当たり前の登下校
一緒に登下校をしている女の子と男の子のお話
私には小学生のころから一緒に登下校している友達がいた。その子の名前は晴太君、晴太君は不思議な子でいつも独りぼっちでいた。でも、いつからか自然と一緒に登下校するようになった。
「晴太君は独りぼっちで寂しくないの?」
ある日、気になっていたことを晴太君に尋ねてみた。晴太君はいつものように一言も声を発せずに首を縦に振ってこたえた。
「そうなんだ」
晴太君とは学校ではしゃべらないけれどほとんど毎日登下校していた。特に何も話すことはなかったけれど一緒にいるとなんだか落ち着いた。小学校の高学年にもなると人間関係もいろいろ変わり始めて疲れているときでも晴太君といると安心できた。
「もう少ししたら中学生だね」
晴太君は頷いた。
「晴太君とは同じ中学校だよね」
縦にこくりと頷いた。もうすぐ春がやってくるけれどまだまだ寒くて自分の吐く息が空中で白くなっていく。
中学校になったらもう晴太君とは一緒に学校に行ったり、帰ったりはできなくなるのかな。それは怖くて聞けなかった。中学生にもなれば私といるのが嫌になったりするのだろうか、それは寂しいけれど晴太君が嫌なら仕方ないなと思った。
「バイバイ、晴太君」
晴太君はいつものように無言で私のほうに手を振った。晴太君の後姿を見ながら後何回晴太君と帰れるのかなとなんとなく思った。
あれから卒業式があって私は無事中学生になることができた。
少しぶかぶかのセーラー服を着て家を出た。中学校は小学校よりも少し遠い。
小学校までは家の近所の角を曲がったところでいつも待ち合わせをしていた。だけど今日はいないだろうなと思っていた、けれど見慣れた後姿を見つけた。
「・・・晴太君?」
呼びかけると学生服を身にまとった晴太君が振り向いた。学生服を着ているだけでこの間よりも大人に見えた。
「待っててくれたの?」
尋ねるとこくりと頷いた。
私はてっきり中学生になったら別々に行くのだと思っていたのでうれしかった。
「ありがとう!」
そういうと晴太君は今まで見せたことのない笑顔を見せてくれた。驚いて私は大声で「笑った!」と言ってしまった。
「晴太君が笑った!」
笑顔はほんの少しの間だけでまたいつものように無表情になった。私を置いて行って足早に歩いて行った。
「私、もう晴太君と一緒に学校に行けないかと思った」
晴太君は首をかしげて不思議そうに私を見た。
「だって、中学生になったらもう私といるの嫌なのかなって思って」
「約束」
「えっ?」
「約束したから」
「嘘?いつ?」
「・・・・」
約束なんてしたんだろうか。私は完璧忘れ去ってしまっていた。
「あっ思いだした」
昔、この辺に住んでいるのは同学年で私と晴太君の二人だけだったのだ。それで友達と帰れないのが寂しくて泣いていたら晴太君が一緒に帰ってくれたんだっけ。
「思い出したよ、晴太君」
これからも一緒に登下校できると思うと心の底から嬉しかった。
「これからもよろしくね」
そういうと晴太君はこくりと頷いた。