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安直勇者 ~俺はなんでも安直に解決できる勇者様~  作者: 差肥塚 祝


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アクィタニア王国との協議

 「……ということがあってな。村人のついでに、何とかならないかな? ……って、ショートケーキを気に入ってくれたのはいいけど、あんまり食うと太るぞ」

 次の日の昼下がり。ユウヤはアンジェラと、まったりお茶を楽しんでいる。

 アンジェラはすでに三つ目のケーキに手を付けていた。

 流石に、どこかの天使族のようにがっつく事もなく、あくまでも上品に、優雅に味わっているが、上品ならいいというものでもないだろう。

 「仕事が忙しいの。疲れた頭には甘いものが一番なのよ」

 アンジェラはまたケーキをひとかけら口に放り込むと、

 「でも、そのエルフ、アルノーって言ってたかしら? 流石に私の方では、どうにもできないわね」

 「そうか……じゃあどうするかな……」

 「ユウヤが直接交渉すればいいじゃないの」

 「直接? 」

 「私の立場で仲介すると、カレドニア王国からアクィタニア王国への内政干渉になりかねないの。でも、直接ユウヤが動く分にはそうはならないでしょう? 」

 「確かに、そうだな」

 「アクィタニア王国の内情がわからないから何とも言えないけど、ユウヤが直々にアデライード3世に交渉すれば、何とかなる可能性は高いわよ。何せ、ユウヤに直接忠誠を誓ってるわけだし」

 「成程ね。じゃあ、その線で行こう」

 ユウヤが立ち上がる。

 「ユウヤ、何処に行くの? 」

 「アクィタニア王国に決まってるんだろ。今アンジェラが教えてくれたんじゃないか」

 アンジェラが苦笑する。

 「行ってもいないわよ? こっちに向かってるところだから」

 「え? なんでだ? 」

 「何を言ってるの? 輿入れのために決まってるじゃないの。そういうお話だったでしょ? 」

 「輿入れ? ……あ、ジュスティーヌのか」

 「あ、じゃないわよ。自分のことでしょ? 全くもう、ユウヤったら……とにかく、来週には到着予定だから、話はそれからでいいんじゃないかしら。それと」

 「それと? 」

 「他の国も順次来るわよ。遅くとも、再来週くらいにはこの城に到着予定」

 「そうなのか? 何も聞いてないんだけど」

 「教えようにも、ユウヤは毎日どこかをほっつき歩いてるから」

 「う……」

 「皆が来たら、今までみたいに一人でフラフラしちゃだめよ。ちゃあんと未来の妻のお相手をしてあげないと。私も含めてね」

 「……はい」




 城の一角にある会議室の扉がノックされる。

 部屋に入ってきたのはアデライード3世、ジュスティーヌと今一人、痩身長躯の男である。

 男もエルフであるが、所作こそ洗練されているものの、アルノー同様、どこか油断ならない、暗い雰囲気を漂わせている。

 アルノーが席を外し、アデライード3世の前で片膝をつく。

 「アルテュール、息災のようですね」

 「……恥ずかしながら、生き恥を晒しております。陛下とジュスティーヌ殿下におかれましては、ご壮健そうで何よりにございます」

 「アルノー、いや、アルテュールか、席に着け」

 ユウヤが促すに従い、アルノーは席に戻る。

 「陛下、お久しぶり」

 「ユウヤ様、配下に『陛下』はないでしょう。『アデライード』とお呼びくださいまし」

 「……じゃあ、アデライード……城に着いたばかりなのに、すまないな」

 「いいのですよ。元とは言え、我が国の者のことですし……表に出すことはせませんが、陰ながら行く末を案じてはおりましたので。ともあれ、紹介しておきます。こちらは我らが諜報機関『緑林の守り手』の長、ピエール・マリオンですわ」

 ピエールは無言のまま、うっそりと頭を下げる。

 「早速本題に入りたいんだが、知ってのとおり、帝国の人材は各国からの移籍で賄ってるわけだけど、諜報機関だけはそれがなくてな。職務の性質上、各国から人員を派遣ってわけにもいかないだろうけど……で、このアルテュールに諜報機関を組織してもらおうかと思ってるわけだ。ただ、アクィタニア王国では粛清対象らしいから、そちらに断りなくってわけにもいかないだろう? それで、まずは事情を聞きたいんだ。アルテュールが詳しいことを話したがらないからな」

 アデライード3世に目で促され、マリオンが答える。

 「身内の恥を晒すようですが……元々我が組織の在り方に関して二つの派閥が対立しておりました。対立の詳しい事は、内部事情ですのでご勘弁を。対立は日々激化する一方だったのですが、先の長はその強大なカリスマをもってが何とか取りまとめておったのです。しかし、突然長が不審死を遂げ、箍は外れたのです」

 「ふむ」

 「長の葬儀も終わらぬ間に抗争が始まりました。更に悪いことに、両派閥とも一枚岩ではなく、両派閥の内部でも抗争が始まり、誰と誰が見方であり、敵なのかわからず、組織全体がどうしようもない混乱の渦に巻き込まれたのです」

 「酷い話だな」

 「まさに。しかし、流石にそのような状態がいつまでも続いたわけではありません。多くの犠牲を出しながらも両派閥は次第にまとまっていきました。私と、そこのアルテュールによって」

 「そんな状態なのに、王国は調停に乗り出したりしなかったのか? 」

 「それは難しかったでしょう。我が国では、諜報機関には強力な組織内自治が認められておりますので、陛下その人であっても軽々に口出しはできませぬ。それに元々が機密を旨とする組織ですので、抗争の全体像は王国すら把握できていなかったでしょう」

 「あくまでも組織内の、暗闘ということか」

 「はい。話を戻しますと、両派閥がまとまったころには、既に派閥間の力の差は明らかとなっておりました。アルテュールの派閥は、相当内部抗争が激しかったようで……決着はあっけないものでした。我らの急襲により、わずか一日でアルテュールの派閥は壊滅しました。逃げおおせたのはアルテュールのみです」

 アルテュールが嘆息する。

 「……そうか。では、クラメールもムーニエも……」

 「ああ、皆死んだ……いや、殺した」

 「そうか……」

 しばらく静寂が会議室を包んだが、それを破ったのはユウヤである。

 「事情は分かった。それで、帝国預かりにするのはどうなんだ? 」

 「妾は構いませんよ。マリオンはどうなのかしら? 」

 「我が主たるアデライード陛下がお許しになるならば、否やはございません。ただし老婆心ながら、二つほど」

 「二つ? 」

 「一つ、ユウヤ陛下に対して忠誠の儀式を行わせるべきかと」

 「忠誠の儀式……ああ、あれか。何でだ? 」 

 「元々は我が国の者にございます。旗幟を明らかにするためには必須でしょう。殊に、この男には裏切りの実績がございますれば」

 アルテュールの顔色が変わる。

 「裏切り? 」

 「はい。二つ目として、この男の裏切りの事実をお伝えします。後は、それをユウヤ陛下が是とするか否か、です」

 「言ってみろ」

 「元々、私もこの男も勝った方の派閥の領袖でございました。しかし、この男は両派閥がまとまる頃になって、突如敵の派閥に寝返ったのです」

 ユウヤはアルテュールの方を見ると、俯いて黙り込んでいる。

 「おかげで我らは大混乱に陥り、体勢を立て直すのには大変苦労をいたしました。それだけならまだしも、更なる裏切りの疑惑がございます」

 「疑惑? 」

 「我らが敵対派閥を一網打尽にできたのは、情報の漏洩に拠るところが大きかったのですが……粛清後に検証した所、どうも情報の出所が……この男、のようなのです」

 「はぁ? 」

 「というわけでこの男、致命的、もしくはそれに近い裏切りを二回もしておるのですよ」

 「そうなのか? 」

 ユウヤはアルテュールに聞いたが、答えは返ってこなかった。

 マリオンはアルテュールに問いかける。

 「そのような男が帝国の諜報組織を束ねるなど、片腹痛いと思わぬか? アルテュールよ。ユウヤ陛下に仕え、忠誠を尽くすというのであれば、事情を詳らかにし、陛下のご理解を頂くのが前提であろう? 」

 苦々しい表情から、アルテュールはやっとの事で言葉を絞り出す。

 「……其方、全て分かっているのであろう」

 「俺が分かっているかはどうでもよい。自らの主となられるお方に弁明せよと言っている」

 「……犠牲者を減らし、組織を盤石にするためだ」

 「それでは陛下には伝わらぬ」

 「……あの時、両派閥の力の差は見えていたが、そのままぶつかれば我らの派閥にも大きな被害が出ることは明白だった。だから」

 「だから? 」

 「俺が対立派閥に潜入し、致命的な隙を探ることにした」

 「何故俺にすら、黙って潜入した? 」

 「話してしまえば、詰めが甘くなるだろう。非常になり切れぬ、お前はそういう男だ」

 「事が終わった後すら、抗弁もせず逃亡した理由は? 」

 「終わってからではただの言い逃れにしかならんだろう」

 「それだけか? 」

 「……あの時、皆死んだ……クラメールもムーニエも、ネッケルも……はっきり死んだと分かったのはさっきだがな。皆派閥は違えど、俺を信じ、頼ってくれた……手を下したわけじゃなくても、皆を殺したのは俺だ。其方に言われるまでもなく、俺は裏切り者だ……」

 マリオンは一つ溜息をつくと、ユウヤの方に向き直る。

 「ご覧のとおり、この者は裏切り者でありながら、非情にもなり切れぬ半端者でございます。陛下がそれでよいとおっしゃるのなら、私に否やはございませんが、いかがでしょうか」

 その後もいくつかのやり取りがあったが、結局アルテュールはユウヤに忠誠を誓うこと、アクィタニア王国では死亡扱いとし、アルノーの名で帝国戸籍に潜り込ませること、既に持っているアクィタニア王国の情報は帝国に流さないことなどが取り決められた。

 「アルテュール、いやアルノーのこと、よろしくお願いいたします」

 最後にマリオンはそう言い残し、他の二人とともに退出する。

 ユウヤは椅子に座ったまま大きく伸びをすると、

 「つまり俺は、ダシにされたってことか」

 「……気づいておられましたか」

 「そりゃな。要するにあいつ、マリオンか、アルノーの事情は理解してるって言いたかったんだろ? 」

 「刎頸の、仲でございました」

 「だからって普通、本当に頸を切らせようとはしないけどな」

 「それも計画の内でしたが……今考えると、私が逃げおおせたのは、彼の手引きだったようです。無論それとわからないようにはなっておりましたが……裏切者だの、非情になり切れぬなど、彼に言われるのはいささか……」

 「まぁいいじゃないか。昔のことだし、この話はこれで終わりにしよう。これから忙しくなると思うが、しっかり頼むぞ」

 アルノーはユウヤの前に膝をつき、ユウヤに向け剣を捧げる。

 「神明に誓いまして」

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