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暁降ちを望む  作者: コウ
一歩踏み出す今日
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「さて、僕の右手には腕輪があります。この腕輪にはいくつか効果がありますが……実は、この腕輪には感知する能力もあるんじゃないかと考えています」

「感知ぃ?」

「この腕輪を着け始めて数日、たまに腕輪に違和感を感じる時がありました。慣れない物を着けているから違和感くらいあるだろうと思いましたが、タイミングを考えると不思議と言うか……ちょっとした共通点があります。僕は記憶力は悪くないつもりなので、違和感があったタイミングは全部覚えています」


 頭の中で違和感があったタイミングが次々と浮かんできた。それらは全てあるものの前触れのようであったと、今ならば気付ける。


「最初の違和感。これを感じた時には後ろから誰かが追って来ました」


 坊主頭の男、《海坊主》の足音は今でもハッキリと思い出せる恐怖だ。あの時は腕輪の事など少しも知らず、既に自分がこんな泥沼に足を踏み入れている事にも気付けていなかった。


「次の違和感。それはその次の日に、グラウンドで。そのグラウンドは前日、追われていた時に逃げ込んだ場所です」


 男と戦った場所。そこに授業でやって来た時には完全に非日常の世界に腰までドップリと浸かっていた。そしてそこで、初めて自分の願いを知る事ができた。


「次の違和感。その直後にはまた知らない人に襲われました」


 まだ暗くなったばかりの内から襲ってきたあの男との戦いでようやく、自分の使える魔法を利用した戦い方と言うものを理解した。


「そして最後の違和感。昨日……と言うか一昨日の教室で。いえ、厳密には最後じゃないです。今もずっと、感じてますから」


 ここから犯人が誰であるか、何者であるかという仮説を前提にして考えてみれば、違和感の理由が、そして感じるそのタイミングがよく分かる。その全てに共通する事柄と言えば一つしかない。


「敢えてハッキリ言います。この腕輪は魔法に反応するんです。最初は魔法使い、次は魔法の戦いの痕跡、次も魔法使い……最後も、魔法使いです。多分、魔法と言うか魔力みたいなものですね。戦いの跡は当然ですが、魔法使いは身体の補助のために使われてる魔力を感知するんだと思います。これも魔法使いを探すための機能なんでしょうか。僕は今になって気付いた事だったんですが……他の人がもっと早く気付いていても不思議じゃありませんね」


 もはや魔法だなんだの言葉の説明などしない。その様子は分かっているでしょう? とでも言いたげだ。

 喋り続けてヒートアップした真田は袖から腕輪を見せながら、もはや相手に相槌のタイミングさえも与えずに一方的に話し続けた。口を挟まず、表情も真剣なものになったきり変わらなくなった宮村が話の意味も分からずに呆然としているのか、それとも話の着地点が完全に分かって黙っているのかは真田には分かるはずもない。


「犯人は被害者の袖を捲りました。もちろん変なフェティシズムが理由かもしれませんが、僕からすれば腕輪があるかどうか確認した魔法使いであるって方がリアリティがあります。その魔法使いは僕や襲われた二人と同じクラスの人間です。そして、今日から行動を開始したって事は、昨日までの段階で何かがあったって事になりますね」


 結論は最初から決まっている。その結論に向かって着実に話は進んでいた。真田と同じクラスの人間であり、昨日までの段階で何かがあった人間。もはや範囲は広くない。


「その人はどこかのタイミングでクラスの中に魔法使いが存在する事に気付きました。僕が他の魔法使いに気付いた……と言うか、教室内で違和感を感じたのは昨日が初めてです。そう、僕達はお互いの存在に同時に気付いたんです。つまり、僕が腕輪を手に入れてから一昨日までは居なかったけど昨日は居た人、その人こそが魔法使いであり、犯人です」

「と言う事は、どうなるんだ?」

「……はい。まず一日目。出席番号三十二番、宮村 暁は欠席していました。この日の夜に腕輪を着けたので別に関係無いんですけど、ちょっと恨みがあるので敢えて言っておきます。二日目、次の日の日直が日誌を受け取る事になってますが、次の日の日直である宮村君が欠席だったのでその次の人が受け取りました。三日目、その日は宮村君が出席して日直をしてましたね。ちなみに、これがその《昨日》の話になります」

「――なるほど、ねぇ。けどさ、どうしてその犯人はわざわざ襲わないといけなかったんだ? その、感知ができるなら襲わなくても魔法使いかどうかは判断できるはずだ」


 その通り。ある程度の範囲に入れば、腕輪は勝手に反応する。今だって反応を続けているのだ。それは仮説に従うのならば魔法使いであるか否かを判断できているという事に他ならない。

 しかし、相手のその反論もすぐに切り捨てる。少しでも、ほんの一瞬でも言葉に詰まったら自分は押し切られてしまう事をハッキリと理解しているのだ。


「確かにその通りです。が、犯人は感知できる距離まで近付かなかった」

「どうして?」

「決まってます……相手が魔法使いだった場合、闇討ちが通用しないからです。自分も相手に気付かれてしまう可能性がありますからね」


そう、自分が感知できるという事は相手もまた自分の魔力を感知できるという事。だから不用意には近付けない。それだけで自分の考えが無駄になってしまうかもしれないのだ。慎重になってなりすぎる事はない。


「なので、感知できない、されない距離で尾行しながらタイミングを見て一気に距離を詰めて襲う。それで一応腕輪があるか確認すれば、これで通り魔事件の完成です」

「なーるほーどなぁ……ところでさ、俺は長い話って途中で訳が分からなくなるんだ。だからさぁ、ズバッと言ってもらおうか? つまり!」


「つ、つまり! 宮村君が魔法使いで、犯人だと、言ってるんです!」

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