」
「でさ、何で今日の昼、俺らが話してるのに入ってこなかったのかなーって。こう、もっと要所要所でビシッ、ズバッとお前のツッコミ……っつーか悪態っつーか、暴言っつーか……まあ、そんなのが来るかなーって思ってたのに」
この男、まさかのツッコミ待ち。まさか普段の言動から狙っているのだろうか、などと思いそうになったが、この男がそんな深慮しているはずもないと非常に自然に失礼な考えを巡らせる。
「あー、まあ、別に僕が割って入るような隙もなかったですし」
「でも変わるんだろ? ああ、でもお前の少しずつで良いって考え方には大賛成なんだけどさ」
「そう、まさにそれですよ。少しずつ、少しずーつ変わるんです。今はまだ……そう、時が満ちるのを待ってるって事でどうです」
「でもあれから一ヶ月だぜ?」
「まだ一ヶ月ですよ。僕なりに頑張って一歩踏み出しました、そして今はバリバリ筋肉痛なんです。超回復してからまた頑張ります」
「超回復は嘘って話もあるけどな」
「僕は信じているので遵守します、それだけの話」
いつの間にか筋トレの話のように聞こえなくもなくなってきたが、実際に真田はこの一ヶ月間で何もしてはいなかった。
前述した通り、雪野を初めとしたクラスメイトどころか宮村とも会話をせず、目立つ事を徹底的に避ける。性格は今の所、何一つとして変わっていないと言っても良い。
「真っ赤な他人が相手なら僕も開き直りましょう? でもクラスメイトってのは明日も明後日も会うんです、まだまだハードル高いですね」
「他人の方がハードル高くね?」
「失敗したら目も当てられないじゃないですか。他人なら会わなきゃ済むんです。失敗してもめげない的な当たって砕けろ思考? うわー、ないわー、引くわー」
「……お前って本っっ当に性格良くないよな……」
「失礼な、良い性格してると言って下さい」
「変わんねぇよ」
真田 優介は駄目な人間である。面倒を嫌い、臆病で、性格も悪人寄り。良い所もない訳ではないが、それも悪い点の前で霞む。なるほど、これを受け止めてくれるような協力者でもいないと上手く戦い抜いていく事はできないだろう。
かれこれ一週間は敵を見付けていない。そうなってくるともうこの索敵はただの夜の散歩のような感覚になってくる。普通に夜中合流して駄弁りながら歩き回ってはい、解散だ。
「あーあ、今日も収穫なさそうですね。解散します? 僕ゲーム続きやりたいんで」
「いや、この時間に帰ったら寝ろよ」
「でも短期間で睡眠時間を削りまくって一気にクリアした方が長期間やり続けて寝不足が長続きするより良いと思いません?」
「寝不足前提にすんなよ、無理なくやれ。……でもまあ、俺も眠いし、そろそろ――」
そう言って宮村が思い切り背中を伸ばした、その時。本当にこうして油断している時に限ってこのような状況というのは訪れるものだ。