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暁降ちを望む  作者: コウ
自警団は立ちたくない
326/333

「犯人は三人……か、四人。五人くらいかもしれないけど、取り敢えず十人とかそれくらいの大人数ではないと思ってる」

「めっちゃ曖昧じゃないですか」


「実際、よく分からないんだよ。これが例えばお前らなら集められるだけ集めて最大で十人くらいになると考えられる。これは俺がお前らの関係性や付き合いを把握しているからだ。今回の犯人は繋がりが見えない。と言うか、これまで戦った情報がまるで無い。正直に言うと俺が情報を手に入れたのは他の情報を集めた後で偶然って感じでな」


 たまたま情報を入手してから更に追加で情報を集めたところ、三人で打ち合わせをしている姿を目撃する事に成功した。しかし、話の内容こそ分からないものの他の相手とも人目を忍んで何事かを話していた姿を見掛けた結果、犯人が多いんだか少ないんだかまるで要領を得ない情報になってしまったという事らしい。


 しかも戦闘の情報が無いという事は能力についての情報もまるで無いという事だ。


「情報屋の名折れじゃないか……」

「それは言いっこなしですよ。ともかく、表の方は近くにコンビニや朝まで営業する飲食店があるからそちらは考えなくて良い。裏の方、人目が限りなく少なくなる方が本命だけど、そこを三組に分かれてカバーする」


 つまりは相手側の侵攻ルートが分からないので範囲を広げて網を張ろうという訳だ。頼りになる情報屋のはずが、正体を知らされてからは何とも締まらない胡乱な情報だけがもたらされているような気がする。


「まぁ待て、待つんだ。そんな目で先生を見るな。代わりと言っては何だが、情報……というか知識をやるよ、先生の特別授業だ。内容は、能力の再定義について」


「再定義……あたし達の能力を定義し直す? 能力を変えられるって事ですか?」

「能力それ自体は変えられない。でも、定義し直す事で使い方を変えられる。この中にももう成功してるヤツが居るはずだ。それも二人」


 そう言われて顔を見合わせたのは真田と日下の二人だ。この二人は戦闘の中で違う形にその戦闘スタイルを変えている。どうやらそれを指して能力の再定義と呼ぶらしい。


 真田はただ炎を発生させる能力だった所を、より細かく操れるように定義し直した。具体的には炎を小さくする事でその分だけ強力な炎に出来るようにした。

 日下は風の刃を操る能力だった所を得物に風の刃を纏わせてあらゆる物を強力な武器に変えられるように定義し直した。


「惜しむらくは二人共がリーチを短くして威力を上げるスーパー脳筋スタイルに変わっちまった事なんだが……」


「そう言われましても」

「考えてる余裕もありませんでしたし」


 全ては戦いの中の事だ。より高い威力を求めても仕方のない事ではある。確かに使いにくくなっている事は否めないかもしれないが。文句を言われてもどうしようもない事はこの世に沢山あるのだ。仕方ない仕方ない。


「センセー、俺もそれって出来るんスか?」


「んー……宮村はどうだろう、色々とあるんだよなぁ……そもそものセンスとか、能力がシンプルな方が良いとか。宮村の場合シンプルはシンプルだけど、発想の転換が出来るかどうかがなぁ。スタイルを変えるってより能力を拡張させるみたいなイメージの方が良いかもしれないな」


 宮村の戦闘スタイルは真田に叩き込まれたボクシングスタイル。強くなっていっているとすれば、それは愚直に言われた事を続けているからだ。無論、宮村が自発的に考えた結果の成長もあるが、なるほどそれはスタイルの変更と言うよりかは自分に出来る事を拡張したような感覚であると言えるかもしれない。即ち、再定義は宮村には難しいかもしれないという結論に至る。


「再定義について教えようと思ったのは他にももう一人、それが出来るんじゃないかと思ったからなんだよ。そのもう一人って言うのが……」



「なんか珍しい組み合わせよね」

「再定義の良い勉++強になるかもしれないから、と言われても……僕に教えられる事とか別に無いんですよね。感覚でやってる事ですし」


 夜の道に佇み、何とも怠そうな雰囲気を漂わせる二人。既に再定義に成功した真田と、出来る可能性があると言われた篁である。チームと言う形で動く事になったきっかけはこの二人の接触からであると言えるが、こうして二人で組んで行動する機会は今までに無かった。せいぜい店の中で二人で適当な話をするくらいだ。もっとも、組む機会が無いのは真田が前線で戦い、篁は後方支援をしながらマリアと組むパターンが基本だからであるのだが。


「あの安本先生、あたしらからすればイマイチどこまで信用して良いか分からないトコがあるのよね……正体知らない方が信用できるってのも変な話だけど、まぁ急に接触してきたんだからちょっとくらいは怪しんでも良いでしょ。でも、先生としてはそれなりに信用できる人なのかもね」

「僕はこの先生は大丈夫かと思う事がちょくちょくありますけど……まぁ、今回に関してはそうかもしれませんね」


 今回、作戦のチーム分けにはマリアは数えられていない。その理由は極めて単純明快で、マリアの深夜外出と戦闘行為は教育者として見過ごせないと安本が高らかに言い切ったためだ。真田達については自分を納得させてギリギリで認める。マリアにしても外出や戦闘を黙認するのは構わないが、自分が言い出した作戦で自分が口を出してそれをやらせる事は教師としての最後の一線を越えてしまう。だから許す訳にはいかない。


 そう言われてしまえば正直な話、納得するしかない。子供にホイホイと行動を許している事については篁や真田達も気にはしていたのだ。もちろんマリアは最後まで文句を言い続けていたが、とにかく、今夜はこうして珍しいコンビでの行動となった。


「……ところで優介クン? アレの事なんだけど……」


 篁が顎で指した先の存在は先程からずっと真田も視界に捉えていた。こんな場所で大声を出して呼び掛けるのも迷惑かと思ってそれなりに接近するまで放置していたのだが、そろそろ良いかもしれない。


「会った事ありませんでしたっけ」

「写真だけ」

「コミュニケーションに難はありますけど、悪い生物じゃないですよ」


 そう言いながら少し足早に距離を詰める。この暗闇の中でもハッキリと分かるそのピンク色のボディ。凶悪なまでの存在感。宙を泳ぐ虫すら近付く事を拒むその異形。


「こんばんは、ルミ子さん。何してるんです?」


「!」


 大きな体に似合わぬスピードで振り返ったルミ子は真田の姿を認めて目を物理的にチカチカと何度も輝かせている。そのまま動きを止めたかと思うと、少ししてから真田のポケットの中でスマートフォンがシュポっと通知音を発した。魔法使い関係の連絡はこちらに集めるようにしてある。


『いつもと違う場所までお散歩をしようと思って。』

『そうしたら武器みたいな物を持ってる人がいたので、』

『道を変えて離れて様子を見ようと。』


「怪しい人が居たの?」


『はい。』


 一緒に画面を覗き込んでいた篁が聞き直すと、やや間を空けてから短い返事が送られる。筆談でも会話に抵抗を示すとは、本当に筋金入りだ。


「……日下君の可能性もありますけど」

「あたしらの顔は知らないんだっけ。でもタイミング的には強盗犯の可能性が高い」

「言っちゃ何ですけど本当に居るんですね、銀行強盗」


 今この瞬間まで実は銀行強盗なんて居ないのではないかという可能性を頭の中に残していたのだが、どうやら完全に頭は切り替えなくてはならないようだった。戦う準備をしておかなくてはならない。

 そのためにまずするべき事は、戦う事の出来る状態を整える事だろう。


「ルミ子ちゃん……って呼ばせてもらうけど、あたし達はその人と……多分、その人と戦うつもり。だからここはちょっと、下がるか帰るかしてほしいの。ごめんね、お願いできる?」


 第三者であるルミ子は悪い言い方をすれば邪魔な存在だ。出来ればこの場は身を引いてほしい。目配せの必要すら無く篁が言い出せた程度には二人の間で共通の考えだった。


 しかし、ルミ子はこの場を後にするどころかむしろズイと身を乗り出してくる。そして、何故かシャドーボクシングのような真似をしてみせるのだ。


「え、えっと……?」

「まさか、一緒に戦ってくれるって言うんですか?」


 文字で表さなくともこれくらいの意思の疎通は出来るようになってきたのだが、それにしてもその解釈が合っているのかと疑うほどの申し出だ。何せ、ルミ子はこれまで戦闘を行なった事が無い。それなのに手を貸そうとしてくれているのだ。


 力強く頷いて見せるルミ子。どうしたものか。連携自体は問題ないだろう。戦闘になれば前に出るのは真田だ。ルミ子の能力がどのようなものであれ、彼女は真田の邪魔は決してしないだろう。何故こんな事になったのかは本当によく分からないが、それくらい懐かれているという自信がある。


 だからきっと一番の悩みは、ここまで戦わずに済んでいた彼女を巻き込んで戦わせて良いのか、だ。その責任を取れるのか。


 けれど、悩んでいる時間などそう長く存在している訳がない。時は決して止まらずに進み続けているのだから。


「!」


 足音が遠くから聞こえる。誰かが来た。関係ない人間かもしれない。だが、そうではなかったら? それならばタイムリミットだ。とにかくこの瞬間に決断して行動しなければならない。


「…………ルミ子さん、無理はしないでくださいね。ヤバいと思ったらとにかく逃げてください、僕らの事は気にしないで」


 ルミ子は頷いて返事をしたが、きっといざとなったら逃げないのだろう。変に好感度を上げ過ぎるとこんな時に厄介だ。

 腕輪に触れて、そして意識を集中させる。普段よりもさらに強く魔力を放出するようなそんなイメージを持つ。これによって、相手が魔法使いならば反応しない訳にはいかないはずだ。これは宣戦布告の他の何者でもありはしないのだから。


 そうして、敵はやって来る。

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