第1話
翌日に出発の日を控え、櫻井拓弥は大学の友人達との旅行の準備に追われていた。三泊四日で友人の所有する島に行くのだ。
「そろそろだな…」
この旅行に参加する面子には拓弥の彼女である武知美佳も入っており、前日のこの日に電話で時間と場所の確認をし合う予定なのだ。
気づかないうちに約束した時間が来ていたようだ。拓弥は美佳に電話をかけた。
「もしもし、拓弥?」
「ああ。明日の確認。約束してただろ?」
「うん。拓弥は準備終わった?」
「大体終わったかな」
「そうなんだ、私もほとんど出来てる。でもすごいよね、まさかあの松本財閥の島に行けるなんてさ」
「敬太のおかげでな。でもあいつの前ではあまり家の話しは出すなよ。金のために友達やってるんじゃないんだからさ」
「わかってるって。私達の友達グループにそんなこと思ってる子はいないでしょ」
「そうだな。それじゃそろそろ明日の確認な。時間は午前九時、場所は駅前、その後電車で港に行ってみんなと合流、合ってるか?」「うん、バッチリ」
「よし、じゃあまた明日な。遅刻すんなよ」
「拓弥にだけは言われたくないよ。この遅刻魔」
そう言って美佳は電話を切った。
「さて、準備終わらせてさっさと寝るとするか」
拓弥は早起きというものが苦手なので、早めに就寝することにした。
翌朝、拓弥が駅前に現れたのは九時半をまわったところだった。結局寝坊して遅刻したのだ。
「昨日遅刻すんなよって言ったの誰だっけ?」
いつもの事なので美佳は怒り半分呆れ半分といった声色で言った。
「…すいません」
「もう…ところで船で行くって聞いてたけど、島まではどれくらいかかるの?」「三時間くらいらしい」
「結構かかるね、まあとりあえず港まで行こうか。みんなとも早く会いたいし」「そうだな、行こう」
拓弥達が港に着くと、どうやら最後だったらしく、拓弥達以外全員揃って待っていた。
「遅いぞ、拓弥。また寝坊か?」
見事に遅刻の理由を言い当てたのは昨日の拓弥と美佳の電話にでてきた松本敬太、この旅行の行き先を提案した松本財閥の御曹司だ。容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群の好青年である。
「まあな」
拓弥がふんぞり返っていると、
「何開き直ってるんですか、ホントにあなたって人は…」
そう言って敬太の隣で呆れているのは安東光彦、敬語だが拓弥達と同級生だ。光彦は大学の成績が常に優秀であり、敬太以上の頭脳の持ち主である。ちなみに拓弥は馬鹿だ。
「まーた美佳を待たしたんだね、だめだよ、たーくん」
拓弥を『たーくん』と呼ぶこの女性は佐藤里沙、拓弥の幼なじみだ。
「もっと怒ってあげてよ、里沙。反省ってものがないんだから」
美佳はそう頼んだ。
「たーくん、めっ」
「お前が言っても全然怖くねぇわ、むしろ和む」
「そうかな、えへへ」
「…里沙ってやっぱり天然だよね」
頭を抱えて美佳は言った。
話がずれはじめたところで、敬太が本題に持っていった。
「全員揃ったことだし、そろそろ船に乗り込もうか。拓弥の説教は後にしてさ」 これに反対する者はいなかった。