表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暁降ちを望む  作者: コウ
一歩踏み出す今日
34/333

「っ!」


 無音で左側に衝撃が襲った。宮村は攻撃だと思わせないほど緩やかに右腕を動かし、スイングによるカーブの軌道で聴力的死角である左半身を狙ったのだ。威力はこれまでのどれよりも低かった。しかし、ノーガードどころか完全に意識の外からの攻撃では実際の威力よりも受ける印象は大きく違う。

 苦悶に歪む顔をすかさずストレートの一撃が襲った。本来は鼻を狙ったのだろう、力無く頭を下げた結果、その攻撃は額に当たる。もちろん痛いが、下手すれば鼻を折られていた事を思えば幸運だったと言えるだろう。


「な、何なんですか急に!」


 割と姑息に回復を図っていたとは言え戦いの途中だ、急も何も無い。しかし前髪を上げて額を押さえながら理不尽に非難する真田に対し、宮村は意外にも謝罪の言葉を口にした。


「悪いな。でも俺にだって理由があるんだよ。俺は、ぜってぇ勝つ!」

「……それは、不意打ちで他に被害があってもですか?」


 不意打ちとは言っても先程の攻撃を指しているのではない。それよりも先の事、クラスメイトの二人を襲った事を指している。ここにきて真田は初めて、駆け引きも企みも無い疑問が浮かんだ。戦闘はこれで三回目。だが、これまで戦った二人の《一番の願い》は知らない。

 そう、彼自身も先程言った。腕輪を持っているという事は、それぞれに何かしらの思惑が、叶えたい《一番の願い》が存在しているはずなのだ。


 相手が何のために戦っているのか。腕輪の力で叶えたい願いを持たない真田は極めて純粋にそう思った。


「僕は、えっと、その……正直に言うと不意打ちはアリだと思います。もちろんこうして、自分が喰らうのは嫌ですけど……戦い方としては間違ってないと、そのタイミングがあったなら僕だっていくらでも不意打ちをします。でも、ですね。いわゆる正々堂々とした戦い方ではないとも思います。……な、何のためにそんな事してまで勝とうとするんですか?」


 言い終わるかどうかのタイミングで再び風弾。話を続けるのも戦いながらでしかできないようだった。それならば、と真田もついに情報と言うアドバンテージを捨てて魔法を発動させる。両腕の指先から肩まで炎を纏わせ、迎撃された最初と同じく愚直なダッシュを敢行した。一つ違う点があるとすれば、炎を纏った腕を振るっている点だ。離れた距離ではこの炎は当たらない。しかし振り回された炎は真田の体を僅かに隠す。同時に炎は根源的な恐怖の象徴であり、宮村の精神を僅かに圧迫した。炎への恐怖と体の前にある厚い炎の壁が、真田がどの程度の距離にいるのか、その距離感を喪失させる。


「チッ……それがお前の魔法か! 火なんか出しちゃってよ! 格好良いじゃん、正義の味方って感じでぇっ! やっぱ不意打ちで喜ぶ俺みたいな不良とは違うよなぁ!」


 距離を測りきれずにジリジリと後退しながらも攻撃は激化する。大振りしている時ほどの威力が無い代わりに腕の回転を重視しているのか上下左右の連打が休む事無く迫り来る。

 それらを炎で相殺して威力を殺しつつ、炎を突き破る事で軌道が目に見えた弾は回避しつつ、左側への攻撃には被弾しつつ、会話に集中させてもらえない真田はほぼ反射的に言葉を返した。


「別に、不良とかそんなんは関係無いでしょう! それに僕は、正義の味方でも、ないっ!」


 右手の炎の壁を風が通過する。顔の右側を叩こうとする軌道のそれを姿勢を低くする事で避けたが、左手の炎にも反応がある。左脇腹を狙っていたらしいが、姿勢を低くした今、その位置に顔があった。防御のために左手に炎を集中させて相殺を図ったが、それ自体は成功しても完全に足が止まる。咄嗟の対処だったためそこから別の動きに繋がらない。そんな真田の顔面に向けてさらに次のストレートの一撃は飛んで来るのだ。


 長い前髪が風に揺れる。その瞬間を緩やかに感じつつ、当たるその瞬間に気合を込める。防戦一方だったこの戦いの中で、真田は《防御のコツ》と言うものを掴んでいた。実際に受けるダメージそのものが減少するわけではないが、かなりマシになる。そうして乗り切るコツだ。

 そうして顔に直撃した風弾を耐え、鼻の辺りから聞こえてきた気のする不快な何かが折れた音を無視して即座に回復。これで一応は無事に乗り切ったのだが、衝撃は変わらない。僅かに後退した所を見逃さずに宮村が前進する。手番の交代だ。


「火ぃ振り回してよぉ! 主人公って感じで羨ましいっつーの! んで、俺だって不良なんかじゃねぇんだよ、ふざけんな!」

「はぁ? 自分で言い出したんじゃないですか! 僕は何も言ってませんよ!」

「うるせぇ! 俺は普通にサッカーやってられたら良かったんだよ! スゲェだろ、かなり活躍したんだぜぇ!」

「だから知らないです! それなら普通にサッカーやってたら良かったでしょ!」

「知ってるか、目立つとマジで絡まれたりするんだぜ! 生意気なんだよとかさぁ、リアルに言われるとか思わなかった! そんで喧嘩買ってやったんだよ、話して無理ならそうやって分かり合うまでだ! そしたらそのまま退部だぜ? そっから一気に暴力沙汰で退部させられた不良扱いだ、どういう事だよ!」

「うるっさいなぁ……口数が多いんですよ! 舌噛みますよ!」


 後退するばかりでは何かきっかけが無いと反撃が出来ないと考えて足を止め、その場に根を張り徹底抗戦の構えを見せる。いっそ自分への被害を考えずに攻勢に転じた方が得策なのではないかと考えたのだ。

 真田は同年代を相手にしても少し丁寧な言葉遣いで話す。これは自分に対する卑下と、そして相手に対する遠慮の表れだ。彼にとって、自分のランクとは常に相手よりも下に位置しているのだ。そしてその言葉遣いは今も変わらない。しかし、その言葉の内容は頭で考えるより早く口を動かしているせいか少々乱暴だ。


「結局は不良って事なんじゃないですか! そっちだって漫画みたいな理由でグレちゃって、無駄な話を聞かせないで下さい!」

「ちげぇんだって、ここまでが中学の話なんだよ!」

「違うぅ? へぇ、ろくに学校にも来ない人が不良じゃないって言うんですか! それは知らなかったです!」

「高校入ってからはちゃんとするつもりだったよ! でも弟が入院しちまったんだよ、ウチ金無いんだよ、バイトしてんだよ、学校行ってる暇なんか無いんだよぉっ!」

「そいつは残念な事ですけど、僕にとっては知ったこっちゃないんです!」


 冷たいがそんなものだ。他人の家の不幸など知った事ではない。面白がらないだけ良心的と言っても良いだろう。こうして突き放した言葉を返しても宮村は言葉を続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ