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暁降ちを望む  作者: コウ
最強の
141/333

(何が……っ! 来たのか!)


 一体どこで、一体誰が。真田には分からない。つまり戦闘は死角で行なわれている。方向は何となく分かるので隣のビルへと大きくジャンプをして飛び移る。危険な行為であるが、今の自分にならばそれくらいは可能であると分かっている。


 飛び移った瞬間、魔力がまた一段と大きくなる。そして直後、ドカンと大きな音が響いた。例の魔法使いならばそのような音を発する事はできないだろう。となると、本格的に戦闘が始まっているという事。


 気付かれぬよう姿勢を低くしながら戦闘が行なわれている現場を探し出す。見付ける事それ自体はそう難しくはない。暗い道に二つの人影が向かい合って立っていた。その二人の周囲からは膨大な魔力が感じられる。状況から考えても発生源はここしかありえない。ふと視線を上げて他の建物の上を見てみれば、そこにも二つ並んだ人影が。恐らく篁とマリアだ。他のメンバーもしっかりとこの現場を観察している。

 再び視線を路上の二人に向ける。暗いのでハッキリと見えるのではないが、シルエットから察するに、二人共が男だ。目を凝らせばもっとよく見える気がする。


「あ、あれは……っ」


 ずっと待っていたので暗闇に目は慣れている。だが、よりハッキリと見ようと思うと大変だ。ジッと見詰めて、微かな光を集めるようイメージをする。それによって、より視覚の強化ができるのだ。


 少しずつ姿が鮮明に見えるようになってきた男の片方は手に大きな石のような物を持っている。何をしようというのか分からない、もしかすると投擲でもしようというのか。もう一人の男の後ろには石――大岩が存在している。身長を越える直径の、映画で遺跡探索をしていたら背後から転がってくるような大岩だ。恐らく先程の音はその岩が落ちた時に発せられたもの。これはあくまで推測なのだが、石を手に持った男はその石を出現させたのではないだろうか。つまり、空間に自由なサイズの石を出現させる土属性魔法。投げやすいサイズの石を手に持ち、そして敵の頭上には大きな岩を出現、落下させたのだ。一人であらゆる方向から時間差のある攻撃を仕掛けられると考えるとなかなか面白いのではないだろうか。


 だが、そのような魔法使いは目的とはしていない。目的は《キャンセラー》だ。ならば、岩を背後にしたもう一人の男が《最強の魔法使い》となる。その姿を視界に入れた時、真田は大きく目を見開いた。


「――誰、だ……」


 違う。あの時に出会った男ではない。野性を剥き出しにしたような鋭い目付き、身に纏ったその空気感は、あの男の不気味に柔らかい雰囲気とは似ても似つかない。どこからどう見ても、別人。

 《最強の魔法使い》というのが、今この視線の先に居る男ではないとする可能性もある。たまたま、この場所で関係の無い魔法使いが戦闘になったというのも充分にあり得る話だ。


 しかし、そんな真田の考えを嘲笑うかのように、目の前の男はそれを否定する。もう一人の男が手にしていた石を投げつける。集中して見れば充分に目で追えるスピードだが、本来ならば目にも留まらぬような、凄まじい威力を感じさせるスピード。


 石とは言ってもそれは魔力の塊。真田ならば回避するか、炎で魔力として相殺するかの二択となるだろう。それに対して男は、スッと左手を伸ばした。まるでキャッチでもしようかというように手のひらを向けている。しっかりと飛んでいるコースに合わせて伸ばされた手に、石はぶつかろうとした、その時だった。

消滅。手に当たった様子もない。あれだけのスピードで飛んでいたはずの石は、跡形もなく消滅してしまったのだ。前述の通り、石もただの魔力。消滅させる事は不可能ではない。真田の想定では炎をぶつけて消滅させた。だが、男はその素振りを見せていない。当然のように伸ばした手で、当然のように消滅させている。


 当たり前の事なのだが、一切魔法を使っていない訳がない。魔法は使っているのだ。ただひたすら、それを感じさせないほどに自然だった。その自然に魔法を消滅させた事を、敢えて言葉で表現するならば何だろう。


 《魔法の無効化》、そんな言葉に尽きるのではないだろうか。


(そんな、馬鹿な! 別人だ、どっからどう見ても! そんな……魔法を無効化できるような魔法使いが何人もいるのか!?)


 冗談ではない。魔法を無効化するなどそもそもからして無茶な能力なのだ。そんなものが二人も三人も存在しようものなら、ほとんどの魔法使いがその力を封じられてしまう。この戦いには絶望しか残されていないではないか。

 魔法を無効化する《キャンセラー》と土属性の男の戦いは続いている。戦いが続くというより、この男がよく粘っていると言った方が良いだろう。男の攻撃はその全てが無効化されて有効打どころか掠りもしていない。徐々に距離を詰めようとするキャンセラーは、その能力にそれほど驕らず戦っているように見える。勝利パターンに乗せるため接近しようとするのだが、強引に接近はしない。ジリジリと少しずつ歩み寄るのだ。それがまた、よりプレッシャーを与える効果を持っているかもしれない。


 時に石を投げ、時に岩を降らせ、時に足元に岩を出現させる。持てる力を使って、ありとあらゆる方法で攻撃を繰り出すのだが、やはり伸ばされた手に触れるより早く、全てが無効化されてしまっていた。


(強い……強いって言うか、無茶苦茶だ……)


 あるいは、驕っていないのではないかもしれない。むしろその正反対、キャンセラーのゆっくりとした接近は余裕の表れであるという可能性もある。攻撃をしてみろと、何も通用はしないと、そう言わんばかりの動作なのだ。そして全てを消し去り、相手の心を侵し喰らい尽くす。まるで悪魔のような。ある意味、最も魔法使いと呼ぶに相応しい戦い方だ。


 男はなお足掻く。キャンセラーが前進しようとしたタイミングに合わせて、これまでよりも強く石を投げたのだ。歩こうとした矢先の事、反応が少しだけ遅れて手がピクリと動いた。しかし、その僅かな反応の遅れが魔法使いの高速戦闘では命取り。どうやら無効化するタイミングを逃しつつあるようだ。飛来する石を無効化するのではなく、身を翻して回避しようと試みるキャンセラーであったが、その瞬間、彼の左右に巨大な石が落下して回避先を塞いだ。


 真っ直ぐに飛ぶ石と、両脇を封印する岩。極めてシンプル、かつ有効的。抜け出す方法はいくらでもあるだろうが、勝負は一瞬なのだ。今すぐできる方法でなければ意味が無い。この石は真っ直ぐ、彼の胸を貫くだろう。一撃必殺となるかは分からないが、大きなダメージを与えた上に攻略法まで確立する事となる。右手側の岩に手を突いて体重を預けるように立ちながら飛んで来る石を睨み付けていたキャンセラーはもはや風前の灯火。


 かと思ったが、彼は強かった。男の体が右側にグラリと傾く。そう、消えていた。彼の横に鎮座していたはずの岩がである。魔法の無効化。そこに回避先が生まれてしまったのだ。勝負は一瞬。たった一瞬で、彼は完全に風上に立った。


(本当に消してる……あれがキャンセラー……最強の、魔法使い)


 真田は戦慄する。魔法を無効化する、その力のあまりの凄まじさに。戦っているのは人間だ、ミスはするし虚を突かれる事もある。どんなに強い相手でもそこから勝利を手繰り寄せる事は可能だ。

 だが、この男はそんな隙すらも後出しで埋めてしまうのだ。攻撃を直接無効化して、あるいは無効化する事で自らに有利な状況を作り出して。単純に万能魔法を用いた力押しではない。状況に合わせて適切に使用する事ができる。


 無効化能力と思考の瞬発力。この二つを手にした彼こそは間違いなく、《最強の魔法使い》と呼ばれるべき存在なのである。

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