定礎の儀式
初めてご評価をいただきました。
評価していただいた方、ありがとうございます。
これからもよろしくお願いいたします。
ユウヤにあてがわれた部屋は、天蓋付きのベッドを始めとして、照明から絨毯、装飾品に至るまで上品ながらも豪奢なものであり、執務机や応接セットに至るまで完備されている。
今応接セットでは、ユウヤと6人の王女殿下改め婚約者が寛いでいる。テーブル乗にっているのは、オリヴィアが用意してくれた人数分の香り高い紅茶とショートケーキだ。
「こんな美味しい物があるなんて、知らなかったな。僕もカレドニア料理はある程度知っているつもりだったんだけど」
すっかりご満悦のジュスティーヌ。他の四人にもなかなか好評のようだ。
「これね、ユウヤが教えてくれたレシピなのよ」
「我が国でも、麺料理を披露していただきましたわね」
「…ずんだ饅頭」
自然にユウヤのレシピの話題になったが、不意にアディオラが悪戯っぽい表情でユウヤを軽く抓る。
「ユウヤ、うちの国では何も作ってもらってないわよ?」
「痛い痛い。だってカネム・ボルヌはそれどころじゃなかっただろ?軍糧しかなかったし」
「わかってるわよ。でも、それはもう落ち着いたわよね?」
「ああ、カネム・ボルヌ料理を食べたら、何か合うものを披露するよ」
「楽しみにしてるわよ」
クスクス笑うアディオラ。
和やかな雰囲気の中で、ユウヤがふと真面目な表情になる。
「ところで…話は変わるけど、みんな、俺でいいのか?」
キョトンとする6人。アンジェラが不思議そうな表情で聞き返す。
「何の話かしら?」
「だから、その…俺と結婚するっていう話なんだけど」
「それがどうかしたの?」
「みんな王女様なわけだし、何て言うか、縁談なんていくらでもあるだろう?俺は貴族でもなんでもなかったわけで…それにそもそも……ほら、何日かしか付き合いがないわけだし…」
「王女に選択肢なんて殆どないわよ?普通は親が決めて政略結婚するものだし。寧ろ、今回はユウヤっていう選択肢があっただけよかったくらいよ。それに、ユウヤはこの大陸を救った英雄にして、この大陸の初代皇帝になるのよ?不満なんかあるわけないじゃない」
「強き殿方と結ばれるのは、竜人族の女にとっては最も大切なことです。父上が歯が立たぬ殿方となれば、それだけでも理想の殿方ですよ」
「強さだけじゃなくって、非常識な魔力もあるし…ユウヤといれば、魔法の研究がとっても捗ると思うわ。よろしくお願いするわね」
「…また美味しいもの作ってくれれば、いい」
「アンタ、私じゃ不満なの!?」
「いいんだけど、寧ろ…僕でいいのかな?ほら、僕は女性としては…ごにょごにょ」
皆特に、不満はなさそうだ。
「みんながいいなら、俺はかまわないけどな…長い付き合いになると思うけど、よろしく頼む。ところで、アンジェラ以外は、一旦国元に帰るんだったよな?」
「輿入れの準備もあるしね」
「帰る前に、一旦首都建設予定地に行って『定礎の儀式』っていうのをやるって話だったと思うけど、『定礎の儀式』って何なんだ?」
「ああ、新しい都市とか町とかを建設する時に、祈祷をして祠を建てるの。その祠を中心にして、町作りをしていくのよ。新しい町の主要人物が出席して、神官が祈祷を行うんだけど……今回建設するのは帝国首都だから、各国全ての首脳部が出席して、儀式も全ての国から大神官が集結することになってるわね」
「じゃあ、結構豪華な儀式ってことか」
「そうでもないわよ?確かに出席者は豪華だし、警備も含めれば参加人数だけは多いけど…何もない所、今回でいえば森のまっただ中を少しだけ切り開いて、小さな祠を6つ設置して、その周りで行う儀式だし。豪華になるのは儀式の後よ」
「儀式の後?」
「祠を中心にして城を建設して、周りに貴族街、そのまた周りに市街を作って、一番外は城壁で囲って…まぁ、全部形になるのは数十年後だけど」
「あぁ、そういうことか…気の長い話だな」
それから三週間後。ユウヤは『定礎の儀式』に向かう馬車に揺られている。
ここ10日近く、食事時と就寝時以外はひたすら馬車に座っているだけの生活になっていた。
それはまだいいとしても、窓の外に映るのははひたすら木々と、馬車に並走する護衛の騎士ばかりと、殆ど風景が代わり映えしないのはいただけない。
加えて、王族を始めとした各国の重鎮がいる以上、大勢の護衛がつくことになり、大集団であるゆえにかなりゆっくりとした進行になっていることも、ユウヤをげんなりさせていた。
「幾らなんでも退屈すぎるな。ちょっと外を飛んできてもいいか?」
馬車から出ようとするユウヤを、馬車に同乗しているコンプトン卿が宥める。
「なにとぞご自重を。ユウヤ様に害をなせる存在がいるとも思えませんが、護衛の立場もございますので…」
「それはそうだけど…ここまで延々と、代り映えのしない風景が続くとなぁ」
「こればかりは致し方ございませんな。逆に、これだけ何もない場所だからこそ、新たに都市を建設できるわけですから。まぁ、今日の昼頃には到着する予定ですので、もうしばらくご自重ください」
「…わかった。それにしても、これだけ大きい樹海を切り開くとなると、それだけでも時間と労力はとんでもないことになるんだろうな」
「全く、頭の痛い問題です。樹林を拓く予算はともかく、作業をする人員には限りがございますからな…焦らずじっくりと、建設とも並行して取り組んでいくしかございますまい。無論、急がせはしますが」
「…」
馬車を降りたユウヤの前に、半径10m位の空間がぽっかりと開いていた。
今回の儀式のためにわざわざ切り拓いたのであろう、草も奇麗にに抜かれており、所々に木の生えていたであろう跡が残っている。
中心には祠が六つほど、円形に配置されており、各国の重鎮が跪いていた。円の周囲には各国に通じているのだろう、今来た道を含めて六方向にそこそこ広い道が通っている。
「ここが、儀式をやる場所か」
「そして、新しい都市、インぺリアの中心になる場所でございます。ユウヤ様、まずはこちらへ」
ユウヤは祠の一つの前に跪く。後ろにウィリアム12世を始めとしたカレドニア王国の重鎮が跪いているので、水の神ダムキナの祠なのだろう。
大神官がユウヤの前に跪くと、身振り手振りを交えながら祝詞を唱える。
以前のように神々のいる部屋に意識が移動するということもなく祝詞は厳かに、延々と続いたが、終わると同時に一筋の青い光が祠に天から眩い光が降り注いできた。
ユウヤは促されるままに順次隣の祠に移動し、最終的には六つすべての祠に、それぞれ違う色の光が降り注いだ。
「お疲れさまでした。儀式は以上で終了になります」
「光が消えてないんだけど…放っといていいのか、これ?」
エピルスの大神官が空を見上げ、厳かに答えた。
「確かに通常は数分で消えるものではありますが…問題ありますまい。それだけ、ユウヤ様は神々の恩寵篤き方であるということ。加えて、今回は六神全てに祈りを捧げておりますれば。寧ろ、帝国首都の記念すべき門出には相応しいかと」
こうして儀式は終わり、六国はそれぞれの岐路に着いたのであった。
「うちは居酒屋じゃないんだがな」
オリバーが苦笑しながら杯を傾ける。
「しょうがないだろう、暇なんだから」
口に放り込んだ上質な肉を嚥下して、むくれるユウヤ。
カレドニア王国首都デルフォードに戻ってきて以来、無聊を囲っていたユウヤは、ここのところオリバー宅に足繫く通っていた。
「特に仕事をあてがわれるじゃなし、コンプトン卿もアンジェラもやたら忙しそうで声かけづらいし…」
「そりゃしょうがないだろう。コンプトン卿は帝都インぺリアの立ち上げの総責任者だからな、今は体が幾つあっても足らんくらいだろう。アンジェラ殿下もその補佐だからな。もっとも、今はあえて貴公と距離を置いてるってのもあるらしいがな」
「え、そうなのか?」
「他国の婚約者への配慮らしいぞ。抜け駆けはしないってことだな」
「オリヴィアに手を出すなって釘を刺されたのも、そういうことかな?」
「それは配慮とかそういう問題じゃないな。婚約者が、それも六人もいるのに、他の女に手を出しちゃまずいだろ」
「言われなくても手は出さないけどな。ところで、オリバーはインぺリアには来ないのか?」
「残念ながらな。コンプトン卿が帝国宰相となる以上、大将軍までうちの国から出すわけにはいかんだろう?他国の面子が立たんよ」
「まぁね」
「ところで、暇潰しに暫くデルフォード見物をするって言ってたと思うんだが?初日のアレは笑ったがな」
「あの時はひどい目にあった」
ユウヤは顔をしかめる。先週デルフォードの街を見物しようとして城外に出たはいいものの、パレードでユウヤの顔を見知っていた市民に取り囲まれてもみくちゃにされ、『飛翔』で這う這うの体で逃げ帰るはめになったのだ。
「カネム・ボルヌのアディオラからもらったペンダントで変装したら、見物自体はできたんだけどな…一週間もしたら、流石に飽きたよ」
「ふむ、それはそうだろうな。それなら、兵舎の方で訓練に参加でもしてもらうか…いや駄目だな」
「なんでだよ」
「誰が貴公の相手をするんだ?俺は御免被るぞ。他の者に相手をさせても、死人か怪我人が出るだけだしな。ふむ…そうだな、インぺリアの立ち上げ業務の視察ってのはどうだ?」
「視察?」
「今、各国から選ばれた貴族たちが、デルフォード城で法律とか都市開発とか、各班に分かれて帝国の立ち上げに関する業務をやってるのは知っておるだろう?貴公も大まかなことは知っといた方がいいだろう?何なら俺から話は通しとくが」
「そりゃいいな。是非頼むよ」




