伝説の千文字

貴方はこの伝説の千文字を読まずにはいられない

「今日、我々はある試みに挑戦し、我々の名を後世に残そうと思う。　そしてこの挑戦は必ずや伝説になるだろう。　思い返せば」

「博士、あまり長い前置きはやめてください。　あまり文字数を使ってもらっては困ります」

「しかし助手よ、前置きは全ての小説の基本ではないのかね？」

「その通りでありますが、博士に任せると前置きだけになってしまいます」

「うむ、一理ある。　よし、前置きはこれでカットしよう」

「ところで伝説の千文字に挑戦している私達でありますが、スペースはどうしましょう？」

「助手よ、それは宇宙のことかね？　余白のことかね？」

「余白に決まってるじゃありませんか、博士。　余白は文字数に入るのでありますか？」

「では先に助手の意見を聞こう」

「もちろん含めるのではありませんか？　余白にも立派な意味があると私は考えます」

「それでは助手よ、君は白い紙に書いた余白を立派な字と言い張るのかね？」

「そ、それは」

「無知な助手が大変失礼をいたした。　この伝説に余白の字数は含まない」

「それより博士、何故我々が話しているだけで伝説になるのですか？」

「それは簡単なことなのだよ。　我等の残したこの会話こそもっとも読まれた特殊な千文字になるからなのだよ」

「しかし、偶然千文字になった有名文学があるのではありませんか？」

「助手よ、私は『特殊』と言っただろう。　会話のみで意図的に千字に纏めた小説などありはしない」

「なるほど。　でも博士、それでは随分と安っぽい伝説になってしまいます」

「そんなことはないのだよ。　この作品はいずれ大いなる伝説として語り継がれていく。　参加できた事を光栄に思いたまえ」

「残り字数が少なくなってきましたよ博士。　まだ私達、適当な会話しかしてないですよ」

「内容はさほど重要ではないのだよ。　大切なのはどれだけの人に読んでもらえたかだ。それで価値が決まるのだよ」

「そういう危ない発言はやめてください博士」

「事実なのだから仕様がないのだよ。　世の中に知られていない名作は名作とは呼ばれない。　嘆かわしいことにな」

「博士、ではこの伝説の千文字も名作にならない可能性があるのではありませんか？」

「助手よ、普段から言い聞かせているだろう。　『伝説と名作はイコールではない』と。　数人に読まれた時点でこの試みは伝説となる。　だが必ずしも名作にはならない」

「私は名作になってほしいですが。　それより博士、私達まだ名乗ってません」

「助手よ、伝説に名を残すのは難しいな」

この後も二人の伝説は続く。　もちろん続きも会話率１００％、完全オリジナル作品です