『知の試練』への道
それから3日後。ユウヤの姿は王城の謁見の間にあった。
王と貴族がいるのは前と同じであったが、王のそばに白いドレスを着た女性が控えている。
意思の強そうな目と、流れるように長く、目を見張るようなプラチナブロンドの髪が印象的な女性で、10人いれば10人が振り返るような整った顔をしており、ゆったりした純白のドレスに身を包んでいた。
(王妃かな? にしちゃ若いが……)
ユウヤは女性に見とれていたが、それを気づかぬげに王は話し始める。
「随分早いが、訓練が済んだと聞いておる。まずは祝着じゃ。それと、前に話しておった装備一式が整った。ドワーフの鍛えし逸品じゃ。受け取るがよい」
召使らしき者が何人か、箱をいくつか運んでくる。
箱の中には、白銀色の装備が一式入っていた。
「これは、美しい……それに、ずいぶん軽いのですね」
「全て、真銀製じゃぞ」
そう話す王の表情は誇らしげだ。
「真銀? どういう素材なのですか? 」
王が玉座からずり落ちそうになる。
「し、知らぬのか……まぁ其方は他の世界から来た者、無理もあるまい。よいか、真銀とは武具の素材としては最高の金属でな。木よりも軽く、鉄よりも強靭。加えて魔法にも強く、弱い魔法であれば弾いてしまう代物じゃ。ただあまりにもに希少な素材ゆえ、これだけのものを持てる者はそうはおらぬ。我らは王族であってもな」
「それほどの物をそろえていただき、ありがとうございます」
その場で着るわけにもいかないので、「収納」の魔法を使う。
「訓練も終わり、装備も整った。これからは『試練の迷宮』に挑んでもらうことになるが、『試練の迷宮』については聞いておるか? 」
「アーティファクトが手に入ることくらいは」
「ではざっと説明しておこう。『試練の迷宮』は各王国に一つ、合わせて6か所にあり、それぞれ異なる能力が試されるという。わが国の迷宮では、其方の知力が試されるらしい。特に迷宮の一番奥では、強力な『守護者』がアーティファクトを守っているという」
「なるほど」
「ここで紹介しておこう。わが娘のアンジェラじゃ」
「初めまして。カレドニア王国第一王女、アンジェラ・プランタジネットと申します。よろしくお願いします」
王のそばに控えていた女性が、優雅な所作で挨拶をする。
「こちらこそよろしくお願いします、王女殿下。……ところで、なぜここで王女殿下の紹介を? 」
王は少し苦い顔をする。
「『試練の迷宮』に挑む場合、王族より一人、見届け人が同行するしきたりがあるのじゃ。迷宮最奥におる『守護者』とは戦えぬがな。此度はこのアンジェラが見届け人を務めることになった」
「見届け人というのは必要なのですか? 王族の方、しかも女性の方が迷宮に入るのは危険すぎると思いますが。第一王女殿下となれば、戦闘の心得もないのでは」
「そうもいかぬ。王族の見届け人が同行せぬと、そもそも迷宮には入ることはできぬと伝わっておる。迷宮の入口や、迷宮の一番奥、アーティファクトがある部屋への扉をはじめとして、王族でなければ開けられぬ扉があるらしいのじゃ。それと戦闘の心得についてじゃが、アンジェラはオリバーの弟子でな、こう見えて騎士クラスの実力はある。足手まといにはならんはずじゃ。魔法はあまり得意ではないがの」
「……わかりました。王女殿下、改めてよろしくお願いします」
「こちらこそ」
それから2日後。
王宮に行くと、馬車と30名ほどの騎士が待っていた。騎士は『試練の迷宮』への往復の際の護衛とのことだった。
程なくして、アンジェラ王女が現れる。
王女は長い髪を結いあげ、旅装に身を包んでいた。先日はドレスのせいで分からなかったが、王が騎士クラスの実力があるというだけあって、筋骨隆々というわけではないが、全体的に引き締まった体つきをしていた。ただ1点、豊かな胸を除いてであるが。
ユウヤが見とれていると、アンジェラ王女がにっこりと微笑む。
「ユウヤ様、どうかしましたか」
「いや、なんでもありません」
「では出発しましょう。ユウヤ様は私と馬車へ」
二人は馬車に乗り込み、一行は移動を始める。
(さすがに王女様の移動となると物々しいな。俺一人なら、場所さえわかりゃ『飛翔』でとっとと行けるんだけどな)
ユウヤがぼんやりとそんなことを考えていると、王女が話しかけてくる。
「ユウヤ様は全属性の魔法が使えるんですって? 」
「はぁ」
「うらやましいですわ。私は水属性と土属性しか使えません。水属性なら第3階梯までは使えるのですけど……それに、剣の方も凄いと伺っております。あのお師匠様が、歯が立たなくなったと嘆いておりました」
「そういえば、王女殿下は私の兄、いや姉弟子にあたるのでしたね」
「アンジェラとお呼びください」
「いや、殿下に対してそれは……」
「ア・ン・ジェ・ラ」
「ではアンジェラ様、剣にしろ魔法にしろ私は色々特殊な事情があるので、自慢にはなりませんよ。お……アンジェラ様の方こそ、王族でありながら、その若さで既に大目録の腕と伺っております」
「王族なればこそ、強さが必要なのです。民を、国を守らなければなりませんので」
「他の王族の方もそういう感じなのですか? 」
「人それぞれではありますが、王族であれば幼いころから厳しい訓練を受けるのが当然です。他の国もそうですよ」
それからしばらく会話をしていた二人だが、不意にユウヤが窓を開け、騎士に話しかける。
「前方に魔物の群れがいる。先行する」
ユウヤはそう言うが早いか、馬車から飛び出すと、『飛翔』を使って一行を置き去りにし、魔物の方に向かって飛んでいく。
しばらくすると、前方にヒョウに似ているが、2回りほど大きい魔物が20体ほど群れているのが見えてきた。
(確かオリバーとの魔物狩りで狩った奴だな……ヴォーパルパンサーとか言ったか? もらった剣の慣らしにちょうどいいや)
ユウヤはヴォーパルパンサーの群れとぶつかりざま、剣を3閃する。
3体のヴォーパルパンサーの首が飛んだ。
他のヴォーパルパンサーは一瞬ひるんだものの、唸りを上げながらユウヤを取り囲む。
「とっとと来い! 」
ユウヤの一言に反応したわけでもないだろうが、四方八方から飛びかかってきた。
(余裕余裕)
飛びかかってきたヴォーパルパンサーを手当たり次第に両断していく。そして3分後、逃げようとする2体を切り伏せ、ヴォーパルパンサーは全滅した。ユウヤは王からもらった剣を見つめる。
(すげぇ切れ味だな。一撃で骨まで断てる。さすがドワーフ謹製の剣)
とユウヤが感動していると、騎馬が10体ほど走ってきた。
ヴォーパルパンサーの死体の山を見て、騎士が絶句する。
「これは……! 」
そうするうちに、馬車も追いついてきた。アンジェラ王女が馬車から降りてくる。
「これは……ユウヤ様が倒したのですか? 」
「はい。とりあえずしまっちゃいますんで、ちょっと待っててください」
啞然とする一行をよそに、『保管』でヴォーパルパンサーを片づけていくユウヤであった。
片づけが終わり、馬車が動き出すと、アンジェラ王女が感嘆の声を上げる。
「これだけのヴォーパルパンサーの群れを、あんな短い時間で全滅なんて……! 」
「大した魔物ではありませんでしたよ」
「ヴォーパルパンサー単体なら、ある程度強い騎士であれば倒すことはできるでしょうが、これだけの数となると……」
「いただいた剣が素晴らしいものでしたので。魔物をやすやすと両断できました」
「……そういう問題ではないと思います……ところで、どうしてあんなに早くヴォーパルパンサーに気づけたのですか? 」
「『探索』の魔法ですよ」
「魔法を使った様子はありませんでしたが? 」
「馬車に乗る時からずっと使ってましたよ」
「ずっと!? 」
「え? つ魔物が襲ってくるかわからないわけですし、ずっと使ってた方がいいですよね? 何か問題でも? 」
「確かにそうなのですが、そんなことをすれば、普通は1時間もしないうちに魔力が尽きてしまうのですが……」
「……特に魔力が減ってるようには感じませんが」
「……えぇ……」
そんな話をしながら、一行は2日ほどかけてようやく『試練の迷宮』にたどり着いたのであった。
人里離れた山裾に崖がそびえたっており、崖下に精巧な彫刻が施された大きな扉があった。脇には数十人は入れそうな建物がぽつんと建っている。
数人の騎士が建物から出てきて並び、直立不動の姿勢をとる。
アンジェラ王女は出迎えた騎士達を労い、同行してきた騎士達に建物で待機するよう命ずると、
「この扉が『試練の迷宮』の入口です。建物の方は迷宮の管理、と言っても中には入れないので、迷宮までの道の管理などをする者達の拠点です。こちらで準備を整えましょう」
二人は建物に入り、荷物を整えたり、装備を身に着けたりといった準備をする。
とはいっても、荷物はユウヤが『保管』を使うだけで事足り、王からもらった装備は非常に軽いだけでなく、造りにも工夫が凝らされており、ユウヤ一人で装備が可能だったため、準備にはさほど時間はかからなかった。
準備が終わった二人は、扉の前に立つ。
「それでは行きましょう」
アンジェラ王女が扉に軽く触れると、全体がぼうっと光を放ち、軋み音を立てながらゆっくりと開いていった。




