11話 スイ・リストー
新キャラ登場です。
「へえ、これが水の国に降る雨か。ちょっと黒いし、変なにおいがするな」
「『カガク』の発展の代償だな。今は改善されているだろうが、『カガク』の発展と環境汚染は切り離せない関係だからな。一度汚染された環境は長い年月が経たないと元には戻らない」
「もしかしてこの雨を浴びるとまずいか?」
「私は勧めないな。早くコートを着た方が君のためだ」
2人は水の国の通りを歩いていた。レイルカがコートを着ているのと対照に、キリはコートを着ずに、雨に降られるがままでいた。砦を通過する際、2人は防水処理を施されたコートを渡された。門番いわく、雨のときはこれを着るように、である。
「そういうことなら、あの門番の人も教えてくれればよかったのにな」
「君のような、雨に濡れても構わない人間が少ないというのは、私でも想像できることだぞ。ちゃんと着たか?」
「これでいいのか? 服の上からだとちょっとごわごわするな」
「慣れれば気にならなくなるさ。さて、そろそろ来てもいい頃だが」
「誰か待ってるのか?」
「この国の国王さ。今は女王かな」
「へえ、この国は女性が王なのか。でもあれだな、レイルカって仕事とかすぐ片付けるタイプなんだな」
「ん? どういうことだ?」
「王に謁見するって相手方に伝えてあるんだろ? 俺の知らない間にいろいろやってるんだなって思ってさ」
「そんなことは伝えてないぞ? 私は向こうが迎えに来るのを待っているだけだ」
「はあ!? 伝えてないのかよ! そんなんで迎えに来るはずないだろ」
「迎えに来るさ。向こうは私たちがここにいることをすでに知ってるだろうしな」
「こっちが言ってないのに知ってるわけ……」
キリが言い終わらないうちに、2人が向かっていた方角から、黒い箱のようなものがやって来るのが見えた。
「レイルカ。あれはなんだ?」
「確か、『ジドウシャ』と言ったかな。『カガク』で生み出されたものだ」
「俺たちの方に来てるってことは」
「あれが迎えだな。やれやれ、体が冷えてしまった」
『ジドウシャ』は2人の前で音を立てずに止まった。2人の前には大きなドアが1つ、前の方に小さいドアが1つあった。すると、前のドアから1人の男が現れた。
「レイルカ・ナーディス様とそのお連れの方ですね。ようこそおいでくださいました。中でスイ様がお待ちです」
そう言うと男は大きなドアを開けた。無言で乗り込むレイルカの後にキリも続く。『ジドウシャ』の中は、高級そうなソファが2つ、向かい合うように置かれていた。その1つに1人の女性が座っていた。
「スイ・リストーです。お会いできて光栄ですわ、レイルカ様」
「君が今の国王か。女王と言った方がいいか?」
「どちらも言われ慣れておりませんので、所長と呼んでくださいな」
「所長、ね。君がいいならそう呼ばせてもらおう」
レイルカが臆面もなく話すのに対し、キリは緊張しっぱなしだった。スイ・リストーという女性は、キリの目から見て、美人の部類に入り、物腰も丁寧で、男としてはどこかそわそわしてしまう雰囲気の持ち主だった。
「キリ、そんなにそわそわするな。元王子だろう? 外交だと思ったらいい」
「無茶言うなよ。俺は国政に携わったことなんてないんだ。お前は天使だからいいのかもしれないけど、俺は知らないことばかりで落ち着かないんだよ」
「キリさん、でしたか。初めましてですね。スイ・リストーです」
「あ、ああどうも。キリ・ルイスです」
スイに正面から見られて、キリは動揺しながらあいさつを返す。それを見ていたレイルカが言った。
「君、何かキリにしたのか?」
「いいえ、何も。ただ、王という地位にいるので、こういうことに慣れているだけです」
「……君たちが使う魔術や『カガク』については、私も知らないことの方が多い。だが、これだけは言っておくぞ」
「なんでしょう」
「キリに手を出すな。彼はこれから私が鍛えてやらねばならない。それまでは私が彼を守る。キリに手を出すと言うことは、私を敵に回すと言うことだ。それはお互いに避けるべきことだと思うが?」
「その通りですわ。ただ、私から1つだけ言わせていただくのなら、私の行動の全ては、知的好奇心からきています。邪推する必要は全くありませんよ」
「……まあいい。こんなことを話すために来たのではない。スイ、私と共に」
「旅に出よう、ですか。お断りします」
第2章では、現実世界で登場する言葉や物がそこそこ出てきます。この作品の設定では、その言葉や概念、物は存在しないので、それらが出てきたら、全てカタカナで統一しています。読みにくいと感じさせてしまったら申し訳ないです。
今回は新キャラが登場しました。容姿や年齢などの設定を、本編で書こうとしたら、自分の計画性のなさのせいで書けなかったので、この場を借りて書きます。
スイ・リストー、女性。19。、身長はキリより少し低く、髪は肩にかかるくらいの長さで、薄い水色。めがね着用。行動は全て知的好奇心からくる。物事を冷静に見れる人物。
こんなところです。もしかしたら変わったり増えたりするかもしれません。
では、次話でお会いしましょう。
ご愛読ありがとうございました。