隠し村へ
ユウヤを襲った五人全員は仲良く地面に横たわって呻いている。ユウヤはリーダー格らしい男の側にしゃがみ込んで話しかける。
「まだやるかい? 」
「はぁ、はぁ……参った、降参だ。どうあがいても勝てる気がしねぇ……」
「人を襲っといて、『降参しました』で許してもらえるとでも? 」
「……わかった、俺がリーダーだ、好きにしてくれ……ただ、他の奴は許してやっちゃもらえねぇか? 」
「へぇ…追剥の頭にしちゃ殊勝だな」
「俺たちゃ追剥じゃ……ねぇよ! 人様から金を脅し採ろうとしたのだって初めてだ」
「嘘をつくなよ。こんな住むところもない場所で、追剥以外に何をしてたってんだ? 旅人には見えないけど? 」
「……それは……いや、ちょっとその、事情があって……だな……」
「事情? どんな? 」
ユウヤに問い詰められた男は上体を起こし、開き直ったようにその場に胡坐をかく。
「………分かった、事情を話すよ。俺たちゃこの近くの村のもんだ」
「村? こんなところに? 」
「村って言っても、名もない隠れ村だけどな」
「隠れ村? 」
「カレドニア王国から逃げてきた、国から見りゃ逃亡者の作った村だ。お尋ね者だから、こんな田舎の街道から外れたところで、ひっそりと暮らしてるってわけだ」
「結局犯罪者じゃねぇか」
「い、いや、それはまぁそうなんだけどよ……元々俺たちゃ辺境伯領の外れにある村の、真っ当な村民だったんだよ。その頃も貧しかったんだけど、それでも農業と狩りで真っ当に生きてた良民だったんだ」
「それが、何で逃亡したんだ? 」
「十年ほど前に辺境伯様が亡くなっちまったんだが、跡継ぎがどうしようもないバカ息子でなぁ……税は倍になるわ、労役は増えるわ……元々貧しい村だったから、あっという間に立ちいかなくなってな。終いにゃ女狩りまで始めやがったから、仕方なく村ごと逃げ出したってわけだ」
「そりゃ酷い話だな。王国に訴え出るとかはしなかったのか? 」
「こちとら辺境伯領のたかが一つの村だぞ? 王国に訴え出るって言っても、伝手なんかあるわけねぇだろ」
「なるほどね」
「で、この近くに村を作ったんだ。開拓は大変だったがな。税もないし、今までは貧しいながらもなんとかやれてたんだが……実は先週、村の倉庫が全焼しちまって、小麦の備蓄が殆どパァになっちまったんだ。このままじゃ冬を越せねぇし、やりたかぁねぇが背に腹は変えられねぇってことで、追剥の真似事のひとつもと思ったんだが……初めてのカモがよりによってあんたみてぇな化け物とはな……どれだけ運がないんだか」
「そういうことだったか。しかし、なんで倉庫が全焼するほどの火事になったんだ? 小さい村なら、そんなに火の気なんてないだろうに」
「それが間抜けな話でなぁ……知らねぇかもしれねぇが、最近この辺じゃやたらと地震が多くてな。天変地異の前触れかも知れねぇってことで不寝番を立ててたんだが、その不寝番が居眠りしちまってな……そいつが持ってた松明の火が建物に燃え移っちまった。不寝番以外も寝てたから、気が付いたころには倉庫が火だるまになってたよ」
「地震? 」
背筋が冷たくなるユウヤ。
(やたら地震が多いって、ひょっとして……俺、のせい……だよな? )
男がいぶかしげな顔でユウヤを覗き込む。
「どうかしたか? 」
「いや……何でもない」
「まぁ、俺たちの事情はそんなとこだ。言い訳にはならねぇけどな……で、俺たちはどう落とし前をつければいいんだ? 」
「ん? 」
「あんたを襲った落とし前だよ。さっきの話でわかるだろうが、詫びを入れようにも先立つものがねぇんだよ」
「そりゃそうだろうな。うーん、そうだな……とりあえず、村まで案内してもらおうか」
「あ、いや、それは……」
「ああ、別に女をよこせとか、無茶を言う気はないぞ。それに……食料がないんだろ? 分けてやってもいい」
「いや、あんた手ぶらじゃねぇか」
「おいおい、さっき『食料とか金は『収納』で仕舞ってあるんだろう? 魔人族だしな』なんて言ってたのはお前らだろ? 実際、狩った魔物を大量に持ってるしな」
「う……いやしかし……」
「ここで渡してやってもいいんだけど、到底持ち運べる量じゃないぞ? 」
「……本当に、分けてくれるんだろうな? 」
「ああ」
「……わかった。こっちだ。ついてきてくれ」
「ところで、お前の名前は? 」
「エイデンだ。こいつらは、右からアル、デビッド、レイン、ライアンだ。あんたは? 」
「……イサムだ」
ユウヤは街道から離れ、森の中をエイデン達と歩いていく。
「結構遠いのか? まぁ隠れ村って言ってたし、そんなに近くにあるわけないか」
「そうでもねぇ。もうそろそろだ……ほら、あれだよ」
木々の隙間から、広々と開けた窪地が見えてきた。
かなり広い土地だが、全体がちょっとした窪地になっており、うまく街道からは見えないような場所である。
開けた土地の大部分は畑になっており、所々に農作業をしている人たちが見える。
中心には集落があるようだ。
「かなり大きい村だな」
「まぁ、二百人からの村民がいるからな」
五人はときおり道の近くにいる農民と挨拶を交わしているが、のどかな雰囲気ながら、農民たちの表情はどこか暗いものがあった。
集落に入ると、作業をしていた農民の暗さとは対照的に、結構な数の子供たちが元気に走り回っていた。
「子供は元気そうだな」
「今のところガキ達には、ひもじい思いはさせてねぇからな……いつまで持つかはわからんが。とりあえず、村長の所に案内する。報告もしなきゃならんしな」
そう言うと、エイデン達は集落の中心近くにある、他より一回り大きい家に入っていく。
「村長、いるか? 客人だ」
エイデンが家の入り口で呼ばわると、小柄な老人が出てきた。頭は完全に禿げ上がり、それ対照的に腹までもある、真っ白な髭印象的な好々爺といった風情である。
「皆、見回りご苦労じゃったな。客人は……ほう、魔人族の方ですかな。儂はこの村の村長をしております、オルウィンと申しますじゃ。まぁ、こちらにどうぞ。茶なり進ぜましょう。おーいお前、お茶を頼む。七人分じゃ」
オルウィンは家の奥に大声で言うと、ユウヤ達をテーブルに着くよう促す。
「お名前をよろしいか? 」
「イサムだ」
「こんな辺鄙なところに、よう来られましたな。迷われたかな? 」
エイデンが口を挟む。
「いや、イサム……さんは、村の事情を話したら、食料を分けてくれるってことになったんで、お連れしたんだ」
「食料を? それはありがたいことですじゃが……村には二百人からの民がおりまして……人一人に援助していただいてどうにかなるものでは……」
ユウヤは老婆が出してくれた茶を一口すすると、
「とりあえず、魔物の肉は今すぐにでも、かなりの量提供できるぞ。解体はしてないが、それくらいはそっちでできるだろ? 」
「? ……何もお持ちでないようですが? 」
「魔法で収納してある。こんな感じだな」
ユウヤは『収納』を使い、何体かの魔物の死体を取り出して見せた。
「!! ……これは助かりますですじゃ、お礼申し上げます」
「で、どれくらいいるんだ? 」
「そりゃ、あればあるだけ我らは助かりますが……」
「そうなると、この部屋じゃ入らないな。何処に出したらいい? 」
村長は首を傾げる。
「入りきらない……? あの、失礼ですが、食べられないような古いものは……」
「心配いらない。魔法で保管してあるから、どれも新鮮な奴だぞ」
「そう……ですか? ……そ、それでは、村の広場でお願いしますじゃ」
村の広場に連れられて来たユウヤは、『収納』で狩った大量の魔物を次々と取り出し始める。
この世界にきて間もないころ、オリバーとの訓練で魔物を狩り、いや大量虐殺しており、ギルドで捌ききれない分を『収納』に放り込んで、そのままになっていたのだ。
魔力的には到底『収納』で保管できる量ではないのだが、それは無尽蔵の魔力を持つユウヤには関係なかった。
魔物を出していくごとに、村長を始めとした六人が唖然とした表情になっていく。
そして魔物の数が三十体になったところで、慌てた村長からストップがかかった。
「これ以上頂いても、流石に捌ききれませんですじゃ。十分でございます……お前たち、済まんが村の衆をここに集めておくれ。村人総出でかからんと、この数はどうにも……」
「分かった」
エイデン達が走り去ると、村長はイサムの方に向き直る。
「イサムさん、でしたな……お陰様で我ら、暫くの間は糊口をしのいでいけますじゃ。この通り、お礼申し上げます。しかし……ご覧のとおり貧しい……というより、お金すら流通していないこの村では、お代の方が……」
「別にいらんよ、どうせ使い道もなくて、余ってた物だしな。それよりも、食糧倉庫が燃えたって聞いたんだけど、そこに案内してもらえるか? 」
「食糧倉庫? 確かに燃えましたが……何のため……いや、ご希望ならご案内するのは構わんですじゃが……」
いぶかしげにしながらも、村長は村はずれにユウヤを案内する。
そこには、焼け落ちた倉庫、というより、所々に炭化した木材が散らばっているだけの、四角く真っ黒になった地面があった。
村長は哀しげな眼をして、目頭を押さえる。
「激しい火事でしてなぁ……あの日は風も強くて、水をかけたくらいではどうにもならんかったですじゃ。皆で苦労して、倉庫一杯に蓄えた小麦じゃったのですが……延焼もせず、怪我人や死人も出なかったことだけが不幸中の幸いですじゃ」
「そうか……結構大きいし、かなりの備蓄があったんだろうな」
「ええ、ええ、それはもう。この、地面が黒くなった場所全体に、二階建ての倉庫が立っておりまして……その倉庫一杯に小麦が」
「二階建てだな。よし」
おもむろにユウヤは『収納』で巨大な立方体の石材を取り出すと、『造型』を使う。
石材が粘土のように不定形に動き始め、少しずつ建物の形に変形していく。
(城壁の建設で『造型』を使いまくって大分慣れてきたからな、建物一つくらいなら、ちょっと地鳴りがする程度で……)
などと考えている間に、ユウヤ達の目の前に立派な二階建ての建物ができていた。
「こんなもんでいいか? ……あ」
ユウヤが振り返ると、村長は尻もちをつき、建物を指さして震えていた。
「あ……あ……こ、これは、一体……何が……」
「何って、食糧倉庫だよ。これでいいか? 石でできてるから、火事にも強いし」
「え? あ……た、大変結構で、ございますじゃ……こ、これは、何の奇跡じゃろうか……? 」
「ただの魔法だよ。魔法は得意なんだ」
「……うちの村にも魔人族はおりますし、確かに魔法は得意ですじゃが、そんなレベルではないのでは……」
「まぁ、細かいことは気にするな。とりあえず、広場に戻ろうか」




