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暁降ちを望む  作者: コウ
絡み合う戦場
235/333

かざされたその手に、一瞬だけ力が入ったように感じられる。よく見ていないと分からない程度、ただの気のせいと言われたら納得してしまいそうな勘に近いものではあったが、真田はその勘に賭けて跳んだ。授業では恐る恐るでしかやった事の無い飛び込み前転、それをヘッドスライディングもかくやとばかりの勢いで行なうのだから、下手すれば戦う事よりも恐ろしい……と思い掛けたが、そんな思考を打ち砕くような背後の轟音。どうやら賭けには勝ったようであるが、それ以上に恐怖を植え付けられたような気もしないでもない。


(アレ当たったらどうなんの、普通に死ぬの!? ゲームバランス悪くない!?)


 普通に考えれば、落雷に当たると死ぬ。確定ではないが、少なくとも平然とはしていられないだろう。この戦闘状況下においては落雷で死んでも死ななくても同じだと言える。落雷の速度は光に比べると遅いが、まともに反応など出来るはずないという点では変わらない。反応も出来ない攻撃を一度喰らえば死んだも同じ、そんな無茶をされてしまえば無双状態だ。ゲームならばすぐにでもバランス調整のパッチ開発が発表されるレベル。ただ問題は、現実はゲームではないという事。バランス調整などありえるはずもない。


 もちろんこの雷が現実の雷とは違う、少しくらいはマイルドなものであるという可能性もある。が、それを確かめるのは命懸け。だからもう全部を全力で逃げ切るしかない。仮に個別撃破に打って出られていた場合、どうしても和樹と実和のどちらかに対しての意識が薄れてしまうだろう。そう考えると何とか二人で戦う事が出来て幸運だ。


 再び右手をかざして見せた和樹。来る、そう思った瞬間に少しだけ先程とは違う動きがあった。かざした手が少しだけ下に動いたのだ。まるで位置を調整したかのようなその動き、それを見た真田の頭に言葉に出来ない予感が走った。何がどうとは言えないがこのままではいけない、そんな予感。


(止ま……れぇっ!)


 靴裏をベタリと地面に着けて急ブレーキ。そのスピード、力強い走りが、まるで自分の体ではないかのように慣性を働かせて止まれない。必死にその場に踏み止まろうとしてつんのめった、その鼻先を掠めたのではないかと思うほど近くに雷撃が落とされる。これである。これが予感の正体。


(やっぱり、結構細かく落とす場所を指定できるのか!)


 和樹は真田が走って来るのを待ち構えて雷を落としたのだ。あるいはこの落雷、避雷針のようにターゲットになるものしか狙う事が出来ないかもしれない、それならば良いのにとは思っていたが、そんな希望は打ち砕かれる。思っていたより、いや、最悪の想像通りに便利な能力だ。すぐ眼前に落ちた雷の衝撃を、地面に埋め込まんばかりに両足を踏み締めて何とか堪える。吹き飛ばされてしまいそうになったが、せっかく詰めた距離を再び話されては堪ったものではない。

 そして再び走り出す真田。無事に走り出す事が出来た、この事実がまた一つの推測を生む。


(今、明らかに隙があったのに何もしなかった。二段構えで落としてれば確実に倒せていたはず……クールタイムは必要なのか?)


 そう思わせるための作戦である可能性も否めない。ただ、それを疑い続けていてはどんな行動も出来るはずがない。どこかで疑いと折り合いをつけなければならない。それが今だ。攻め時に退かない、敢えて深入り、罠があっても踏み壊す。そんな思い切りを見せる。


 それに対して手をかざす和樹は、その手をユラユラと上下に揺らしている。落雷はクールタイムを挟んで一発だけ、そのルールを読まれたと判断しての駆け引きだろうか。手前に落とすか、先程のようにそれを呼んで立ち止まる事を想定してもう少し奥に落とすか。ただこれは読み合いではない。和樹の行動に対して真田が対応するゲーム。つまり、敗れたならばそれは相手が優れていたのではなく自分が劣っていたという事をハッキリと証明してしまう。如何に自己評価の低い真田と言えど、その劣っているという事を目に見える形で表してしまうのは我慢できない。


(一……いや、二歩。二歩で近付ける位置までは頑張れ!)


 二歩とは言ってもただの二歩ではない。大股で跳ぶような二歩だ。それなりの距離は一気に縮められる。しかし、そうして跳ぶために助走の勢いは最大限まで高めたい。今から跳べば四歩で相手の元まで辿り着けるだろうが、最後の方にはスピードが落ちている事だろう。スピードを殺さず、かつ出来るだけ遠くからスタートする、そのギリギリが二歩。その差の大きな二歩分、一発か下手すれば二発の雷撃をやり過ごす。


(対応できるように、動きに注目できるように速度を落とすワケにはいかない。読み合いじゃないけど、ある程度は読め! 手前に落とせば足が止まる、足が止まれば攻撃の回数が増える! なら基本はそっち!)


 高速で駆けるその身よりもさらに遥かに加速した状態にある頭が打ち出したさほど深くもない考え。どれだけ脳が高速回転をしていたとしても深く考えている時間が無い。だが、決断までの時間が足りないのは誰もが同じ。勝負所は意外なほど思考が単純になる。

 とは言え極端な話、次の真田の行動を考えると読む必要は本当に無い。その理由は単純明快。和樹の手の位置が定まり、力がこもる。あるいは魔力が高まっている。その瞬間、真田は走り出した。既に限界に達していたギアをさらに一段階、強引に上げる。足を止めれば維持できないほどの前傾姿勢で地を這うように走る。仮に手前に落とされたとしてもそれを潜り抜けて行けるほど速く。


「嘘、はやっ……」


 少し動揺したのか素に戻った呟きが雷撃の直前に微かに耳に届く。どうやら手前に落とされたらしく、思いの外すぐ近くで起きた衝撃に肝を冷やしながらも、それすら推進力に変えて突き進む。気合で踏破しなければならない二歩を、普通に二歩走るよりも速く。


(もう一発撃てるか? いや、撃たせない!)


 最速で撃とうと既に構えている和樹を睨み付けながら、真田も手を打つ。右腕に先程まで封印していた巨大な炎を纏わせ、壁として両者の間を遮ったのだ。正確に位置を指定して攻撃が出来るという事は見えなければ適当に放つしかないという事。そしてクールタイムがあるせいでそれを許容する事は難しい。炎は単純に真田の姿を隠し、距離感をも失わせる。


 腕を振るい、炎を切り離す。魔力という燃料が尽きてすぐにでも消えてしまう炎であるが、その僅かな時間であっても壁を作りながら自由に動く事の出来るタイミングが発生する。ここが絶好機。


 幅跳びのように助走の勢いをそのまま片足に伝えて力強く踏み切る。壁を迂回するよう右前方、着地したらすぐさま左前方に跳ぶ。これで二歩。相手の背後を突くような形に……


「居ない……っ」


 そこに敵の姿は無く、ただ炎が消え去った熱気のみが残されていた。読まれた、そんな考えている場合じゃない思考が頭を占める。


「勝負を決めようとする時の思考は単純なものだ……そうだろう?」


 自信に満ちた声が真田の背後から聞こえた。もう考えている暇も無い、本来なら体勢を整えるべき状況であるのだが、そのまま着地の勢いを殺さず前方に跳びこむ。あくまで自分の意思だが、しかし傍から見れば着地地点に落とされた雷になす術もなく吹き飛ばされたような形だ。


 完全に不意を突かれたが、何とか回避は出来た。恥も外聞もなく手足をバタつかせて地面を転がる体を起き上がらせ、再び和樹と向かい合う。苦労はさせられた上に足まで止められてしまったが、どうにかそれに見合うだけのせいかは得られたように思える。ここからは戦い方次第だろう。


 だが、そう思った矢先に和樹は口を歪ませるような笑みを浮かべた。


「いや、見事だったよ、真田 優介……ここまで辿り着いた褒美に見せてあげよう、奥の手というものをっ!」


 グラウンド全体に響くような声で叫びながら、二人の間に巨大な雷を落とす。真田がやったように、それは一瞬ながら壁の役割を果たした。その後にも砂煙を巻き上げで視界に影響を及ぼす。

 わざわざ口にするほどの奥の手とは何か、この目隠しがそうだとでも言うのか。疑問が渦巻く中、砂煙が次第に晴れ、そしてそこから飛び出してきたのは――

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