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暁降ちを望む  作者: コウ
プロフェッショナルの体育祭
307/333

13

 真田 優介は睨んでいた。


 誰を? と問われたなら、その対象は人ではないと答えるしかない。そもそも、人を睨むという行為は人生において可能な限りやらない方が良い。真田は少しばかりその機会が多く訪れてしまうのだが、それでも回数は減らしていくべきだ。


 世の中には色んな人が居る。親切な人も居れば、ちょっとばかりヤバいんじゃないかコイツ、といった人も居る。それでも、人間にはそれぞれ良い所や面白い所があるのだ。それを認めればどんな相手だろうと睨むべき対象とは思えなくなってくる。絶対の敵というものは、存在しないとまでは言わないが、極めて少ない。人生において一人、出会えば多い方だろう。二人や三人も出会うような人間はきっと、当人にも多大な問題があるに違いない。

 世の中は意外と悪い人間ばかりではない。ほんの少しでも前向きになれば、その事実に気付く事が出来て生きやすくなっていくはずだ。ここ最近、妙に人付き合いの機会が多かった気がする。そこで出会った全てが、何やら一癖があってまぁそれなりに楽しい出会いだったと言っても良い……かもしれない。


 さて、結局のところ何を睨んでいるのかと言えば、それは壁に掛けられたカレンダーである。物ならいくら睨んでも良いと思っている。体育祭も終わった今、改めてカレンダーを見てみると、本当にここ最近は突発的なイベントが発生してやけに予定が詰まっていた事に気付かされる。大変だった。本当に本当に大変だった。言うなれば交流の秋といった具合か。真田にとっては何よりもしんどい。


 ただ、良い経験にはなった……の、だろうか。この日々の経験をまた別の機会に活かせるかどうかを考えてみたが、どうも汎用性が低すぎる気がしてならない。ただ、少なくとも僅かな間ではあったが確かに役には立った。人生というのはこうして、最近あった出来事を思い出し糧にして問題を解決していくという繰り返しで進んでいくのかもしれない。人生は永遠に続く定期テストだ。


 カレンダーから視線を外す。テーブルの上には先程まで見直していた、返却された本物の中間テストの答案の束。結果は、まぁ、それなりだ。悪くない。


 そして、その横には一枚の写真も置かれている。これは体育祭の後、少ししてからクラスで配られたものだ。全ての競技と表彰式が終わった後で緑組全員が集められて撮影したものを印刷したらしい。全員分を印刷して無料で配るというのだから太っ腹と言うべきか。この際、小学校の遠足の写真のような感覚で希望者への販売形式にしてくれても良かったのではなかろうか。それならば真田も積極的にご遠慮する事が出来たかもしれないのに。

 いや、もしかするとそれでも買っていたかもしれない。こっそりと、誰にも気付かれないようにするだろうが。まぁ、それも良いではないか。最初で最後の体育祭、少なくとも子供の間に体育祭に参加する事はもうない。そんなイベント、少し特殊な形ではあるが色々と頑張ったイベントの思い出だ。一応は持っておきたいと思って何が悪い。


 首をゆっくりと一周回して、玄関へと向かう。夜、この後は出掛けなければならない用事がある。また今夜も定期戦が待っているのだ。絶対に遅れる訳にはいかない。と、そこで引き返してテーブルの上の写真を手にする。持って行って、それを見せながら体育祭の経験が無い彼女に話をしようと思っていたのだ。そのために先程は写真の方を見たはずなのに、それでも忘れるとはどうも集中が切れてしまっているらしい。これは、今夜は財布の中身を確認しておいた方が良さそうだ。


 出掛ける前にもう一度、写真を眺めてから玄関へ。優勝の賞状を掲げた団長と、その立役者となったリレーと二人三脚の選手を中心に集まった写真。それを見る目は、早くも履き潰してまたボロボロになったスニーカーを見る目によく似ていた。


「――あぁ、もう……きったねぇ」

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