木材の納品と魔法陣の設置
次の日。現地確認はまだ続いているが、そちらは婚約者達に任せ、ユウヤは木材を引き渡しに、ジュスティーヌとアクィタニアに来ていた。
当然ユウヤは貯木場になど行ったことがないため『転移』では移動できず、城から貯木場までは馬車で移動する。
とは言っても貯木場は存外町の近くにあり、三十分ほどで辿り着いた。
入り口の側に倉庫のようなものがある他は、だだっ広い土地が広がっている。あまりに土地が広いため、パッと見そうは見えないが、倉庫はかなり巨大なものだ。端の方に数十本の木材が並べてあるにはあるが、土地の殆どは空地となっていた。
「ここが貯木場か……こんなに広いとは思わなかったな」
「木工はアクィタニアの基幹産業だからね、在庫はそれなりに抱えておく必要があるんだよ。もっとも、本当なら木材とか、材木が山ほど置いてあるはずなんだけど……こんなにスカスカな状態は、僕も始めて見たな」
「そこのデカい倉庫みたいなのは?」
「乾燥施設だね。木を一旦乾燥させないと、後で木材が曲がったりするんだよ」
「確かに、そんな話を聞いたことはあるな。でも、木の乾燥なんて時間がかかるんだろ? 今から乾燥させても、一旦在庫が尽きるんじゃないか?」
「いや、施設の中に専用の魔法陣があって、それを使って乾燥させるんだ。だから、一本あたり数時間もあれば、乾燥は終わるようになってるんだよ」
二人で話していると、乾燥施設の扉が開き、一人のエルフが転がるように慌てて走ってきた。その後もぞろぞろとエルフ族が出てくる。最初の一人以外はみな鋸らしき物を手にしていた。
「で、出迎えもせずに、申し訳ありません!」
「ああ、構わないよ。こっちが予定より早く着いただけだから、気にしなくていい……ユウヤ、彼はステファヌ。材木組合の長で、この貯木場の長も兼ねてる」
ステファヌは恐縮しながらも慇懃に挨拶する。
「後ろの鋸を持った連中は?」
「はぁ、今回ご提供いただける材木は、枝も根も落としてない状態と伺いましたので……」
「あぁ、それで鋸を持ってるわけか。後ろの方には魔導士もいるようだけど?」
「は、乾燥施設の魔法陣に魔力を込めてもらっておりました。先程終わりましたので、追加料金を支払い、今から魔法で枝や根を払うご協力をいただくことになっております」
「なるほどね。じゃあ今から木を取り出していくけど、何か注意事項とかはあるか?」
「そうですね、枝や根を落とす作業が必要ですので、種類ごとに、奇麗に並べて出していただけると助かります。どんな木があるかが分かりますでしょうか……」
「木の種類? うーん……」
組合長に言われて、はたと動きが止まるユウヤ。
いくらユウヤの知力が転生の時に強化されたといっても、木の種類の知識があるわけではない。
(そんなもん、分かるわけないだろ……いや、ひょっとして……やってみるか)
とりあえず、『収納』を使ってみる。その上で魔力を込めてみると、果たして何をどの程度収納しているのか、脳裏にリストのようなものが浮かび上がってきた。
「えーっと、杉にヒノキに、ナラ、クルミ……」
「黒檀はありますか? 木材として最高級ですので、城の調度等にそれなりの数があると良いのですが……」
「……あるな。多くはないけど」
「それでしたら……」
組合長が木の種類と本数を指定し、ユウヤはその都度空地に木を並べていく。
並べた木には職人や魔導士たちがすぐに群がり、枝や根を落としていった。
いくら広いといっても、一時間もすると、貯木場は木で満杯になった。
「そろそろ限界ですな。これで当面は持ちます……ご協力、心より感謝いたしますぞ。ところで、『収納』にまだ木材は残っておるのでしょうか?」
満足げな顔でステファヌが聞く。
「残るも何も、まだごく一部しか出してないぞ?」
ユウヤの答えに、ジュスティーヌとステファヌは一瞬顔を見合わせて愕然とした。
暫くそのまま固まっていた二人だが、気を取り直したステファヌが頭を下げる。
「そういうことでしたら是非、後日また引き取らせていただければと存じます。ところで、本日のお代の方なのですが……」
「いや、邪魔な木を掃除しただけだしなぁ……むぐっ」
とっさにジュスティーヌがユウヤの口を塞ぎ、ステファヌと話し始めた。
「枝と根がついたままだから、その分割安になるのは仕方がない。で、いくらくらいになるんだい?」
「そうですな……」
ジュスティーヌとステファヌの暫くやり取りし、引き取り金額が決まった。ステファヌは金を支払い、一礼して満足そうな顔で去っていく。
視線を感じたユウヤがふと目をやると、ジュスティーヌが睨んでいる。
「ユウヤ、さっき代金はいらないって言おうとしてただろう?」
「別にいいだろ?」
「駄目だよ、ユウヤ。ちゃんと対価は貰わないと」
「でも、総合商会の建物とかも金は取らなかったしなぁ」
「あの黄金竜さえ、タダで渡してたしね。いくらなんでもでも気前良すぎだよ。それでも、建物の件も黄金竜の件も、全ての国に利がある話だったから、あえて文句は言わなかったけど……今回の件は、特定の商会だけが相手だし、今回で終わりでもないだろ? 流石にタダというのは、よくないかな」
「そういうもんか」
「うん、ユウヤは六つの国の上に立つ立場なんだから、特定の国だけ優遇するのは……ね」
「確かにそうかもな。今後気を付けるよ」
それから数日後。
現地確認も今日が最終日である。
以前の話で建物を全て建てることになったユウヤはここ数日、ひたすら建物を建築する羽目になっていた。山から巨大な立方体の石を切り出しては都市に運び、『整地』『造型』で建物に変形させていく。
幾らユウヤであっても疲れる作業なのだが、自分で言ったことなのでしょうがない。
この世界どころか、前世であってもあり得ないスピードで建物が増やしているのだが、都市一つ分の建物を全て建てるという意味では、流石に進捗がはかばかしいとまでは言えない。
「とりあえず、午前中はここまでにしとくか」
また建物を一棟建てたところで、ユウヤは昼食のために城に戻った。
城の方では現地確認が順調に進んだらしく、職人や係員も半数以上は既にそれぞれの国に戻っているため、城を行き交う人数もまばらになってきていた。
城の一角に設けた事務所も暇ではないにしろ、以前に比べて雰囲気に余裕が感じられる。 ユウヤが多少うらやましさを覚えつつも会議室に入ると、久しぶりの顔があった。
黒いローブに身を包んだその美女はモーガン・ル・フェイ、先の戦争で一時ユウヤと行動を共にしたカネム・ボルグ王国の筆頭宮廷魔導士である。
「久しぶりだな、フェイ」
「イサ……失礼。ユウヤ様、お久しぶりです」
「どうしてここに? ……顔色が良くないようだけど、何かあったのか?」
フェイと話していたアディオラが少し呆れた顔をした。
「顔色が悪いのはユウヤのせいでしょ。ユウヤが『転移』の魔法陣を急ぎでやれって言ったから、不眠不休で頑張ってくれたからじゃない」
「あ、いや、その……すまん。不眠不休でやってくれるとは思わなかったから……」
「まったく……それはそれとして、解析は終わったわよ。それをわざわざ『飛翔』で知らせに来てくれたの」
「それは助かる。無理をさせてすまなかったな……で、設置はできそうなのか?」
「魔法陣の作成に貴重な物を含めて素材がかなり必要ですが、総合商会に依頼すればすぐに揃うでしょうが、相当の代金が必要と思われます。むしろ、問題は起動にかかる魔力の方です」
フェイがかしこまって答える。
「そういえば、代金がとんでもない額になるって話だったような……」
「それは素材代も魔力も含めた、設置に係る費用全部の話よ? 素材のリストは確認したら、高いと言えば高いけど、総合商会にしてみれば大した額じゃないわ」
アディオラがそう言うと、ふらりと部屋で事務作業をしていた各総合商社の代表の所に行き、何やら話し始める。
と言っても話はすぐに終わり、アディオラはにこやかな戻ってくる。
「問題ないわ。在庫の確認は必要だけど、国に戻り次第すぐに揃えるって」
「代金は?」
「もちろん向こう持ちよ? 逆に、素材代だけでいいのかって念を押されたわよ」
「後は魔力の問題ですが……」
「フェイ、何を言ってるの? あなたの目の前に、無尽蔵の魔力が立ってるじゃないの」
「え?……あ、ユウヤ様が魔力を込めるのですか? それなら確かに問題はありませんね。どうも、睡眠不足で頭が回っていなかったようです」
「そういうことで、魔力の方はお願いね、ユウヤ。魔法陣の作成自体は私とヴィキでやるから」
「……はいはい」
更に仕事が増え、げんなりするユウヤであった。自分の蒔いた種ではあるのだが……
数日後、ユウヤと婚約者達の姿はデルフォード、アーリントン総合商会本店の一室にあった。
各総合商会とも素材はすぐに用意できた。アーリントン総合商会の代表に言わせると、このくらいのことはすぐできなければ、総合商会など名乗れない、とのことだ。
今は『転移』の魔法陣を設置する作業中で、ちょうど今、アディオラとヴィキが魔法陣を描き上げ終わった所であった。
実のところアディオラ一人でもできる作業なのだが、今後のことも考えて、ヴィキに魔法陣の知識を教え込むため、わざわざ二人でやっているらしい。
以前ユウヤがアディオラに聞いたところ、ヴィキの魔力はこの大陸でも有数と言われるアディオラのそれをも凌駕するらしく、魔法陣などの知識は足りないものの、覚えも悪くないとのことであった。
(俺は何かやらかしそうだからって魔法陣とか魔道具の勉強はするなって言ってたけど、ヴィキは大丈夫なのか? そのうち、なんかやらかしそうなんだけど……『試練の迷宮』でもやらかしてたし……)
「ちょっと、聞いてるの? ユウヤ?」
ユウヤの思考はアディオラに中断される。
「あぁ、すまん。ちょっと考え事をしてた」
「いいから、ここに手を当てて、魔力を注入して。私が合図したらすぐ止めるのよ?」
「わかった。……こうか?」
ユウヤは言われたとおり、魔法陣に魔力を込めていく。三十分ほど続けていると、徐々に魔法陣が光を帯び出した。
「……これくらいでいいわ。魔力を止めて。ユウヤって本当に便利ねぇ」
「……人を道具扱いしないでくれ」
立ち上がったユウヤは少しむくれた顔をする。
「もう終わり? ……本当に魔力は足りてるの?」
ヴィキが首を傾げた。
「はたから見てると、そう思うのも無理ないわね。直接魔法陣に触れて、魔力量を検知したらわかるわよ」
アディオラに言われたヴィキが魔法陣に触れると、化け物でも見たような表情ででユウヤの方を振り返る。
「うわぁ……」
「まぁ、そうなるわよね。これだけの魔力を込めるなら、私でも半年はかかるし。ま、それはそれとして、ここはこれで出来上がりね。ユウヤ、支店の方に『転移』してちょうだい」
「わかった」
ユウヤと婚約者たちは帝都支店の部屋に『転移』し、ここにも魔法陣を設置する。
「これで転移ができるはずよ。一応試してみましょ」
七人は魔法陣に乗って起動してみると、一瞬視界が歪み……次の瞬間、本店の部屋に転移していた。
「成功ね。じゃあ挨拶だけして、次はドルーに行きましょ」
ここで、さっきまで少し物思いにふけっていたらしいアンジェラが顔を上げる。
「ユウヤ、ちょっといいかしら?」
「何だ?」
「さっきから考えてたんだけど……各王国から帝都までって、時間がかかるわよね」
「だから今、魔法陣を設置してるわけだしな。それがどうした?」
「この魔法陣は総合商会専用よね?」
「そりゃ、総合商会の中にあるからな」
「城に、王族や貴族用の魔法陣を設置たほうがいいんじゃないかしら? もう少し城が整ったら、集団で移動しなきゃいけないわけだし、今後も移動の機会はいくらでもあるでしょうし」
「反乱等で悪用されはしませんか?」
クァンメィが異論を差し挟む。流石に武を持ってなるシェンノンの王女だ。
「そんなに多くの人を移動させられるわけじゃなし、城から離れたところに魔法陣を設置すれば、そこまで問題はないと思うわよ? どうかしら、ユウヤ」
「……ちなみに、よその国の外交官とかって、何処に滞在するんだ?」
「城に、一時的な部屋を与えられるのが普通ね」
「……この際、大使館でも建てるか?」
「タイシカン?」
「あー、要するに、外交官の事務所だな。貴族街の外れにでも建設して、そこに魔法陣を設置すればいいんじゃないか?」
「それはいいかもしれませんね。でも急な話ですから、各国とも予算が……」
「……はいはい、俺が建てればいいんだろ?」
こうして、貴族街に各王国の大使館を建設することが決まり、ユウヤの仕事がさらに増えたのであった。




