『知の試練』 2
4階は、それまでの石造りの迷宮からうって変わって、白い壁がむき出しの一つの巨大な空間であった。
3階までの石壁同様、壁はぼうっと光っており、遠くまで見通せるようになっていたが、見渡す限り地底湖になっている。
はるか遠く、入り口の反対側に、小さく扉が見えているが、道などは見当たらない。
遠くで魚らしきものが跳ねる。
「これ……どうしろってんだ?泳げってか?」
ユウヤが湖は覗き込む。水はそこそこ澄んでいるようで、5~6m程の巨大な影がうようよと無数に泳いでいるのが見える……と、その影の一つが突然スピードを増し、ユウヤめがけてジャンプしてきた!
ユウヤはとっさに飛びずさって躱す。
薄い青色で流線形をした、サメに似た魚だ。ただし、その異常に長く、鋭く尖った鼻先で、一瞬前までユウヤがいた空間を鋭く切り裂く。
魚は大きな波しぶきを立てて着水すると、悠々と泳ぎ去っていった。
「でかいな。今の魔物をご存じですか?」
「ブレードシャーク、ですわ。淡水にすむサメの一種で、鼻先が長剣のようになっています。動きが早く、鼻先の攻撃はかなり強力です。あと、傷ついた獲物には群れで寄ってたかって攻撃する習性があります。こんな地下にいるなんて……」
「となると、泳いで渡るというのは無理そうですね。……剣は届かないし、魔法で攻撃してみますか。『石弾』」
無数の石弾が現れ、水中の魔物めがけて飛んでいく……が、水のせいで軌道がそれ、速度も減殺されるようで、ブレードシャーク達は悠々と逃げていく。
「『魔弾』『聖弾』」
様々な属性の魔法を試すが、やはり水のせいで有効な攻撃にはならないようだ。
「さて、どうしたもんかね」
「『知の試練』ですから、何か方法はあるはずなのですが……何かヒントとなるものがないでしょうか」
二人はしばらくあたりを探ってみたが、ヒントになるようなものは何も見あたらなかった。
「困りましたわね……」
「……仕方がないな。アンジェラ様、少し強引な方法を使いますので、少し下がっていていただけますか」
というと、ユウヤはしゃがんで地面に手を当てる。
「『整地』」
ユウヤが魔法を使うと、地面全体が振動を始める。振動は段々大きくなり、立っていられないほどの地震になっていった。天井からパラパラとはがれた壁が湖面に落ちていく。
突然湖面が大きな音を立てて盛り上がり……地震が収まった時には、ユウヤたちがいるところから反対側の扉まで続く道ができていた。
「これは……!? 一体……」
「『整地』を使いました。地形を操作できる魔法です」
「そんな魔法が……いや気にしません。ユウヤ様のことで驚くのは止めたのですもの」
「では行きましょうか」
その時、異変が起こった。湖面全体で無数のブレードシャークが跳ね始めたのだ。無数の巨大なブレードシャーク達が藻掻くように跳ね続けるさまは、なかなかの壮観である。
「何が起こってるの? 」
「……さあ? ……少し様子を見ましょう」
ブレードシャーク達はそのまま跳ね続けたが、段々動きが鈍くなっていき……5分ほどたったころには、湖面に大量のブレードシャークが力なく湖面に浮いていた。遠くで扉が光り始めたのが見える。
アンジェラは両手を口に当てて、
「何が起こったのでしょうか……」
「さぁ……」
「……さっきの魔法の時に、天井からパラパラと壁が落ちてきてましたよね。ひょっとして、それが毒か何かだったとか……」
「……つまり正解は、天井を魔法かなにかで攻撃して、天井のかけらを湖に落とすということですか? 」
「わかりませんが、他に考えられないので……」
「それが正解だったととしたら、毒に侵された湖をどうやって渡るのかという問題がありますけど……まあ、解決したようなので良しとしましょう」
ユウヤたちはブレードシャーク達の夥しい死体をよそに、地底湖を後にしたのだった。
二人は地下5階に降りる。
「この階の造りは単純ですね。3つほどの部屋と、部屋をつなぐ通路があるだけです」
ユウヤは最初の扉を開ける。
扉の向こうでは、およそ生物とは思えない何かが宙に浮いていた。
大きさは6m程、六芒星のような形をしている。6本足のヒトデを縦にした形と言ってもいい。六芒星の角の部分はそれぞれ違う色をしており、時計回りに輝いていた。
「……なんだこれ? アンジェラ様、ご存じですか? 」
「……このような魔物、聞いたことがありませんわね」
「とりあえず……うわっ!? 『結界』! 」
六芒星の角のうち、白い角が光ったかと思うと『聖弾』が発射され、とっさに『結界』でなんとか防ぐ。
「お返しだ。『火球』……何!? 」
ユウヤのはなった火球は狙い違わず六芒星に命中した……が、吸い込まれるように消滅した。爆発も炎上もしなかったが、逆に六芒星から火球が放たれた。ユウヤは『結界』で防ぐ。
「どういうことだ? 」
「……魔法が吸収されたように見えましたね」
「魔法は効かないなら……これでどうよ! 」
ユウヤは六芒星に向かって飛び込み、剣で斬りつける。剣はやすやすと六芒星の一角を切り裂いた…が次の瞬間、ユウヤは唖然とする。何と、切り裂いた一角が元通りにくっついたのだ。
「剣も魔法もダメ、と」
「そんな……。いや、何か方法があるはずですわ。少し観察してみましょうよ」
それからしばらく『結界』で攻撃を防ぎつつ観察を続ける二人だったが、六芒星の行動にパターンがあることに気づき始めた。
六芒星は常に二人と正対するように向きを変え、10秒ごとに各属性の魔法を放ってくる。ただし、こちらが魔法を当てると、その呪文は吸収されるように消え、同じ呪文を返してくるのだった。
何度か斬りつけてみたが、やはり瞬時に再生する。
「困ったな。攻撃は大した事はないといっても、剣も魔法も効かないとなると……」
「……ユウヤ様、いっそのこと、こいつを無視して先に進むというのはどうですか? 」
「扉が開いているかどうか疑問ですが……とりあえず、試してみますか」
二人は六芒星の魔法を防ぎつつ、近づかないように回り込み、出口の扉までたどり着いた……が、扉は開かなかった。
「やっぱり閉まってますね」
「上の階では、ブレードシャークが全滅すると扉が光りだしましたわね」
「つまり、六芒星を倒さないと先に進めないってことですか」
「と言っても、剣も魔法も効かないのに、どうしますの? 」
「うーん……困ったな。アンジェラ様、何か思いつくことはありませんか? 」
「そうおっしゃられても、こんな魔物は見たことも聞いたこともありませんし…そもそも生物かどうかすらわかりませんが……」
「……確かに生物とは思えませんね……生物でない……待てよ? 生物でないとすれば……」
「……ゴーレム……? 」
「……それだ」
「ゴーレムとすれば、核を破壊すれば停止するはずですわ。人間型のゴーレムなら核は頭か胸にあるものですが、こんな形のゴーレムだと……」
「……真ん中、ですかね。よし」
ユウヤは六芒星から魔法が放たれるタイミングを見計らい、助走をつけて六芒星の真ん中に渾身の突きを放った。その突きは狙い過たず、六芒星のど真ん中に深々と突き刺り……六芒星の光は消え、次の瞬間、ガラガラと音を立てて崩れ去ったのであった。
崩れた六芒星の真ん中には、砕け散った宝石のようなものがあった。破片の量からすると、砕け散る前はかなりの大きさだったようだ。
「ユウヤ様、これが核ですわね」
「やっぱりゴーレムでしたか。ゴーレムは再生したり、魔法を吸収したりするものなのですか? 」
「通常のゴーレムにではそんなことはできませんが……失われた古代文明ではそのような技術があったのかもしれません」
出口の扉が淡く光り始める。
「さて、次の部屋に行きましょうか」




