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夢幻遊戯

作者: 雨風
掲載日:2026/06/05

カイドウと、女中エミリーのお話。

いかがわしい描写があります。(R18にならない程度)

※難しい、と感じた箇所は「AIのべりすと」というサイトを使用しております。ご了承下さい。

私はあの夜の出来事を何度も反芻している。

深夜、誰も通りがからない長い廊下で。

あの娘に、エミリーに、首を締め上げられたこと。

細く綺麗な指だったが、確かに意志を感じたのだ。

「───!申し訳ございません!!!ああ、わたくしは!なんと出過ぎた真似を………」

そう言ってエミリーは青ざめていたが、対象的に私は、解放されてしばらくした喉から小さく笑い声が零れた。

「ふふ、ふふふ」

「エミリー」

「次は、もっと激しく」


***


あれから何日経っただろうか。

夕飯を食べ終わり、眠気が襲ってきた身体を無理矢理起こそうと、なんとなく宮廷内を散歩しようと歩いている。

こんなにも広い家だが、床にも手すりにも目立った汚れは見えない。下女達が懸命に掃除をしてくれているんだな。王子という身分なのだから、そんなこと気にせず堂々としていればいいのだろうが、感謝せずにはいられない。私はそうゆう性格なのだ。

そんなことを思っていると、目の前から見慣れた金髪の女中が歩いてきた。

何故だろう、無意識に。私は笑みを零した。

「エミリー」

呼び止められた彼女は、一瞬ビクッと身体を震わせたが、すぐに澄ました顔になり、スカートをたくし上げた。

「カイドウ様…。こんな時間にどちらへ」

「少し散歩をね。きみは?」

「夜の見回りですわ」

淡々と応える彼女は、いつも通り落ち着いていた。

しかし、草原を映し出したような瞳に僅かに警戒が見えた。

あの夜みたいだ。

私が次に何を言うのか、用心しているのだろう。

「少し、付き合ってくれませんか」

「…はい」

短く返事をしたエミリーの手を引き、奇しくもこの前──私が初めて彼女に迫ったあの時だ──と同じ書斎に入った。

扉を閉めると、静寂が広がった。一つだけカーテンを閉め忘れた窓から、月明かりが差し込んでいる。

壁一面の本が、私たちを見つめる。

「…カイドウ様?」

恐る恐る声を出すエミリーをよそに、私は机の引き出しから一本の紐を取り出した。

「何をなさるおつもりですか」

「お願いしたいことがあるのだけれど」

「…、お断りします」

即答だった。あまりにも早すぎる返答に、私は思わず笑ってしまった。

「まだ何も言っていないでしょう」

「言われなくてもわかります」

声を掛けた時とは違う、強い視線だ。

「あの夜のこと、わたくしは後悔していますのよ」

「だが、私は」

「危険です!」

私の言葉を遮るようにエミリーが強く言った。

「カイドウ様は…カイドウ様はご自分を軽んじすぎです」

エミリーは拳をキュッと握りしめた。

「だから…わたくしは…」

「王子の言うことを聞けないのか」

今度は、私がエミリーの発言を遮り短く、だけど強く言い放った。

「…カ、カイドウ様」

「前にも言った。私は、きみのような大人しくかわいらしい人に、好きにされたいと。きみが首を絞めたあの夜、私は確信した。やはりきみは、心の奥底に加虐心を飼っている、とね」

エミリーはその場に凍りついたように立ち尽くしていた。月光が彼女の金色の髪に降り注ぎ、まるで神聖なオーラのように輝いている。その一方で彼女の瞳は深い影に覆われていた。

「どうして……」

ようやく絞り出した声は震えていた。草原色の瞳が私を見据えている。

「ただの下女であるわたくしに、そのようなことを望むはずがありません」

「…きみは、本当の私のことを見ようとしていない」

紐を手に取ると、古臭い特有の香りがした。

「首輪だと思えばいい」

紐をくるくると指先で弄びながら私は微笑んだ。

「互いの自由を縛り合うための小さな儀式さ」

エミリーの呼吸が浅くなるのが見える。窓辺から吹き込んだ夜風がカーテンを揺らし、彼女の頬に触れる。

私はゆっくりとエミリーに近づいた。

「私がきみに委ねたいのは」

紐の端を彼女の掌に乗せる。


「支配される喜びと……きみの中に眠る獣を目覚めさせる悦び」


彼女は反射的に紐を払いのけようとした──だができなかった。私の指が彼女の手首を捕らえていたのだ。

「もう遅い」

私は低く呟いた。

「あの夜、きみ自身が気づいたはずだ」

「あ…ぁ、王子…」

「私は人間だよ、エミリー。きみと同じ」

エミリーの手を静かに掴む。驚くべきことに──

彼女は、強く握り返してきた。

「…一度だけですよ」

声は低く、震えていた。

だが明確な決意が宿っていた。


***


エミリーの身体が突如として動いた。

それは訓練された動作だった。王子の護衛たちが習得する武術の動き──だが今は主君である私に向かって放たれている。素早い足取りで近づくと同時に彼女の左手が私の右手首を捉え、そのまま背後に捻り上げた。痛みに呻く私の耳元で彼女の唇が囁く。

「…カイドウ様……お許しを」

後ろ手に縛られた私は、柔らかく笑んだ。

「嬉しいよ、エミリー」


「…王子が痛みを恐れないのなら」

エミリーの声は低く、研ぎ澄まされていた。

「わたくしは、あなたを殺します」

書棚のガラス戸に映る景色──従者が主君を押さえつけている、異様な光景。

私は、身動きひとつできないまま、目を見開いた。

露わになった、エミリーの本性。

草原の奥で燃える炎──それが明確に行動となって現れている。

折りじわのない親指が私の喉仏にかけられた。

その刹那。

どこからその力が出るのか。わからないほどの圧迫感が私を襲った。

苦痛ではない…、快楽。

王子として産まれた私が、無防備な家臣に生命線を握られている。

その事実に、脳裏で火花が弾け飛ぶのを感じた。

「ふ、ふふふ、ふ、エミ…リー」

「今だけ、今だけ、あなたを解放しましょう」

エミリーは、涙ぐんでいた。

「王子という、檻から」


***


「はぁ…、っ」

どのくらいの時間、首を絞められていたのかわからない。

されるがままの私は、抵抗できず──しようとも思っていなかったのだが──、口から一筋の唾液を垂らした。

「…カイドウ様……」

エミリーが私の眼前に迫り、そして次の瞬間。


私の口を、その口で塞いだのだ。


「お慕いしておりますわ…………」


唇に触れた熱は、すぐさま冷めていった。

その代わりに、肩を押し返される感触。

エミリーの顔が離れていく。花のかんばせは──歪んでいた。

「ああ…!わたくしは…何てことを!」

エミリーは俯き、自らの手で顔を覆った。

「わたくしは…、ただの使用人なのに!」

窒息の心地良さに揺らぐ視界がだんだんと晴れていき、私は…やはり笑んだ。

「言ったでしょう、エミリー。私は王子である前に、人間であると」

ライムグリーンの丸い瞳からぽろぽろと涙を零すエミリーのことを、真っ直ぐに見据えた。

「ありがとう。正直になってくれて」

気づけばすっかり緩まった紐を自力で解くことなど、造作もないことだった。

自由になった両の手で、私はエミリーを抱き締めた。

エプロンドレスの上からでもわかる、か細く、しなやかな身体だ。

「それでも…これは禁断の感情ですわ」

私はエミリーの涙を人差し指で拭った。

「禁断…か」

私が発したのか?

そう疑うほどの低く、落ち着いた声が書斎に響いた。

月光に照らされた二人の影は、絡み合う草花のようだ。

私の胸の中で、エミリーはようやく泣き止んだ。

それでも、この状況をあまり理解できていないようだ。

「…そうだな、ならばこうしよう」

私は左手をゆっくりと下ろしていった。

ロングスカートの下に隠されたエミリーの太腿に這うように……。

「これは私の一時的な気紛れだ」

今度は私が、エミリーの唇を強く塞いだ。


***


「エミリー…」

続きを言おうとしたところで、廊下に女中たちの足音が響いた。エミリーの身体が強ばった。

「わたくし、行かなくては」

エミリーはメイドの様相を完璧に取り戻し、身を引いた。

私は、書斎を出ようとする彼女の腰に手を触れた。

「…また、今度」

その言葉を聞き、エミリーは驚いた顔をしたが、するりと落ち着きを取り戻し、一礼をした。

パタン、と音を立てて扉が閉まる。

夜の最中(さなか)に溶け込むようにエミリーが消えた後も、指先に彼女の体温が微かに残っていた。

私は深く息を吸い込み、窓枠に寄りかかった。

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