夕日と傷跡
いじめられていた親友を助けることのできなかった人のお話。
君はいつも黙ってうつむいたまま耐えていた。
私は気づいていた、君の我慢はもう限界を超えそうだったことに。だけど卑怯な私はそれに気づかないふりをしていた。
昔は仲が良くて一番の親友だった。成績優秀で顔もかわいくて、性格もよくて皆に好かれている君と親友だったことは私にとっては数少ない自慢の一つだった。でも、私はどこかで劣等感を抱いていた。
中学校に入学しても仲良しなことは変わらなかった、でも君はある日突然いじめられ始めた。
最初は靴を隠したり、からかったりとかだった。しかしだんだんエスカレートしていって次第に無視されたり時には暴力を振るわれたりしていた。
私は臆病な人間だから表だって君を助けることなんてできなかった。
「大丈夫?」
放課後、傷だらけの君を見て私は言った。君の体は痣や擦り傷でいっぱいだった、それでもいつも笑って言うんだ。
「大丈夫、ありがとう、心配しなくていいよ」
その言葉に甘えていた。大丈夫なはずなんてないのに、少し考えたらわかることなのに。
「よかった」
毎日のようにこんな会話を繰り広げていた。
だけど、それも長くは続かなかった。すぐに私はいじめグループの人たちに目を付けられた。
「お前、あいつと仲いいよね、あいつの味方なの?」
「・・・」
私は何も言えなかった。
「どっちなんだよ」
「・・・わからない」
「はあ?自分で分かんないの?あんたこのままだとクラスで浮いちゃうよ?」
「えっ・・・」
いじめっ子は嫌みな笑みを浮かべて問い詰めた。
「それでもいいの?」
クラスで浮きたくなかった、せっかくクラスの中でも仲のいい子ができ始めていた時期で毎日学校に行くのが楽しかった。もともと友達の多い方ではなかった私にはうれしいことだった。
「嫌だ・・・」
私はとうとう君を裏切ってしまった。その言葉を聞いていじめっ子たちは満足そうに帰って行った。
靴箱に行くといつものように君が待っていた。
「一緒に帰ろう」
笑顔で話しかける君を無視して私はそのまま早足で帰って行った。ふと振り返ると夕日の色に染まった君の顔は深く傷ついた顔をしていた、振り返らなければよかったと後悔した。
次の日、学校に行くと君は私の靴箱の前で立っていた。
「ねえ、昨日どうしてあんな態度をとったの?」
「・・・・」
「・・・何か言われたんだね」
何も言わないことを肯定と受け取ったのかそれ以上は何も問い詰めてこなかった。
「そっか、仕方ないよね・・・誰だっていじめられている人と仲良くなりたくないよね」
その言葉がちくりと心に突き刺さった。
「今までありがとね、楽しかったよ」
そういって足早に階段を上がって行く君の背中をぼんやりと眺めていた。
その日から私は君と話すことはなくなった。いつもいじめられている君を遠巻きに見ていた。
一度だけトイレでいじめられている君を見かけた、目があったとき胸がどきりとした。何も言わなくてもいいたちことが伝わってきた。
『助けて』
でも、それを無視して私はその場から離れた。
その翌日、君は死んでしまった。自分で自分を殺したのだ。
机に飾られた黄色い菊の花を見ても、集会で先生によって伝えられた時も実感はわかなかった。
葬式に参列して君に献花するとき、ようやく君が死んだことを理解した。君の死に顔はとても死んでいるようには見えなくて名前を呼び掛けたらすぐに起きそうな気がした。
涙が一筋頬を流れた。流れ始めたらもう止められることはなかった。
「ごめんなさい、ごめんなさ・・・い」
もう届かない懺悔の声を小さくこぼした。こんなことを言ったって君が戻ってくるわけないのに、私は壊れたロボットのように同じ言葉を繰り返していた。お礼を言うのは私の方だった。
もし私がもっと勇気のある人間だったら君を救えていたのだろうか。もし私がトイレであったとき助けてあげていたなら結果は違っていたのかな。
私だって結局いじめっ子と変わらなかった、遠くで君をいじめていたんだ。
傷だらけの君は痛々しくて今にも消えてしまいそうな危うさだった、今でも夕日を見ると君を思い出して涙が零れ落ちる。