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「そう言えばさ、お前の願い事って何なん?」
「え?」
歩き疲れて少し休憩しようと立ち止まった二人。膝の曲げ伸ばしをしている真田を見ながら、宮村は唐突に口を開いた。
「いやさ、俺の願い事はお前知ってる訳じゃん。で、これから協力してく訳じゃん。やっぱさ、気にならねぇ?」
気になる。自分の事だからあまり言いたくはないが、これが人の事だとすれば一も二も無く聞き出そうとしていただろう。その気持ちが分かるからこそ、「教えたくない」などと返す事はどうしてもできなかった。
「……変わりたいなー……と」
「ん?」
「僕、友達とかいませんでしたから。できるような人になれたらなーって……」
「……へぇ」
「な、ななな、何ですかその感じ! 良いですか、僕だって分かってますよ、何か自分って小さいなーみたいな事は思いましたよ! 片や病気の弟のため、片や友達が欲しいって……ああ、もう何か自分で言ってて情けないです……」
正直に言うと、内心は宮村の願いを聞いた時から少しは思っていた。他の人はそんなに大切な願いのために戦っているのかと。そんな中で自分が戦い、勝っても良かったのだろうかと。他の二人にも願いがあったに違いないのだ。それを思うと、少しだけ胸が痛む。
両手で顔を覆って身をよじる真田だったが、その言葉を聞いた宮村はその悩みを高らかに笑い飛ばすのだった。
「はははっ、良いんじゃねぇの? それでも」
「……良いんですか?」
「良いんだよ。俺だって弟がどうとか言ってるけど、それも自分の事だし。それが自分にとってどんだけ大切かって事なんじゃねぇかな。多分だけど」
「多分って」
自分にとってどれだけ大切か。そう問われたならば、それはこれからの人生を左右するほどに大切な事だと胸を張って言える。少しだけではあるが変われたと思える今でも、既に気持ちが大きく満たされているのだ。これが最終的に理想とするような自分に変えられたなら、どうだろう。
「……このままで良いんですかね、本当に」
「何度も言わせんなって。良いんだよ。変わるって事は重い事なんだろ? それを言ったお前が変わるって事を低く考えてちゃ駄目だろ。俺の願いは俺にとって大切な事だ。お前の願いはお前にとって、同じくらい大切な事なんだって思えよ」
「同じくらい……何か、人の命と比べて同じくらいって言うのは流石に申し訳ないんですけど……」
「でも大切な事だろ?」
「……はい、そのつもりです」
二人で目を見合わせて、笑う。
それぞれの目的は違う。真田も、宮村も、共に自分のために戦っていく。しかし、それぞれに思惑があったとしても力を合わせる事は可能だ。
最終的に目指す場所は全くと言って良いほどに違う。見ている方向が違っては《一枚岩》とは言えないだろう。だが、《合板》だって弱くはない。目指す所が違うからこその力も存在しているはずだ。




