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暁降ちを望む  作者: コウ
自警団は立ちたくない
333/333

11

 宮村 暁は――


「ああああああっ! もぉ、あったんねぇなぁぁぁぁ!」


 キレていた。もう見事なブチギレだ。


 この場に現れた敵は男が一人。たった一人。率直に言って戦力のバランスは悪い。こちら側は四人も居るのに相手の方は一人だけ、何だったら味方の方が邪魔になりそうな勢いである。


 けれど相手の男は避ける、見切る、受け流す。梶谷の水には怪しさを感じたのか決して触れず、実和の猛攻は徹底的に接触を拒み、和樹の落雷すらも完全に見極めて回避してみせた。宮村の風弾ごときは余裕だ。


 宮村達は他の場所に配置された面々がどんな相手と戦っているのかを今は知る由もない。日下(と言うよりそこに現れた荒木)が戦っている相手がどんな戦い方をするのかも当然知らない。無論、別に知らなくても良い事だ。何かの意味がある訳でもないただの偶然。


 偶然、他の場所ではボクシングの要素を取り入れた動きをする相手と戦っていて、そしてこちらではもっと本格的にボクシングの動きをする相手と戦っているというだけの話。


「キミ! 良い動きしてるけど、ちゃんとジムとかに行ったワケじゃないだろ! センスあるのにもったいないぞ!」


 躊躇なく顔面を狙いに行った実和の攻撃をスウェーでギリギリ回避した、その位置を狙って放たれたスイングの風弾はウィービングで潜り、実和の横をすり抜けて宮村へと接近してくる。回避技術、特に動体視力に長けた男であった。左手のガードを下げたヒットマンスタイル。それだけならまぁ漫画に影響を受けただけの可能性もあるのだが、発言の内容もその技術も、間違いなくこの男が宮村なんかとは違う本物のボクサーである事を証明していた。


 接近と言っても触れ合うような距離までではない。かと言って宮村のように思い切り離れた場所で止まるのでもない。能力を使わない、宮村の本来のリーチよりも少し外側、相手のリーチのギリギリ範囲内。


「ぐっ……」


 鋭いフリッカージャブが宮村の顔面を捉える。目にも止まらないようなスピードなのでその分の勢いは付いているが、殊更に能力で強化されているような威力ではない。派手な能力らしい能力を持っていないと思われる。恐らくはマリアが足が速いように身体能力を向上させるようなタイプだ。その手の魔法使いはそもそもの戦闘技術が高いと手が付けられない。ただでさえ高い能力が腕輪の基礎効果で強化され、その上でさらに能力で上乗せされるのだからまったく厄介な事この上ないのだ。


「我が誉れ、この雷を……こうまでも!」


 宮村がジャブの連打で相手の足止めをして、その隙を和樹の雷が狙う。急増チーム故に単純ではあるが堅実な作戦と言える。しかし初見で回避されてからというもの、完全にただのワンパターンな連係になってしまっていた。


 それでもこれに頼らざるを得ない。和樹の雷だけは、彼が能力を発動させる動きを見るや否や確実に回避行動に出るのだ。即ち、雷が落ちる! と思ってからの回避では間に合わないという事。そして、どうやら流石に当たりたくないらしいという事。ボクシング的な回避技術ではなく全身で完全回避するという事はつまりその威力については脅威に思っているという事に他ならない。今回も取り敢えず距離を話して仕切り直す事には成功した。


「まったく……僕の攻撃もまるで触ってくれない、こうなるとただの老いぼれだな」

「少しでも当たればしばらく動けなくする自信はあるんですが、しっかり避けられてしまいますね……」


 和樹の雷は完全回避、実和の攻撃は寸前回避、宮村の風弾は前進回避。これが相手の中での脅威度という事なのだろう。そしてついでに梶谷の攻撃もある。ちゃんと会費はするのだが、前の三人については当たらないようにしようとしているところを、梶谷については当たらなけりゃ良いんだろ? くらいの余裕、意識の違いがある。


「お嬢さんの方は雷パンチ、ガードできないのは困るけど技術的に避けるのに困りはしないな。そちらの紳士は水滴を飛ばすだけって事はないだろ。でも味方は気にしてないって事はつまり、例えば酸とかを飛ばしてるんじゃなくて当たったものを任意でどうにかする能力だ。ならどうせ当たる気は無いから関係ない」


「良い分析だ。困ったものだね」


「となると、やっぱり気になるのはそっちの兄さんだな。気になるって、脅威とかそういう意味じゃないけど」

「「!」」


 宮村の近くに寄って話していた梶谷と実和が同時に体を離す。男の口ぶりから宮村一人に目標を絞ってくると分かったからだ。ならば相手をするのは任せて隙を伺うのがベスト。


 レベルの差こそあれどボクシングという共通の言語の上に二人は居る。そしてリーチの長さと言う明確に生死を分ける要素において宮村は圧倒的に優勢。ターゲットを引き付けるには充分だろう。


「チッ……そっから動くんじゃねぇぜ!」


 スイッチ、宮村の持つ最速の右ジャブの連打が相手をその場に釘付けにせんと襲い掛かる。しかし避ける、避ける、避ける! 宮村は素人ではあるが、その実力はただの素人の域を遥かに超えている。それがここまで当たらないとは、レベルの差があまりに大きすぎる。


「クソが! プロが人殴って良いと思ってんのかよ!」

「心配ない、アマチュアだよ。強化選手にはなったけど、なっ!」


 まるで風弾が見えているかのようにスイスイと掻い潜りながら男は接近する。彼にとって宮村は極端に腕が長いという特色を持った選手に過ぎないのだ。いやむしろ、拳だけが飛んで来ていて腕は存在していないのだからより避けやすいのかもしれない。


 そしてある程度の距離まで接近してしまえば、そこから鞭のようなジャブが顔面を叩いた。専門的な避ける技術に劣る上にこのスピードでは宮村では避けられない。


「っ……協会が泣くぜ」

「それに! ついては! マジ、申し訳ないっ!」


 まずは目を叩く。潰したところで一瞬で回復できるが、殴れば一瞬視界を奪和えるのは変わらない。そして次は鼻の辺り。人中はただでさえ急所だ。何も見えない状態でそこに衝撃を加えられると大きなダメージと同様で脳が誤作動を起こす。視界が開けても脳がその情報を処理してくれない。視界不良、続行。そこで最後の叩き込まれるのは右ストレート。避けられるはずもない。


「ならば我が裁こう」

「っ」


 ストレートを受けて後方に宮村が飛んだところで、その妙な存在感を潜め続けていた和樹が伏兵として現れる。落とされる雷。だが、和樹の登場に男が気付いたのが早かった。バックステップによって間一髪で回避。先程までの完全回避よりかはかなり危なかったが、それでも無傷。


 男が着地する地点、そこに既に罠を張っていたのが梶谷だ。氷が地面と足を繋ぎ止める。そして実和が突撃! 連打、連打、連打。しかしその場から動けないと言うだけなら男は意にも介さない!


「だっしゃぁぁぁぁぁい!」

 実和の息が切れるまで続いた連打を全て避け切ってみせると、攻撃の雨が止んだ瞬間に勢い込んで強引に足を引き剥がして後退する。ここまでやってなお、男にはほとんどダメージを与えられない、何もかも避けてしまう!


「ふぅ……まっ、広い世界だ。俺なんかより凄いのはいくらでもいる。けど、俺なんかでもこれくらいやれるようになったんだ。キミならちゃんとトレーニングを積めばもっと良い所まで行けるかもしれない。真剣に考えてみな、見たとこ高校生くらいだろ? ボクサーはそんな寿命長くないし、第二の人生も考慮すると始めるのは早い方が良い」


 どうも本気でボクシングの道に誘おうとしているらしい、大真面目な声で男は言った。これだけならば良い先達のようだが、この男がここに居る理由は魔法を使った犯罪行為なのだ。そのギャップがどうにも埋まらない。彼にも色々と人生というものがあったのだろう。そこまでは理解しても、深い所まで察する事は出来ないし、正直に言えばそんな事を考えている余裕は無い。


 ただハッキリ分かっている事があるとすれば。


「けど、ジムに放り込むにはその腕輪は邪魔だよな?」


 この男がとても強力な敵であるという事実だけだ。

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