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ひとしきり笑って、篁が手を二度叩いて鳴らす。そうすると笑い声が徐々に小さくなって、まるで授業が始まる時の教室のようである。
「さぁて、各々の自己紹介も終わった所だけれど……当面の目的はどうしましょう。ひとまずは様子を見ながら他の魔法使いの情報を集めたいと、あたしは思ってる」
自分達から好戦的に動きはしない姿勢。それ自体は真田も望む所ではあるのだが、今ばかりは状況が違う。宮村達三人の前だったらもっと堂々と意見できたのだろうが、協力者とは言っても顔を合わせたばかりの三人の前。おずおずと挙手しながら提言しようとする。
「あのー……その、ちょっと、良いですか?」
「仕方ないから聞いてあげても良いわよ! 言ってみなさい、優介!」
「……あ、うん」
真田の口調は年下相手仕様のタメ口。しかしあちらもなかなかの上から目線で名前を呼び捨てにしてくるものだから少しだけ引いてしまった。
「えっとですね、実は僕達、今日ある魔法使いを探してまして……できればそのサイトを使ったり探して倒すのを手伝ってもらえたらと、思うんです。えっと、はい」
「魔法使い……探しても見付からないの?」
「はい。あ、いや、まだそんなに沢山探したワケじゃないんですけど……このサイトを使って聞き込みとかできたら便利だなー……なんて」
探しても見付かるかどうか分かったものではない相手を探す。そんな苦行を続けようとしていた真田達にとってこの《Wizard’s Net》の存在は渡りに船だ。
そんな提案を聞きながら少し考えるように唇に触れていた篁は、その後に頷きながらパソコンの前を陣取った。
「ふぅん……ええ、良いわよ。情報収集はお手の物だし、あたし達が協力するって姿勢も見せておきたいしね。特徴を教えてくれる? ああ、あと、風見市周辺で良いのね?」
「あ、ありがとうございます! はい、この辺り……最大でも県内だと思うんですけど。顔はイマイチ特徴に乏しい感じなんですけど、右目の下にホクロがあったはずです。僕が会った時は赤いシャツを着てて……多分、体温をメチャクチャに上げるような魔法を使うんだと思います」
「はーいはい、なるほど……オッケ、すぐに……とは約束してあげられないけど、確実に情報は集まってくると思うわ。楽しみにしておいて」
入場パスを入力していた時とはうってかわって人差し指一本でノロノロと文字を入力している篁。画面上の入力欄には県内の、風見市周辺を指定して真田が口にした特徴を記し「情報求む」という言葉で締め括られた文章がゆっくりと完成して、掲示板に書き込まれた。
確かにその文章が表示されている事を確認して、四人は少しだけ喜びを露わにした。それが例の魔法使いが見付かりそうだからか、無駄に歩き回る必要がなくなったからなのかは知る由もないが。少なくとも真田は両方だった。
パソコンの電源を落として閉じ、全員の顔を見渡しながら早くもすっかり纏め役のポジションに落ち着いた篁が口を開く。
「今後は話し合いの機会を持つ度にこの店に集合ね? 閉まってる時は勝手に入って良いから」
「今後は話し合いの機会を持つ度に私の城は占拠されるワケだね? まあ良いよ、いくらでも使いな。表の鉢植えの底に鍵が貼ってあるから。その鍵を使って看板の裏にコッソリ付いてる箱を開けると店の鍵がある」
まさかの二段構えである。セキュリティがしっかりしているような、そこまででもないような。ともかく勝手に店に入る事は可能らしい。合法侵入だ。
その事を全員が確認した所で篁がグラスを手に取り、カランカランと溶けかかった氷を鳴らす。表の扉へ視線が向いていたみんなが再び彼女を見る。すると、その意図はどうやら一人残らず通じたようだ。全員が自分のグラスを手に取る。
アイスコーヒー二つ、アイスティー二つ、かなり減ったオレンジジュース一つ、さらに減ったカフェオレ一つ。たった今、小さなコップに注がれた水道水が一つ。
「それじゃあ、グラス持ってー? 話も纏まった所で……かなり減ってる人もいるけど、あたし達の益々の発展を祈って、かんぱーい!」
号令に合わせて、各々その言葉を口にしながらグラスが高く掲げられた。
実行部隊五人、司令官一人、協力者一人。
ここに、魔法使いの寄り集まりを越えた、最初の《勢力》が誕生したのだった。




