黄金竜の行方
「久々に拝見しましたが……、やはり、凄いものですなぁ」
城の中庭で、黄金竜の死体を見上げるカイシャン=ハーン。
「ほんにのぅ。しかも、これをよりによって、殴り殺したとはのぅ。さしもの我らが鍛えた真銀の小手であっても、グシャグシャになるのも当然ですわい」
感慨深げに相槌を打つのはギュンター・フォン・シュヴァーベンである。
ユウヤはこの二人と配下たちには黄金竜を見せたことがあるのだが、皆改めて感嘆の言葉をそれぞれ口にしている。
他の四国の首脳たちに至っては、上げて黄金竜を見上げたまま、皆ぽかんと口を開けて固まっていた。
「アディオラ……アディオラ?」
「え、え?」
ユウヤに肩をたたかれて、アディオラがやっと我に返った。
「え、じゃなくてさ。どうなんだよ?」
「な、何が?」
「解体しなくても魔石を調べる魔道具があるって話だったろ?だからここに黄金竜を出したんじゃないか」
「え…あ、そ、そうだったわね。あまりにもとんでもない代物だったから……つい。ちょっと調べてみるわね」
アディオラが顔に魔道具を嵌めて、黄金竜に近づく。何種類かの魔道具を黄金竜の胸近くの何か所かににあてたりして暫く調べる。
「終わったわよ。結論から言うと、品質としては十二分ね。今まで見たことも聞いたこともないような、最高品質の逸品よ」
「そりゃよかった。じゃあこの問題は解決だな」
「まぁそうなんだけど……本当にいいの? 本来なら国宝として、しかるべきところに収蔵すべきような代物なんだけど……」
「どうせならただ飾っとくよりも、役に立てた方がいいだろ? それに、他に使える魔石もないんだろ?」
「まぁ、それはそうなんだけど……」
黄金竜を『保管』で仕舞い込むと、皆と共に会議室に戻ったユウヤは、素朴な疑問を口にする。
「魔石が使える代物っ分かったのはいいとして、あれから魔石をどうやって取り出すんだ? 戦ってみてわかったけど、鱗も皮膚もとんでもなく硬い代物だったんだけど」
クァンメィが微笑んで答える。
「その件は心配ございませんわよ。竜が死んだ時点で魔力は抜けますから、鱗はともかく、皮膚は切り裂く事ができる程度には柔らかくなりますので。ただ、あれだけ巨大、かつ貴重なものですから、解体の人員が問題ですわね。相応の腕を持つ職人を、かなりの数集める必要があるかと。それこそ、六国全てが協力して当たる必要があるかと」
「そうなのか。そういや前、大きい竜だと一国じゃあ使いきれないとかいう話を聞いたっけな。皆、協力を頼めるか?」
六王は協力を了承したが、一人だけ顔色が変わった者がいた。
「エカラデルハン、どうした? 顔色が悪いようだけど……厳しいようなら無理に頼むつもりはないんだけど?」
「いえ、大丈夫です」
エカラデルハン七世が答えたところに、アディオラが口を挟んだ。
「父上、大丈夫ではないでしょう?」
「止めよ、アディオラ」
ぴしゃりとはねつけるエカラデルハン七世。
「アディオラ、どうしたんだ?」
「実は……先の戦争の……」
「止めよといっておるのだ」
「エカラデルハンこそ、少し黙っててくれ。今はアディオラに聞いてるんだ」
なおも止めようとするエカラデルハン七世を、ユウヤが制した。
「先の戦争で、一番被害を受けたのがカネム・ボルヌだったのはわかるでしょ?」
「まぁ、それはそうだろうな。例の魔王が反乱を起こしたのも、戦場になったのもカネム・ボルヌだし」
「ええ、貴族も平民も沢山犠牲になったし、生きている者も疲弊しきっているわ。復興にどれだけの期間がかかるか、分からないほどに」
「そうか……ん?それにしちゃあ帝国建設の負担金も、供出する人員の数も、他の国と同程度だったような……アンジェラ、その辺はどうなってるんだ?」
「確かに私も危惧はしてたんだけど……カネム・ボルヌから申し出もないのに、こちらから斟酌することもできないし……」
「エカラデルハン、何で相談も申し出もしてないんだ?」
「それは……」
苦し気に俯いたきりのエカラデルハン七世。助け舟を出したのはウィリアム12世だった。
「我らにはエカラデルハン殿の心持ちがわかります。自らの国の窮状を他に訴えるなど、誇り高きエカラデルハン殿にできることではないでしょう。ましてや、六国が共同して一つの国を立ち上げるという未曽有の大事の際に、自らの国だけ負担を軽くしてくれとは、言えるわけもありますまい」
続けてアルテミシア五世がエカラデルハン七世に問いかける。
「思うに、先の戦争の直接の契機が魔人族の反乱であった事にも、責任を感じてらっしゃるのではありませんか?」
「それは……当然であろう」
「それは魔力溜りができた場所が、たまたま貴国のチャド盆地だった故ですわよね? もし魔力溜りができたのが他の国だったら、その国の魔導士が魔力溜りに魅入られ、反乱を起こしていた可能性が高勝ったはずです。貴国の責任ではありませんよ」
「しかし……」
なおも苦しげな表情のエカラデルハン七世をユウヤが止める。
「もういい。エカラデルハンの気持ちは理解できるけど、カネム・ボルヌの復興はさすがに遅らせるわけにいかないだろう? せっかく俺がインぺリアの建設に大分手を出したんだから、それで浮いた費用を復興に回したりできるんじゃないか? どうだ、アンジェラ?」
聞かれたアンジェラは少し苦い顔をする。
「それが、そんなに単純な話じゃないの。確かにユウヤが城とか城壁とかを整備してくれたおかげで劇的に費用は抑えられるけど、それは長期的に見ての話なのよ」
「短期的には?」
「施設がある程度できちゃったから、移転を早める事になったでしょ。色々と前倒しになるから、短期的には寧ろ負担が増えるくらいね」
「あぁ……なるほどな。何とかならないか?」
「一国の復興費用ともなると……そうね、各国からの借款レベルでないと賄えないでしょうけど……ダメね。裏付けがないから……」
「裏付け?」
「要は、担保が必要ってこと。何の担保もなく、多額の貸し付けができるほど他の国の財政に余裕があるわけじゃないのよ?」
(あー、成程……担保……担保ねぇ……あ)
「アンジェラ、黄金竜じゃ足しにならないか?」
「え?」
アンジェラだけでなく、その場の全員が驚きに目を見開く。
「黄金竜の魔石は結界に使うとしても、他の部分も高く売れるって聞いたけど?」
「査定の必要はあるけれど、担保になるかどうかで言えば、なるでしょうね。足しになるというより、復興費用全てを賄っても全然余裕がある程の価値があると思うわ。でもね、ユウヤ」
「ん?」
「あれはユウヤの物であって、カネム・ボルヌの物じゃないわよ? カネム・ボルヌの債務の担保になるわけないでしょ?」
「じゃあ…… 我が藩屏たる六国に対し、魔石を除いた黄金竜を下賜する。現金化には手間も時間もかかるだろうけど、これは六国が協力して当たる。条件として、カネム・ボルヌ以外の五国は黄金竜を担保に、カネム・ボルヌに借款を行うこと。これでどうだ?」
「黄金竜を下賜……ですって!? あれにどれだけの価値があるか、分かってるの!?」
悲鳴のような声で言い返すアンジェラ。
「価値があるから、担保になるんだろ? それに、ただ保管してたって意味があるわけじゃなし。役に立ちそうなところで使っちまおう。あぁ、解体の段取りとか金の分配比率とか、細かいことは六か国で協議して決めてくれ。アンジェラやスペンサーの負担が増えると、俺が怒られそうだ。六王とも、それでいいか?」
「我らとしては、願ってもないことですが……よろしいのでしょうか?」
「ああ、今の俺にとって一番大切なのは帝国の建設だ。そのためには、出資者の中で一国でも、不安定な状態なのはまずいからな」
「そういうことであれば、ありがたくいただきます。ユウヤ様のご意向通り、カネム・ボルヌへの借款を含め、全て六国の皆で協力し、最善を尽くすことを誓います」




