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暁降ちを望む  作者: コウ
最強の
144/333

「さて、なーんかバタバタしちゃったけど、このまま解散ってワケにもいかないわね。記憶が新鮮な内にディスカッションといきましょうか」


 注目を集めて篁が宣言する。そもそもの目的は例の魔法使いを観察して情報を集める事。そして可能ならば戦った際に勝つための方法を考える事だ。妙なやり取りで時間を使っている場合ではない。ただでさえもう遅い時間なのだ。


「凄かったですよ、本当に魔法を消してましたね……真田先輩は直接何かあったんですよね? どうでした?」


 早く帰って眠りたいと思ったかどうかは分からないが再び挙手をして真っ先に発言した日下から真田へと質問が飛ぶ。宮村は一方的に攻撃しただけ、鴨井は魔法的な接触はしていない。つまり、しっかりと語る事ができるのは真田しかいない。

 のであるが、話を振られた真田は首を傾げるばかり。求められるような語りなど少しもできずにいた。


「う、んん……特別な事は無かったかな……こっちとしては何の感覚も無いけど、どんどん火が消されていくんですよ」

「何か魔法が無効化されてるなって思う事も無かったと」

「はい。まあ、正確な所は分かりませんけど。火も途中で自分で消しましたし」

「ふぅん……」


 篁からの問いにも曖昧な返事を返す。そう、真田には本当に何も言える事が無いのだ。確かに接触はあったのだが、火が消えていく時にも体や精神に異変は無い。もちろん自分の姿が見えるようになってしまった段階でもはや無意味であると考えて火を消したのだが、その先に何か変化があったかもしれないと思うと少しもったいないような気もする。

 相手の姿が見えるようポッカリと不自然に火が消えた事によって何らかの魔法の影響があったのだと何となく分かるのだが、それが結局どのような魔法なのかといったような肝心な所は僅かほども分かっていない。


 話し合いも一瞬にして行き詰まってしまったこの状況、それを切り裂く一つの声。それは極めて呑気な呼び掛けであった。


「ねーねー」

「ん? 何よマリア」


 話に付いて来る事ができているのかが常に不明なマリアは基本的に放置した状態で進めている。そのため、こうして急に声を出されるとこんな子供の呑気な声でも何事かと少し緊張してしまう。すぐに平然と返事をした篁は流石だ。


 テーブルに顎を乗っけた、ダレている事が手に取るように分かる姿に注目が集まるとその姿勢のまま、普段のような刺々しさの欠片も無い気の抜けた喋り方で彼女は疑問を口にする。


「魔法って使わないと使えないの?」

「はぁ? 何言ってんだお前」


 その発言に宮村が思わず首を捻った。使わないと使えない、同じような事を繰り返しているようでまるで意味が分からない。敢えて答えるならば、魔法を使うためには使わないといけないとしか言いようがない。

 しかし、恐らくそのような答えでは不服なのだろう。こちらが発言の意図を汲み取れずにいると機嫌が悪くなり始めている。どうもかなり眠いのかもしれない。


「だーかーらー! アイツが何かピンチになってたでしょ? 魔法を使わなくても使えるなら大丈夫じゃない」


 アイツ、と言うのは誰の事だろう。話の流れとしては先程戦っていた二人の内のどちらかなのだろうが、両方ともピンチには陥っていた。いや、正確には片方はピンチに陥ったのではなく完全に負けていたとも言える。それならば、この場合はキャンセラーの方を指していると考えた方が良いのだろうか。


 そうこう考えている内に、どうやらマリアが何を考えているのか理解したらしい一人の声が上がる。それは意外にも、まだ会話に積極的には加わろうとはしておらず一歩下がって話を聞いていた鴨井であった。


「――そっか、改めて魔法を使い直さなきゃならねぇのか」


 その言葉を聞いて真田にもようやく合点がいく。常に無効化の魔法が発動できているなら、魔法による攻撃でピンチになど陥るはずがない。結果的には無効化する事で脱したとはいえ一度は間違いなく追い込まれていた。それはつまり、あの時は魔法を使っていなかったという事ではないだろうか。理由が無ければ使い続けていた方が良いに決まっているのに、何故か。


 彼が魔法を無効化するためには、その度に魔法を使わなければならない可能性がある。魔法を使わなければ使えない。つまりはそういう事。


「なるほど……あの魔法には時間か何かしらの制限があるかもしれないわね。だからタイミングを合わせて使い直さないといけない……攻撃が目視できない暁クンと青葉クンなら戦えそうかしら」

「んんっ、確かに見えないんですけど……対応できなくもないんですよね。姿を見られない距離とか場所から攻撃できれば何とかなりそうですけど」


 宮村と日下に代わって答えたのは真田。彼は二人の戦い方をよく把握している。宮村の戦い方を変えたのは真田であるが、フォームを固めさせた事によって風弾の出所はより分かりやすくなっている。日下にしても、刀を振る事によって攻撃は予測できる。完全に防いでしまえる方法があるなら怖い事など何もないのだ。

 故に攻撃をしている姿さえ見えなければ攻撃それ自体も見えないため隙を突く事が充分可能である。が、それにはあまりに当たり前な問題が存在している。


「見られないって、こっちの姿が見えないって事はあっちの姿も見えないんだろ? それに俺のパンチは二十メートルだぜ? あんまり離れたら戦えねぇ」

「俺も、詳しくは分かりませんけど宮村先輩より長い距離では戦えないと思います」


 姿も隠せず、二十メートル以内となると気付かれずに攻撃する事などできるはずもない。正確に言えば一度だけなら不意打ちと言う形で攻撃自体は可能だが、その一度だけで確実に倒せるかと言えば分からない。分からない上にその後が続かないとなると作戦とは呼べない。


「んー、だったら隙を……効率も考えて……危険性も……あぁもう、難しいわねぇ」


 篁が考え込み始めてしまっている。何となく口から零れ出ているのは如何にして隙を突くか、より効率的に攻撃を、そしてできるだけ危険性は低くと言った所だろう。ジャブ程度に口にしたものとはいえ自分の考えが即座に却下されたので次なる作戦を考えているのだろうが、元気なものである。真田も普段なら同じように考え始めるのだろうが、今はもう無理だ。すぐにでも家に帰って眠ってしまいたい気持ちでいっぱい、必死に頭を回したくなどない。


 そのような状態なのはもちろん真田だけではなかった。ガタンと音がした方に視線を向ければ先程からずっと眠かったのであろうマリアがテーブルに突っ伏してすっかり眠ってしまっている。限界だ。考えに耽っていた篁も思わず苦笑いしている。


「ふぅ、マリアも流石におねむ、か……」


 よくよく考えてみる必要すらなく、とっくの昔に日付は跨いでしまっている。こんな子供が、もっと言えば真田達だって起きて出歩いて良いような時間ではないのだ。マリアの姿を見てみんなも疲れを思い出したのだろう、少しだけ空気が弛緩し始めた。これ以上はちゃんと話し合いなどできそうもない。


「今日はもうお終いにしましょうか?」

「そうね……そうしましょうか、今日はもう解散で!」


 真田の提案を流石に話し合う気も薄れたのか受け入れた篁は、最初に注目を集めた時のように両手を打ち鳴らして宣言した。

 しかし、その音と声が意外と大きかったせいか、浅く眠っていたマリアが大いに驚きながら飛び起きて周囲をキョロキョロと焦って見渡している。何とも可愛らしい、愉快な姿であった。

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