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<12>

 空の玉座に響く雨音は虚ろだった。

円柱回廊には他に人影が無く、シオンが頭を垂れたまま動けずにいたのは、皇帝の’眼’の存在を感じている為だった。先程帝国議事堂でも確かに見つめられていた。再び自分のもとに返って来たのは、終わりが近い前兆でもあった。

アースシーは消失するまでもう幾許も無い。

皇帝が何故今日だけに焦点を当てているのかはわからない。影のせいかも知れなかった。シオンは玉座の間を煌々と照らす精霊、イフリートが自分の’影’であるのは当然だと思った。皇帝に対する公憤、義憤、私憤は計り知れない。

アースシーのような世界が多数あることにシオンは最初驚きを持ったが、それらが’眼’に晒されると次々に消費され、皇帝を形成する表層が一枚増えて行き、やがて巨大で多種多様な生物が息づく世界を創る。そこでは影は眼に見えない存在で、信じがたいことに人間の心の中にのみ巣くうと言う。そして無数の皇帝が意識を持ち、群れ、集い、消えて行く。最後に残る物、それが何なのか知りたかった。

「陛下、御慈悲を……。」

 精霊王の業火が猛煙と共に燃え上がる。

「静まれ、私は自分の影を内包している。」

「お前のこれまで蓄えた財産、名誉、知識は無駄だったわけだ。」

「そうではない。」

 シオンはトーガを翻し、精霊に向き直った。

「皇帝の元に帰るのだ。悔いは無い。ただ惜しむらくば、その後の身の上が心配なだけだ。」

「お前が他人を思うとは……変わったものだ。」

「井戸に落ちた子供を救うのに理由はいらない。」

 精霊王が掻き消え、辺りは一寸先も見えぬ闇に包まれた。しかしシオンは平気だった。心中に燃える精霊王が自身の影を拭い去り、言葉にならぬ言葉を燃焼させ、どこまでも続く白い地平を現出させた。そこは真昼のごとき明るさだったから。友人、知人、家族、他人、敵が右往左往する彼だけの世界だった。

「我が矮小なる世界をお受け取り下さい。」

 地面から黄金樹が生えてゆく。鬱蒼と茂る樹幹には妖精達の家々。繋ぐ橋は蔓と花に飾られ、芳しい芳香を放っている。

(あれ、シオンじゃないか。)

(お帰り。)

(またいっしょに遊ぶのかい?)

(それとも歌おうか。)

(一眠りするかい?)

(ああ、そうだな……。)

 一糸纏わぬ姿のシオン。背中には虹色の羽根。

(ひどく疲れた。休ませてくれ。)

(いいとも。)

(休んでいいさ。)

(ここには時間は無いんだから。)

(空間も無い。)

(だから何でもあるのさ。)

(お腹は減ってないかい?)

(帰還を祝って蜜で乾杯だ!)

 宴はいつ果てること無く続いた。

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