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暁降ちを望む  作者: コウ
プロフェッショナルの体育祭
299/333

 真田 優介は考えていた。しかしあまり考え事をするのに適した状況ではないかもしれない。真田としては考え事は静かな屋内でしたいのだが、今はその真逆。随分と賑やかな屋外だ。


 体育祭当日。開会式を終えて最初の競技の準備を始めているグラウンドは本当に活気に満ち溢れている。体操着に身を包んだ全校生徒。あまり他者との交流が多くない真田としてはこんなにも生徒が居たのかと、少し驚く。

 体操着。もちろん男女共に下はハーフパンツ、あるいはジャージだ。ブルマなどという、今となっては半ば淫猥な気を放っているようにも思える衣装は存在していない。と言うか、そもそも真田は実物を見た事もない。しかし不思議だ。ブルマ、その存在を当たり前のように認識している。単に知識を持っているというだけではない。「この何とも可動域が広そうな心揺さぶられる履き物は何なのだ!」「そうか、これはブルマーと呼ぶのか!」などという経験が一切ないのだ。何故か最初から知っていたとしか思えない。


「ブルマは人間のDNAに刻み込まれている……っ!?」

「お前は何を考えてるんだろうな、マジで」


「ハッ――宮村君、いつの間に……」


 気付かぬ内に背後に立っていた宮村が何とも微妙な表情で真田の方を見ていた。だがこれは好都合かもしれない。今、真田はかつてないほど誰かに話をしたい、そんな気分なのだ。


「宮村君、僕は人類の重大な秘密に気付いてしまったのかもしれません……」

「いや、気付いてねぇから安心しな」


 バッサリ切られてちょっぴりしょんぼり。


「んな事よりもさ、実は……」

「DNAに刻み込む……ブルマは太古の昔、宇宙人が地球にもたらした物である可能性もあると思うんですがどうでしょう」


「いやだから、そんな話をしたいんじゃなくてだな。二人三脚の話を……」

「その話をするんだろうなと思ったから何とか逸らそうとしたんじゃないですか」


 何を言おうとしていたのかバレていると分かった宮村はつい口ごもってしまった。真田からすればこんなタイミングで改まって何かを言おうとされたら分からないはずもないのだが。どうせ二人三脚を頑張りたいとか、そういった話だ。無論、それ自体は決して悪い事ではないが、事情というものは色々だ。


「宮村君、上手い具合に加減するとかどう考えても苦手じゃないですか。力入れすぎるととんでもない事になりますよ」


「そりゃそうだし、分かってるけどさ……俺、やっぱ我慢できねぇよ。俺が馬鹿にされるのは良いんだ。お前が馬鹿にされるのは……まあ、別にそれも良いんだけど」

「ちょっと」


「喧嘩を売られたんだ。黒瀬との付き合いじゃいつもの事っちゃいつもの事だけど……それでも売られたからには買う。そんで、勝ちたい」


 宮村の目は呆れるほどに真っ直ぐだった。言っている内容は何ともアホらしいというか自由極まりないのだが。真田は思い切りガシガシと頭を掻きむしる。イマイチ説得できるような言葉を持ち合わせてはいない。だからと言って彼の言い分をこの場で認めるわけにはいかないので、結局はこんな事を言うのである。


「良いですか、宮村君の好きにさせる訳にはいきません。この話はとりあえずここで終わりです。僕は行きますからね。着いて来ないでくださいよ」


 強引に話を打ち切って、その場を立ち去る。これしかない。これ以上は話に付き合っていられないのも事実だ。軽く手を挙げて歩き出してみれば、言った事には素直に従ってくれたようで追いかけては来なかった。チラリと背後を見ると、その目はまさに捨てられた子犬。置いて行ってほしくはないが追う事も出来ない何とも切ない表情だ。だからと言って立ち止まって話を続けるつもりは毛頭ないが。


 そのままフラフラと歩き続けて、真田が訪れたのは他の縦割り組が集まって応援する場所。その辺りに居る生徒達は皆、赤い色のハチマキを頭やら腕やらに巻いて所属を強くアピールしている。ちなみに真田は緑色のハチマキをスカーフのような感覚で緩く首に巻いていた。とはいえオシャレ的な感覚などではなく、そのまま頭まで上げれば締め直す必要もないという利便性の追求だ。


 真田の交友関係はクラス内で固まっているため、縦割りの組み分けでは敵地である赤組の領土に足を踏み入れる理由はない。基本的には。ただ少し前、例外となる人物に出会ったばかりだ。


「お疲れ様です、児玉先輩」

「んあ? おお、優介か。おいすー」


 赤のハチマキを頭に巻いた児玉が振り返る。体育祭に対してやる気満々、といった様子だ。体育祭というイベントに対してこの姿勢で向き合える辺り、やはり真田とは種族が違うとしか思えない。正直に言って、真田にはこの盛り上がりが心の底から意味が分からないのだ。


「……えらい盛り上がりますね、体育祭」

「ああ、まあ……今年が最後の体育祭っていう学年が二つもあるからな。それだとどうしても盛り上がっちゃうワケだ」


 確かに、三年生はもちろん、いわゆる文化年である二年生も体育祭は今年が最初で最後の機会。全力で盛り上がらんとする気持ちは、そう考えると分からないでもない。もちろん、一緒になってその盛り上がりに乗っかるかどうかとなると別問題ではあるのだが。


「それにアレだよ。テストがさ、うん……」

「ああ……そういう……」


 中間テストは少し前に終了した。真田の手応えとしては悪くない。どうして手応えの話をしたのかというと、まだ返却がされていないので実際の点数が分からないのだ。テストを実施し、体育祭を催し、その後でテストの返却を行なう。そういうスケジュール。通称『最後の晩餐』である。結果に不安が残る者ほど、この日は余計にテンションを上げる。そう考えるとこの競技開始前から盛り上がっている体育祭……あまりに、あまりに痛々しい。


「まあ、良いんだ。もうすぐ散っていくバカな野郎どもの話はさ。それでどうしたんだ? 何か用がないとこんな所まで来ないだろ?」

「はい、僕ってイマイチ体育祭に興味なくて色々とよく知らないんで、ちょっと質問しようかなと。リレーがメインイベントなんですよね? 配点高かったりするんですか?」


「一昨年の知識で良いなら……多分同じだと思うし。確かトップが100点、二位が50点で30点、10点……だったかな? 普通は50、30、20、10な。ちなみに二人三脚は80、50、30、10だな。絶対じゃないけど、とりあえず一位二位は間違いない」


「はぁん……最低でも50点も追い上げられるんですねぇ、凄いなぁ」

「死ぬほど大負けしてない限りは逆転の目があって最後まで盛り上がるって寸法よ」


 最大では90点も差が詰められてしまうとなると、それはもう差を詰めるのではなく逆転していると言って良い。つまり勝ってる側も余裕がないので全力で勝ちにいかなければならない。そりゃ確かに盛り上がりを維持することだろう。むしろ維持しすぎてとても疲れそうだが。辺りはかなりテンションが高いのに、それを夕方まで続けようってんだからテスト結果の恐怖というドーピングも必要というもの。


「おっと、もう始まりそうだな。戻った方が良いんじゃないか? こんな所に居たら捕虜にされるかもしれないぞ? いやマジで、変なノリでやりかねないから。前回は他の組の奴を人質にして『最下位になれ! コイツがどうなっても良いのか!』なんて言い出すアホが実際いたから」


「無法地帯なんですか、この学校」

「いや、すぐに確保されてめっちゃ怒られてた」


 とりあえず法は生きているらしい。少し安心。


「そういう事なら、お暇させていただきます。頑張ってくださいね」

「おーう、お前もな!」


 軽く手を振って別れる二人。最初の競技が始まろうとしていた。

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