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安直勇者 ~俺はなんでも安直に解決できる勇者様~  作者: 差肥塚 祝


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帰ってきた男

 その次の日、ユウヤは隠れ村の村長宅を再訪していた。

 「本当に大丈夫、なのですじゃな? 大恩もありますじゃで、イサム様のことを信用しないわけではありませんじゃが、その、儂もこの村に責任がある身じゃで……」

 心配そうに聞く村長。ユウヤが村民のリストの作成を依頼したところ、以外にごねられている。

 「まぁアンタらの立場上、逮捕されるのを心配するのはわかるが、ここは俺を信じてくれ。さっきも言ったけど、犯罪者扱いを取り消す段取り上、誰を対象にするかハッキリさせる必要があるんだ。第一、もし皆を犯罪者として捕えるつもりだったら、軍隊なり警吏なりを連れてくるはずだろ? 」

 「まぁ、それはそうなのですじゃが……」

 村長が言い淀んだところに、戸外から大きな声が聞こえてきた。

 『アルノーが帰ってきたぞぉっ……!! 』

 「アルノー? 村民か? 」

 ユウヤは首を傾げる。

 「そういえば、イサム様はお会いしておりませんでしたな。アルノーは村民の一人なのですじゃが、ここ一か月ほど行商に行っておりましたのじゃ」

 「行商? 」

 「エルフ族じゃで、風属性の魔法『収納』と『加速』が得意でして……村の作物を時々カレドニア王国に売りに行って、足りない物資を狩ってきてもらっておりますのじゃ」

 「行商に使えるほどの『収納』ってことなら、魔力も大したものなんだろうな」

 「魔法だけでなく、腕も立ちますじゃ。無口な男ですじゃが、いつも村のために黙々と働いてくれるじゃで、村の皆から大層信頼されておりますじゃ」

 そんな説明を受けている間に、男が足早に部屋に入ってきた。

 「村長、今帰った」

 「ご苦労じゃったな、アルノー」

 村長が鷹揚に返事を返す。

 男は旅装に身を包んでいた。長い耳に、多少地味ながら端正な顔と、確かにエルフ族らしい風体ではあったが、ユウヤは別の所に強い印象を感じていた。

 (こいつ……只者じゃないな。微かだけど目つきが暗いというか……剣呑なものがあるし、何気ない動作の中に……何と言うか、まるで隙がない。第一、足音がまったくしなかったぞ)

 アルノーの方もユウヤに何かを感じたのか、胡乱な目をして口を開く。

 「村長、こちらの魔人族は? 」

 「こちらはイサム様じゃ。お主は知らんじゃろうが、実は先日、食糧庫が焼け落ちてのう……」

 「何だと!? 」

 「慌てるでない。まぁ儂らも途方に暮れたのじゃが……そこにこのイサム様が、大量の食料を提供してくれてのう……焼け落ちた食糧庫も、建て直してくれたのじゃ」

 「倉庫を、建て、直した……? 」

 「そうじゃ、魔法を使って、あっという間にのう。村の魔人族達さえも驚くほどの魔法じゃったが」

 「……そうか。イサム殿、礼を言う……村長、俺は家に帰る」

 そう言い捨てると、アルノーはさっさと踵を返して去っていった。

「イサム様、気を悪くしないでやってほしいですじゃ。あれは誰に対しても不愛想じゃで……悪気はないのですじゃ」




 「じゃあ、頼んだぞ」

 なんとか村長に村民のリスト作成を確約してもらい、集落を後にしたユウヤ。

 村の畑を通り抜け、森に入ってしばらくした所で声をかける。

 「用件を聞こうか」

 その声に反応して木々の間から姿を現したのは、アルノーだった。

 その暗い表情に、もはや隠そうともしていない剣呑な目つき。

 その両手の小手からは、鋭く長い刃が伸びている。

 ユウヤはその装備に見覚えがあった。

 確かいつぞやの剣闘会で優勝したエルフ族が身に着けていたものだ。

 確か、ジャン・ルイとか言ったか。

 ただしあの時とは違い、刃は木製ではない。

 「イサムとか言ったな。貴様……何者だ」

 村で聞いたより一層暗く、抑揚のない声であった。

 「俺か? 実は、この近くに町を作る計画があってな。その建設の関係……」

 「そういう触れ込みだということは聞いている。……まさか、それを信じろとでも? 」

 「嘘じゃないんだけどな」

 「村の連中は見抜けなかったようだが、俺にはわかる。貴様、尋常な腕ではなかろう? どう見ても、町の建設云々などという柄ではない」

 「お互い様だ。お前だって、どう見ても只者じゃないだろう」

 「……何者であろうが、俺はこの村の住民だ。受け入れてくれた、この村を守らねばならん。貴様のような正体もわからぬ……危険な男を放置するわけにはいかん」

 アルノーは刃物のはまった右手をユウヤの方に突き出した。

 「まぁ、信じてもらえないのはしょうがないかなぁ。それに、俺もお前の腕には興味があるし……いいぜ、かかってこい」

 そう言うと同時に、アルノーはユウヤに飛びかかってきた。




 戦い始めて、三十分が経とうとしていた。

 アルノーの攻撃は一向に衰えることを知らない。

 相当な威力の『加速』を使った上での足捌きや強力な蹴り、両手からの無数の斬撃や刺突、死角からの『風刃』、それら全てを有機的に連携させ、多くの巧みなフェイントも織り交ぜながら、息つく間もない攻撃を続けている。

 ユウヤも内心舌を巻いていた。

 (腕が立つのはわかってたけど……こいつ、強いなんてもんじゃないな! あのジャン・ルイだったかも相当なものだったけど、あいつとすらあからさまに段が違う。下手したら、あのオリバーでも不覚を取りかねないぞ……何者なんだ? )

 と、一旦アルノーが飛び退いて距離を取る。冷静ながらも多少の怒気を含んだ声で、ユウヤに問いかけた。

 「貴様……何のつもりだ」

 「何がだ? 」

 「これだけ戦っているのに、一向に攻撃してこないのは何故だ。まさか、その余裕がないとは言うまい? こちらがあえて隙を作っても、一切反応もしない。」

 「いや、お前の戦いっぷりが余りにも見事なんでな……つい見とれちまってた」

 「……愚弄するか? 本気を出せ」

 「事実なんだがな……まぁいいや、じゃそろそろ反撃するかな。『加速』」

 次の瞬間ユウヤの姿が消え、アルノーの首にユウヤの剣が突きつけられていた。

 「な……」

 「俺の勝ちでいいか? 」

 アルノーは両手を上げ、無言で座り込む。

 ユウヤが剣を収めると、アルノーはユウヤに向き直って片膝をついた。

 「俺……いや、私の負けでございます。」

 「どうした? 急に態度を改めたりして」

 「失礼ながら……ユウヤ・ユリウス陛下とお見受けしましたが、如何? 」

 「おいおい、お前には俺が人間族に見えるのか? 」

 「姿など、魔法でいくらでも変えられます。それに、お名刺は頂きました」

 「名刺? 」

 「はい。これでも、腕には些か自信がございます。それこそあのオリバー大将軍や、シェンノンのカイシャン陛下が相手であっても、勝てぬまでもそれなりに戦える程度は。しかし」

 アルノーが真っすぐユウヤの目を見る。

 「正直、戦いというのも憚られる程、技量に差がございました。手前味噌ですが、この私をこれほど簡単にあしらえる方など、他にあろうはずがございません。決め手は最後の『加速』でございます。私が姿を捉えることもできぬような『加速』など、到底余人に使えるわけがございません」

 「なるほどな。まぁ、正解だ」

 変装を解いたユウヤの顔を見て、アルノーがその場で額ずく。

 「この首、大逆罪の咎で刎ねていただいて結構でございます。しかし……これは私の独断で行ったこと、でき得れば村人にはお慈悲をお願いたてまつります。、犯罪者の村には違いありませんが、皆、心根は善良な者たちにて」

 「おいおい、大逆罪はないだろ。俺はまだ即位したわけじゃないしな。村人の大部分が逃亡者ってのは知ってるけど、罰するつもりなら、俺じゃなくて警吏が来てるはずだろ。心配する必要はない。それよりも」

 ユウヤはアルノーの前に胡坐をかく。

 「お前一体、何者なんだ? 自分でも言ってたが、オリバーとかカイシャンに次ぐ腕があるのは手前味噌でも何でもない。俺は両方と戦ったことがあるからな。でも、これほどの腕があるエルフ族がいるんなら、名前ぐらいは聞いてると思うんだけどなぁ……言葉遣いも平民のものじゃないしな」

 「……私は、裏の者でしたので」

 「裏? 言われてみれば、戦士というより暗殺者みたいな戦い方だったな。暗殺結社のメンバーとか、そんなのか? 」

 「滅相もございません。これは村の他の者には秘して頂きたいのですが……私は元々、アクィタニア王国が諜報組織、『緑林の守り手』の幹部でございました。当時の名はアルテュール・ヴィラールでございます。捨てた名前ではありますが……」

 「諜報組織? 何でエルフ族の諜報組織の人間がこんなところにいるんだ? こんなところに探るものなんか……あ、元だったっけ。なんか不始末でもやらかしたのか? 」

 「……権力闘争に破れ、追放されたのです」

 「ほう」

 「先代の長がみまかられた際に、私と、もう一人の有力者のいずれが後を継ぐかで、血で血を洗う暗闘がございまして……」

 「で、お前さんが負けたと」

 「はい。身一つで逃げ出し、何とか命だけは永らえたのですが……行くあてもないこの身を、快く受け入れてくれたのが、この村だったという次第です」

 「村人をかばってたのは、そういう理由か」

 「受けた恩は、返さねばなりません」

 「事情は分かった。ところで、こんな田舎に住んでるのに、よく俺のことなんか知ってたな」

 「村に危険が及ばぬよう、行商の度に遠出して情報を集めておりました。実は、かの凱旋式で、ユウヤ様のお姿も拝見しております。村にはまだ報告しておりませんでしたので、他の村人たちは陛下どころか、前の戦争のことすら知らぬと存じます」

 「まぁ、それも職業柄ってとこだな」

 ここでアルノーは唾を飲み込むと、意を決したように問いかける。

 「それで……この村を、どうされるおつもりなのでしょうか? 」

 「帝国建国に当たって、首都を建設するって話は知ってるか? 」

 「……噂程度には」

 「その首都の建設地はこの近くなんだよ。そうなると、この村の存在は遠からずバレるだろ? このままってわけにはいかんだろ。それでだ」

 「それで? 」

 「いっそのこと、新首都に移住してもらおうと思っててな。聞いた限りじゃ、暮らし向きはあまり良くないんだろう? ちなみに過去の犯罪については、恩赦の方向で話を進めてる。全員を恩赦できるかは、まだわからないけどな」

 「村人のリストを作れといってたのは、そういうことでございましたか」

 「ああ。お前からも、村長に信用するよう言っといてくれ」

 「かしこまりました。村への最後の奉公ということで、必ず説得いたします」

 「ん? 最後の奉公? 」

 「先程申しました通り、私は犯罪者ではなく、組織から狙われる身です。恩赦に意味はないのです」

 「あー、そういうことか……うーん、何か手を考えてみるけど、ちょっと時間をくれ。俺の知らない間に村を出ることがないようにな」

 「はっ。ご配慮、感謝いたします」

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