<18>
(決心はついたか?)
泣きじゃくるマイヨールは頷いた。自分の体が闇に溶けて行くのがわかる。徐々に減ってゆく体。しかし同時に色も流失していく。
孤独の青、情熱の赤、希望の緑が……。
混ざり合った色が光となって辺りを照らした。
そこには色彩が溢れていた。
いたずら書きのような稚拙な物から芸術と思える荘厳な物まで、かつての眷属達が描いた絵画だった。
曖昧な意識の中、無意識にマイヨールは自身から出ている色を使い、描写していく。
黄金時代の風景を。
水草が揺れ、稚魚が泳ぎまわり、珊瑚が群生し、ヤドカリが歩き回る。深遠なる渓谷も、炎を吹き上げる火山も、広大な大陸棚も、みな描いていく。そして最後に仲間達。
巨体を光りが撫でて行く。
(止めろ!死者を呼び戻すのは止めろ!)
巨人がうろたえたように叫んだ。
その身から流れ出る黒。
子供のようににこやかに絵筆を振るうマイヨール。骨に会話音が届く。
(過去はもう過ぎ去った。)
(あなたはあなた自身のために生きる。)
(彼のためではない。)
(彼?)
(あなたの寂寥。)
(出会えたのは素晴らしいこと。)
(臆病を昇華させた。)
(恐怖も不安も臆病も乗りこえられる。)
(絵筆がある。)
(それがあなたの勇気。)
(孤独を愛する心。)
(私は孤独を愛しているのか!)
一瞬、浮遊感が無くなるとマイヨールは海中にいた。周囲に仲間達はいなかった。
しかしもう寂寞をおぼえることは無い。
孤高の鯨は一人、遊弋した。想像力の絵筆を持って。