『知の試練』 1
迷宮は石造りで、全体がほのかに光っている。
『探索』で探ってみても、近くに魔物はいないようだ。静寂の中、二人の足音だけが響く。
しばらく歩いていくと、分岐に行き当たった。
(確か、右手法とかいうのがあったな)
「とりあえず、右に行きましょうか」
それからもいくつかの分岐を通り、一時間ほど歩いていくと、不意に視界が歪んでいき……二人は迷宮の入り口に立っていたのであった。
「……これは、一体……」
いぶかしがるユウヤ。アンジェラ王女はため息をつく。
「……『転移』のトラップに引っかかったようですわね」
「一からやり直し、ですか。初っ端からやってくれる」
ユウヤは小さくため息をつく。
「これも、知の試練の一部ということでしょうね。おそらくこの階は迷路になっていて、道を間違うと入り口に戻される……という所なのでしょう。時間がかかりそうですわね」
(これじゃどれだけ時間が掛かるかわからんな。何か手は……『探索』じゃ敵の位置しかわからない……いや? 他の魔法は結構融通が利くよな? 『火球』の形を自由に変えられたり、『水流』の魔法をウォーターカッターみたいにしたり……駄目元でやってみるか)
「『探索』」
魔力を多めに込めて唱えると、狙い通りユウヤの頭の中に迷宮の地図が浮かんできた。
「アンジェラ様、行きましょう」
「そうですね、こんなところでぐずぐずはしていられません。これは知の試練ですから、法則性か何かが必ずあるはずです。そのことに気もつけながら進みましょう」
「迷宮の構造はわかりましたよ」
言い切ったユウヤにアンジェラは驚く。
「え……どうして? 」
「『探索』で迷宮の構造調べましたので」
「『探索』にそんな効果があるなんて、聞いたことがないですよ!? 」
「魔力を多めに使えばできました。それより、地下への階段まではかなり距離があります。早く行きましょう」
ユウヤは釈然としない顔のアンジェラ王女と探索を再開し、2時間程度で地下に降りる階段にたどり着いたのであった。
地下2階。
『探索』によると、直線で10mほどの通路と、その先に20m四方ほどの部屋があり、多数の魔物がいるようだ。
部屋の入口には扉があった。
「アンジェラ様、行く手に魔物の群れがいます。部屋の入口のところで待機してください」
「ちょっと待っ……」
ユウヤはアンジェラ王女に『結界』の魔法をかけると、扉を開け、部屋に踏み込む。
そこには無数のサルが待ち構えていた。サルたちは人間くらいの大きさで、鋭い牙と長い爪をしている。
サルたちがアンジェラ王女に向かわないよう、ユウヤはとりあえず後ろ手に扉を閉める。
サルはユウヤを遠巻きにして来たかと思うと、徐々に包囲網を縮めていき……一斉に襲い掛かってきた!
数を頼んで、間断なく上下左右から同時にひっかき、噛みつき、フェイントや猫だましまで使ってくる。
(なかなか小癪なサルだな。まぁ、オリバーの攻撃に比べれば、甘い甘い)
ユウヤはそのことごとくを最小限の動きで躱し、剣でいなす。
「そろそろ、こちらからいくぞ」
一通りサルの動きを見極めたユウヤは攻撃に転じ、サルを次々と切り裂いていく。
瞬く間に10数頭のサルが倒れる。
(このサルども、なかなかいい連携だな。知能は高そうだ。まぁ、この程度じゃ楽勝だけど。ただ、これだけ数が多いと剣じゃ埒が明かないな。よし)
ユウヤは大きく跳んで一旦サルたちと距離を取ると、
「『石弾』」
魔力を多めに使ったため、『石弾』と言えるか怪しいレベルの無数の石礫が現れ、広範囲に飛び散った。
飛んで行った方向にいたサル達の悉くがハチの巣になり、その場に倒れる。
他のサル達は一瞬そちらに目を奪われたかと思うと、怯えたような鳴き声を上げ、……一斉にユウヤから逃げ出した。
(知能が高いだけあって、勝てないって悟るのも早いってことか。まぁ、逃げても無駄なんだけどな。ちょっとかわいそうな気もするが……)
ユウヤは部屋の隅で震えるサル達に石弾を撃っていく。サル達は全滅するのに5発も打てば十分だった。
(しかし、知の試練だから狡猾なサルってのは、少し安易じゃないか? まぁいいか)
ユウヤは入口の扉を開け、アンジェラ王女に声をかける。
「魔物は片付きましたよ」
しかし、なぜかアンジェラ王女はジト目をして、壁を指さした。
壁を見ると、『下のボタンを、一階で左右それぞれ曲がりし回数押せ』と書いてあり、その下に左右二つのボタンがあった。
「ユウヤ様、こちらが止めるのも聞かずに飛び出すのですもの。扉を閉めたせいで声も通らないし、結界のせいでこちらから扉を開けることもできないし……」
「あー……それは失礼しました。実際にボタンを押したらどうなるんですかね」
「曲がった回数など覚えてますの? 」
「『探索』を使えば、今ここで数えられますよ」
壁にあった指示どおりボタンを押すと、部屋の中にトンネル状の光の壁が浮かび上がり……部屋の入口から出口まで一本の道ができた。改めて部屋に入ってみる。
「この光の壁は……」
「結界ですわね」
「ってことは……」
「魔物を倒す必要はなかったって事ですわね……スライモンキー、ですか。狡猾で連携攻撃が得意な魔物です。到底一人で倒せる数じゃないのですが……」
「まぁ、解決したので良しということで」
「『知の試練』にはなっていないような気がしますけど」
「気にしたら負けです」
扉から出てしばらく歩くと、ほどなくして地下3階への階段があった。
地下3階に降りると、『探索』で構造を確認する。
「地下3階は曲がりくねってはいますが、一本道ですね。所々に扉があるようですが」
「どうせ、何か仕掛けがあるのでしょうね」
そんな話をしながら、先へ進んでいき、最初の扉に着いた。
扉の横に、何か書いてあるようだ。下には5つほどのボタンが並んでいる。
「『水の神の御名を答えよ』って書いてあるな」
転生前に神々に会っていたユウヤだが、現在の記憶力に優れた肉体を与えられる前の話であり、名前など憶えていなかった。
(えーっと、何だったっけ? )
ユウヤが迷っていると、アンジェラ王女はニッコリ笑って、
「ダムキナ様ですわね」
ボタンを押すと、扉がゆっくりと開く。
「行きましょう」
それからも、いくつか扉に行き当たったが、この世界に来たばかりのユウヤに答えられるわけもなく、全てアンジェラが答えていった。
「私が言うのもなんですが、見届け人が答えていいんですかね」
「禁じられているのは、最下層の『守護者』との戦いへの手出しだけですわ」
しかし、7つ目の扉の前で、アンジェラの手が止まる。
質問を見ると、『プランタジネット朝第12代国王、リチャード5世の死因を答えよ』とある。
「プランタジネットと言うと……」
「我が王家のことですわ。ただ、リチャード5世様は行方不明と伝わっておりまして、死因は不明なのです……」
「わからないんじゃ、適当に回答するしかないですね」
ユウヤは適当にボタンを押すと……二人の視界は歪み……気が付くと迷宮の入り口にいた。
アンジェラ王女はがっくりと両膝をつく。
「また『転移』……最初からやり直しですか。さっきの場所まで行くのに、3時間近くはかかるというのに。ちなみに、あと何問あるんですか? 」
「『探索』で見る限り、全部で20問ほどのようですね」
「と言うことは、何往復すればよいのかわかりませんね。これでは、踏破にどれだけの時間がかかることか……」
「ああ、それは大丈夫ですよ。アンジェラ様、お手を失礼」
ユウヤは訝しげな表情をするアンジェラ王女の手を取ると、
「『転移』」
二人の視界が歪み……一瞬にしてさっきの扉の前に戻っていた。
「え!? ……ここはさっきの……え? 」
「『転移』で扉の前に戻りました」
「『転移』? 罠が発動したのではなく? 」
「私の魔法です。魔属性第7階梯の魔法ですね。一度行ったところなら瞬時に移動できます」
アンジェラ王女はこめかみを押さえながら、
「……第7階梯……はぁ、もういいです。ユウヤ様のされることに一々驚いていたら、こちらの身が持ちません。今後気にしないことにします」
「……ははは……まぁ、これで何回間違っても大丈夫です。気楽にいきましょう」
「『知の試練』になっていないような気がしますが……確か、『気にしたら負け』でしたわね」
その後、何回か『転移』で迷宮入り口との往復を挟んでみつつも、二人は地下3階を踏破したのであった。




