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<4>

マイヨールは大きく息を吸い込むと水中に潜って行った。水は最初透明だったが、陽光が届かぬ深海になると、深い黒に変わった。傍らを名も知れぬ生物が泳いでゆく。光りも音も無い世界。ここがマイヨールの仕事場だった。さまざまな意思が巨体を通りすぎてゆく。多くは形にならぬものだったが、時に劈くような悲鳴を感じる。捕食された魚だろうか、マイヨールは意識してそういった雑然とした情報を締め出す。すると‘窓‘から覗き込む個体がいた。

(ヨウか。)

(久しぶりだな、仕事を頼みたい。)

(断る。まだ前回の報酬を受け取っていない。)

(美人の鯨なんてそうそういない。もう少し待ってほしい。)

(事の次第による。)

(皇帝がいなくなった。)

(そいつは……高くつくぞ。)

(何匹でも。)

(三人だ。)

 マイヨールは‘潜水‘した。

水の感触が消え、宙に浮いたような感覚を覚えた。暗闇が遠くの光源によって晴れ、周囲にはさまざまな色彩が溢れた。彼は情報を色として捉える。常に混ざり合い、新しい色が生まれてゆく。その様は炎のようにも、たなびく木々のようにも、あるいは波紋が広がる水面にも見えた。試しに自身から出ている青に触れてみる。

それは孤独の悲しみだった。

あわてて意識から締め出す。今は感傷に浸っている時ではなかった。

気を取り直して皇帝を探す。マイヨールは一つの推論を持っていた。彼はほとんどの色彩に触れることが出来るが、その色を照らす光源には触れる事が出来なかった。皇帝の存在に今まで感じ取れなかったのはその為だと思われる。だが、言い換えれば触れることの出来る情報以外が、全て皇帝だとも考えられた。

意識を最大限伸ばし、両手を広げ、掌で色たちに触れてゆく。指に絡まるような感触だった。喜怒哀楽が彼の自我を通り過ぎてゆき、心をかき乱す。深い海底にも、天高い上空にも、地虫の這いずる地中にも、気配は無い。さらに加速する。色彩はどんどん混ざり合い、やがて慣れ親しんだ漆黒となった。しかし海中の暗闇とはどこか違う。情報を読み取ろうと腕を伸ばす。揺蕩う意識が飽和状態となり、やがて一気に収束し、一つの物質が暗黒を飲み込んで姿を現した。光りが溢れた。

マイヨールは海面に上昇すると、勢いよく潮を噴出した。心臓が脈打っているのがわかる。もう少しで自分は……。

(あぶないところだった。)

(どうした?)

(皇帝が見つかった。)

(本当か?)

(石の形態をしている。今オラシオンに向かって移動している所だ。)

(石?)

(そうだ。人間が所持しているが、空間にぽっかり穴が開いたようで、何者かはつかめなかった。)

(今どこだ?)

(聞いて驚くな。覇王の陣中だ。)

(くそっ。)

(渡りをつけてやろうか?)

(いらん。) 

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