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安直勇者 ~俺はなんでも安直に解決できる勇者様~  作者: 差肥塚 祝


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法律策定

 「大分、形になってきたんじゃないか?」

 城内で辺りを見回し、少しご機嫌なユウヤ。

 現地調査から、既に一か月ほど経過していた。

 がらんどうだった城は、急ピッチで魔道具による照明、扉や窓枠、家具の類の設置が進められており、城の廃墟のようだった以前とは全く様変わりしている。

 しかし、婚約者たちは首を振る。

 「ユウヤにはこれが形になったように見えるの?」

 「照明も家具もある程度入ってるし、水道も通したし……」

 「重要なものがまだ全然ないじゃない」

 「重要なもの?」

 「装飾の類がまだ全然じゃない。カーペットからタペストリー、彫像に絵画……入れなきゃいけないものはまだまだあるわよ」

 「まぁ、そりゃそうだけど……装飾なんてなくても、機能的には十分だろ?」

 「あのね、この城はこの国の首都の城で、皇帝陛下の居城なのよ? 当然それにふさわしい格式というものは必須なの。機能があればいいってものじゃないわ」

 「まあ、そりゃそうだけど……装飾の類って、時間がかかるだろ?」

 「そうねぇ。職人が技術の粋を凝らして作るものだし、半端なものは入れられないから……」

 「……いっそのこと、俺が……」

 「駄目よ。城に装飾の類を納めるのは、職人にとってただの商売じゃなくて、至上の名誉なの。特に今回は六か国全ての職人が参加してるわけだし、新築の城ということで納品される数も多いから、大陸中の職人たちにとって未曽有の大イベントになってるのよ。お願いだから、職人たちのチャンスを潰すような真似はしないでちょうだい」

 「……わかった。でも、そうなると……」

 「そうなると?」

 「ヒマなんだよなぁ、建物もある程度建てちまったし。何か仕事はないか?」

 ここの所、建物を建てることが日課になっていたユウヤ。まだ中心部の一部しか建物は建っていないのだが、水道の整備が追い付かないこと、まだ移民の数がさほど見込めないことから、一旦ストップをかけられていたのだった。

 「仕事? 仕事ならあるよ!」

 会話に割って入ったのはヴィキだ。

 「ほら、昨日の会議で決まったじゃない。神殿を建設しないと」

 「ああ、そんな話だったな」

 昨日の会議で、今後の神殿のあり方が議題に上がっていた。

 この大陸では、今まで神殿は各国に一つのみ、それぞれの首都に存在しており、その他の街には、規模に合わせて教会や祠がある。では、首都インぺリアではどうするか、というものだった。

 インぺリアに全ての神殿を集約すべきという者もいれば、神殿はそれぞれの国の民にとって必要不可欠という者もおり、喧々諤々の議論の結果、各国の神殿を大神殿と改称し、インぺリアには各神ごとに大神殿よりも若干若干小規模な神殿を建設するということに決定していた。

 「うーん、建設するのはいいんだけど……どんなのを建てりゃいいんだ? 設計図もまだないよな?」

 「あ……」

 口を押えるヴィキに、アンジェラが話しかける。

 「設計図どころか人員の規模も決まってないのに、建物を建てるのは無理よ。といっても建築すること自体は決まってるんだから、担当者に設計依頼を出しておいてちょうだい。もちろん、各神殿の建物や係員数とかの擦り合わせもさせたうえでね。いいかしら、ヴィキ?」

 「わかったー!」

 「ユウヤにはとりあえず、やってもらうことがあるわよ」

 「何だ?」

 「今日スペンサーから連絡があって、帝国法の草案が一通りできたらしいのよ。ユウヤに進講の上で決裁を取りたいって話だったわ」


 次の日、ユウヤの居室に、スペンサーを筆頭とした7人の係員が入ってきた。

 スペンサー以外の皆は、それぞれが前が見えないのではないか、と思う程の書類の山を両手で抱えていた。かなり重そうなそれを机に置くと、奇麗に並べなおしていく。

 「これらの書類が主要な帝国法、及びその概説となっております。本日よりユウヤ様にご進講の上、最終的にご決裁をいただくことになります」

 「……随分多いな。帝国建国が決まってからそれほど経ってないのに、よく取りまとめられたもんだ」

 「帝国建国が決まる前から構想はあり、各国共同で研究は進めておりましたので」

 「そういや、そんな話を聞いたことがあったな。で、これを全部、覚えろと?」

 「それは現実的に無理ですし、皇帝陛下の職務でもございません。法の執行は貴族や、その下の役所の吏員の職務でございますので。ただ、ある程度全体像は把握いただく必要はございますので、私の方からかいつまんでご進講申し上げます」

 ほっとすると同時に、「現実的に無理」と言われたことに逆にイラっとするものを覚えたユウヤ。確かに、これだけの書類の内容を覚えるのは簡単ではないだろうが、転生の際に記憶力が大幅に強化されているため、やればできないこともなさそうな気もする。

 ユウヤの真正面の席に着いたスペンサーは、後ろに控える吏員の一人から書類の束を受け取る。それを机の上に置くと、早速進講が始まった。

 「それでは、始めさせていただきます。まず、全ての法律の基となるのは、こちらの『帝国基本法』でございます。この法律は……」

 ユウヤは相槌を打ちながら、スペンサーの長い長い話を聞き続ける。どうも最初の『帝国基本法』は憲法に当たるものらしく、その下に財産法、刑法、商法などに該当する法律があるらしい。

 議会は公選ではなく、貴族が議員を務めることや、財産奴隷、刑罰奴隷などの奴隷制があったりと、前世とは全く違う所も多いが、基本的人権のような考え方もあり、割と日本の法律と通じるものも多いようだ。

 スペンサーの説明自体は中々に巧みなものであったが、その低く朗々とした美声は耳に心地よい半面、長く聞いていると強烈な眠気を催させる。なるべく疑問点について確認したり、メモを取ることで、居眠りしないように気を付けるユウヤ。

 「本日は、ここまでにいたしましょう」

 スペンサーが席から立つと、机から書類を片付け始めた吏員たちにユウヤが声をかける。

 「あ、ちょっと待て。書類は置いていってくれ」

 「え? 何故でございますか?」

 「これから何日か続くんだから、毎日書類を持って回るのも大変だろう?」

 スペンサー達は驚いた顔をする。

 「確かに助かりますが……それでは、お言葉に甘えます」


 婚約者達との夕食を終え、居室に戻ったユウヤ。いつもなら婚約者たちとまったりお茶を楽しむ時間であるが、今日は用事がある、と言って一人で戻ってきた。

 (……スペンサーの説明が悪いわけじゃないんだけど、正直、遅いんだよな。認識力とか理解力が強化された弊害だな)

 ユウヤが転生した時に神々から授けられた新しい肉体は、常人がはるかに及ばない強力なものである。

 筋力や体力等が通常の人間と比較にならないことは既に知られていたが、実は認識力や理解力、記憶力等も強化の対象である。

 その結果、普通に人と話す分には違和感がないが、今日のように長い説明となると、話の展開があまりに遅すぎる。思わず居眠りしそうになったのもそれが理由だ。

(話す速さを数倍にしてもらうわけにもいかないしなぁ……概要の書類の出来はいいみたいだし、自分で読んでしまった方がいいな)

 そう考えながら、ユウヤは書類の一つを手に取った。


 次の日、昨日と同じメンバーがユウヤの居室を訪問し、席に着いた。

 「続きを始めさせていただきたいのですが、よろしいですか?」

 「折角のところ悪いんだが、先にやってほしいことがあるんだ。とりあえず、これを」

 ユウヤから渡された紙の束に目を通し、スペンサーは首を傾げる。

 

 「これは……『1 帝国基本法についての疑問点』? これは一体……」

 「書類を読んで、疑問点とかを書き出してみたんで、回答が欲しい」

 ユウヤに渡された書類をパラパラと捲りながら流し読みをするスペンサーだったが、その表情が、段々険しいものになっていく。

 「……『3 刑法についての疑問点』? 昨日は刑法については進講しておりませんが……?」

 「机に置いてある書類は一通り読んだからな。概説がわかりやすかったんで、助かったぞ」

 「……は? 一通り読んだって……どう考えても一晩で読める量ではありませんが……?」

 「そんなこと言われても、間違いなく読み終わったしなぁ……。じゃあそうだな……刑法に載ってる犯罪のうち、一つを挙げてみてくれ」

 スペンサーは眉を寄せ、とてつもなく胡散臭い物を見るような表情でユウヤを見ながら、窃盗罪を挙げる。

 「窃盗罪か、犯罪処罰法第32条だな。処罰は窃盗額と同額の賠償並びに罰金、及び金額に応じた期間の入牢だな。具体的な期間は……」

 ユウヤは立て板に水を流すように説明を始め、説明を聞くスペンサーたちの目が段々大きく見開かれていく。

 「……こんなところかな。内容は合ってるよな? ここにあるどの法律についてでもいいから、他の質問もしてみてくれ」

 暫く固まっていたがスペンサー達だが、ハッと気を取り直したように色々な質問をし、ユウヤは淀みなく答えていく。

 質問と応答は延々と続いたが、段々とスペンサー達の顔が引き攣ってきた。一時間程経ったところで、スペンサーがため息をつく。

 「……もういいでしょう。信じられぬことですが、確かに全て覚えておられるようです」

 「な? ちゃんと読んでるだろ?」

 ユウヤはちょっと得意げだ。

 「読んだとしても、覚えているかどうかはまた別なのですが……」

 「なに、ちょっと読解力と記憶力がいいだけだ。それより、渡した疑問点についての回答を頼む」

 「は、はっ、持ち帰りの上、早急に対応いたします……本日はこれで失礼いたします」

 ユウヤの書いた質問書の大部分は単純な確認や誤植の指摘であったが、矛盾や法律間の調整が必要なものもある程度は存在し、ユウヤ自身も議論に参加したうえで、2週間程かけてやっとユウヤの決裁が下りたのであった。

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