6話 侵入
更新が遅くなってすいませんでした。
第一章は、あと2,3話で終わる予定です。
第一章最後まで全力で書いていきます。
「では、王城には今夜行こう。仕事が終わった頃を見計らって私が来るから、店の前で待っていてくれ」
そう言うとレイルカは足取り軽く去っていった。
「本気で王城に行くつもりなのか……これは腹をくくらないといけないな……」
急な話で理解が追いつかないキリだったが、彼にとって幸運だったのは、レイルカのおかげで自分の心が固まったことだ。
「あこがれていた世界を救う旅の始まりなんだ。ウジウジしてるのは俺の性分じゃない。やってやるさ」
少し遠くに見える王城を見ながら、キリは覚悟を決めたのだった。
その夜。レイルカは仕事が終わったちょうどその時にやって来た。
「やあ、キリ。いい夜だな」
「王城に忍び込むには月が明るすぎる気がするけどな」
夜空には満月が浮かび、明かりがなくても歩けるくらいだった。
「忍び込む? おかしなことを言うな、君は。天使である私がそんな盗人のようなことをするわけがないだろう」
「は? まさか正面から入るつもりか? 城の正門には衛兵の詰め所があるんだぞ」
「私は天使だと言っただろう。君は何も心配する必要はない。私についてくればいい」
「それはそれで男として情けないところがあるが……」
「安心しろ。君が自分は弱いと思うなら、旅の道すがら私が鍛えてやろう。最終的には私の隣で戦ってもらうのだから、少しは強くなってもらわないと困るしな」
「隣で戦う、か」
「さあ、早く行こう。冒険の始まりだ!」
レイルカに手を引かれ、キリは夜道を歩き出した。
「ほら見ろ。衛兵がうろついてるじゃないか。俺が使った地下通路を使った方が安全だ」
「まだ言ってるのか、君は。君には私が天使であるということを認識してもらわないといけないようだ」
歩き始めて10分ほど。2人は王城の正門前近くの草むらに隠れていた。城壁の周りを衛兵が巡回し、正門前には衛兵が2人立っている。正面から入って行ける隙などどこにもない。
「行くぞ、キリ。私についてこい」
「バカ、姿を見せるな。応援を呼ばれるぞ」
『眠れ』
決して大きな声ではないのに、体中に響く凛とした声。普段のレイルカの声ではなかった。レイルカが発した声は、数日前にあの人だかりの中心で発したそれと同じだった。
「さあ、邪魔者はいなくなった。行こう、キリ」
「ちょっと待ってくれ。今何をしたんだ? 衛兵がみんな眠ってる。魔法でも使ったのか?」
「魔法ではない。天使の力だ!」
「いや、説明になってないから。冗談抜きで何をしたんだ? ただ、眠れって言っただけに見えたんだけど」
「その通りだぞ。ただ、声に神気を乗せただけだ」
「神気って、神とか天使とかが纏ってるオーラみたいなものだろ?」
「少し違うな。神気は君たち人間が持つ魔力と基本は変わらない。魔力を乗せた声で呪文を唱えれば魔法が発動するだろう? 私はそれを神気でやっただけさ。私たちは神言と呼んでる」
「神言……レイルカってすごいんだな」
「ふふん。君もようやく私が天使だと言うことを認識したようだな。さあキリ。行くぞ!」
嬉しそうに微笑みながら歩き出すレイルカを、キリは少しの間見つめていた。
ご愛読ありがとうございました。