意外な報酬
初めてブックマークをいただきました。
ブックマークをしていただいた方、ありがとうございます。
正直、心が少し折れかけていたので…
これからもよろしくお願いいたします。
「お疲れさまでした」
ようやくバルコニーから退出したユウヤに、コンプトン卿がうっそりと頭を下げる。
「ふぅ……やっと終わった。ところで、何だったんですか?さっきの……儀式みたいなのは」
「そのことでしたら、六王各陛下から説明がございます。こちらへ」
案内された部屋では、すでに六王が席についていた。促されてユウヤも着席する。
ウィリアム12世が口を開く。
「凱旋式お疲れさまでした、ユウヤ様」
「ユウヤ……様?様って……」
アルテミシア5世はにっこりと笑うと、
「主君に敬語を使うのは当然でございましょう? 」
「主君? ……は? 」
「先程、我らの誓いを受けられたではございませんか」
「誓い? 」
「先程我らが剣を差し出し、ユウヤ様が口づけをして返されたのは『誓いの儀式』というものです。簡素ではありますが、神々に対して主君に忠誠を尽くすことを誓う、最も神聖な儀式になります。『誓いの儀式』が成立した以上、我々六人はすでにユウヤ様の臣下、ということですわ」
「はぁ? ……貴族ですらない私に、各陛下が忠誠を誓ってどうするんですか? 」
「実は、今後六王国は合併し、新たなる連合帝国を建国する運びとなっております。つきましては、その初代皇帝として、ユウヤ様に即位していただくことになりました」
「……は? 」
愕然とするユウヤ。
「まぁ、こんな重大事を急に言われても困るとは思いますので、説明させていただきます。この度の件について、ユウヤ様の戦功に対する褒賞が必要なことはお判りでしょう? 」
「ええ……まぁ……」
「古来、戦で比類なき戦功をあげた者への報償は、爵位と領地、加えて報奨金と相場が決まっておりますが……今回の場合、それは論外です」
「何故、ですか? 」
「数発で国家が壊滅しかねない魔法を使える程の者を、誰が臣下にできるというのですか? それに、我らの誰かの臣下となった場合、その国と他の五か国との国力の均衡が保てませんよね? 」
「じゃ……じゃあ、一時金か何かで済ませるってことでどうですかね? 自分は冒険者なり料理人として細々とやっていくつもりなんですが……」
「問題外です。ユウヤ様の戦功に見合うほどの現金など用意いたしかねます。それに我らの立場上、失礼な申し方にではありますが、最強の歩く殺戮兵器ともいえるユウヤ様を、野放しにするわけにはいきません」
「『隕石』なんて、二度と使う気はありませんが……」
ギュンター・フォン・シュヴァーベンが苦笑する。
「そのお言葉、信用しないわけではありませんが、我らは国の安全に責任を持たねばならぬ立場、ユウヤ様を放置するわけにもいかないのですじゃ」
ユウヤ頭を抱えたが、しばらくするととんでもないことを言い出した。
「それなら……いっそのこと、暗殺してしまうと手もあったのでは? 」
エカラデルハン7世がお茶を噴き出した。
「それをユウヤ様がおっしゃいますか……ご自身のことなのですがな。まぁ正直、一つの手には違いありませんが、今回は使えない手ですな」
「使えない? 」
「まず、ユウヤ様を誰が、どうやって暗殺するのですかな? 先日、大陸最強クラスの強者が六人がかりで、やっとまともな勝負ができたほどの強者に……それもとんでもないハンディ付きで。だからと言って軍勢でかかれば『隕石』など、広範囲魔法の餌食になるだけでしょう。可能性があるとすれば毒殺や不意打ちでしょうが……非常識に高度な『浄化』『治癒』で対応される可能性が高く、また『転移』で逃げられる可能性を考えると、成就の可能性はほぼないでしょう。報復を考慮すると、国としてそんなリスクはとても取れませんな」
カイシャンハーンも同調する。
「その通りですじゃ。ついでに申せば、万が一成功したとしても……暗殺を実行した国は、我らシェンノンとの全面戦争を覚悟しなければなりませんしな」
「……全面戦争? なんで? 」
「お忘れかな? 我を剣で下した時点でユウヤ様は、我が国の友となられたのです。ご自覚はないでしょうが、我が国の民には尊崇の対象となっておるのです。そのようなユウヤ様のが暗殺されたとあれば、我が国が看過することなどありえませんでな」
「実は、連合帝国という構想自体は、ユウヤ様の褒賞の件とは関係なく、以前からあったのですよ。大陸の内陸部の開発と、それにより見込まれる経済発展のためには、統一的で強力な政権を成立させることが必要ですから。以前から六王国で研究や協議は進めておったところなのですが……6種族が鼎立する現在の状況で、誰が政権を率いるのかという調整がどうしても解決できず……そこに魔王の件もあり、棚上げとなっておったのです」
「そこで、ユウヤ様なのです。内陸部に大都市を整備し、皇帝たるユウヤ様の直轄領としていただく。この直轄領と各王国を結ぶことによって、大陸全体の繁栄を図るということですな」
「そんなこと言われても……私は政治の経験ひとつないのですが……」
「心配には及びません。予算につきましては、各王国の税収から一定額を帝国国庫に収め、人材についても、各王国から有能な臣下を選抜し、ユウヤ様の直属といたします。ユウヤ様は、玉座に座っておられるだけでも国が動くように差配いたします」
「……はぁ……」
「すでに『誓いの儀式』は成立いたしました。であるが以上、当然我らは主君たるユウヤ様に忠誠を尽くす義務がありますが……主君たるユウヤ様にも、臣下たる我らを保護する義務があるのですよ。どうしてもお受けいただけないとあれば……神罰が下ってしまいますよ? 」
「神罰? 」
「具体的には、魔法が使えなくなります。魔法とは、神々の加護によって使えるようになるものですからね」
「……それは確かに、困ります」
「では、お願いいたしますね。今後妾ら一同、忠誠を尽くします故」
六王皆がにんまりと笑い、ユウヤはがっくりと肩を落とした。
「では、今日の所はこれにて失礼いたします。そうそう、この城が帝国立ち上げの仮拠点 となりますので、当面ユウヤ様はこの城でゆっくりしてくだされ。会議にはちょくちょく出席していただきますがな」
頭を抱えてぐったりするユウヤを残し、上機嫌な表情で部屋を辞する六王であった。
ユウヤはぐったりとしたまま、十数分が過ぎた。部屋に残っているのは、ユウヤとコンプトン卿のみである。
「俺、嵌められた……のか? 」
「まぁまぁ、そう言わずに。お気持ちはわからないでもありませんが」
宥めるコンプトン卿。
「コンプトンさん、事前に少しは説明してくださいよ」
「ユウヤ様は我らが主君になられる方、私にさん付けはおやめください。それよりも、本日の予定はこれで終了です。お疲れさまでした」
「はぁ……」
よろよろと立ち上がり、ようやく部屋を出るユウヤ。
しかし、部屋の外には見た顔が並んでいた。各『試練の迷宮』で見届け人を務めていた王女たちだ。それぞれドレスに身を包み、元から無表情なファニー王女以外は微笑んでいるのだが……目が笑っていない。
ユウヤはいぶかしげな表情で挨拶する。
「皆さん、お揃いで。お久しぶりです」
「お久しぶりです、陛下」
六人が声を揃えて挨拶をする。
「『陛下』は止めて下さい、まだ即位したわけじゃなし……敬語も要りませんから。それはそれとして、皆様、何故こんなところに? 」
王女たちは互いに顔を見合わせ頷きあうと、ゆっくりと剣を抜き、ユウヤの喉元に突きつけた!
ユウヤは顔を引き攣らせ、ゆっくりと両手を上にあげる。
「これは……何の、冗談ですか? 」
「ユウヤ様、あ、敬語は要らないんだったわね。ユウヤ、別に冗談じゃないわよ」
「冗談じゃないなら……なんか粗相でもしましたかね、俺」
「ええ。つきましては、責任を取っていただきます」
「責……任? 何の? 」
「僕たちはユウヤと『試練の迷宮』を突破したよね」
「それが……何か? 」
「未婚の王族女性が、親族でもない男性と二人きりで結構な時間を過ごしたのよ? もうお嫁にいけないじゃない」
「……いや、そんなこと言われても……俺に、どうしろ、と? 」
「責任を取って、私達を娶ってもらいます」
「……は? 」
「嫌なの? 」
「いや、その……嫁? は? 」
「……ユウヤ、往生際が悪い」
話している間にも、じりじりと迫る六人に壁際まで追いつめられるユウヤ。コンプトン卿を見ると、いつの間にやら離れたところでしれっとしている。
ユウヤは力なく項垂れた。
「……わかり、ました……」
「分かればいいのよ」
六人は剣を下す。
「俺はいいんですが、各陛下はこのことをご存じなんですか? 」
「当たり前じゃない。これから末永くよろしくね、旦那様」
六人、いやファニー王女は無表情のままだが、皆さっきまでと違う満面の笑みを浮かべて、足取りも軽く去って行った。
後に残されたユウヤは、コンプトン卿にどんよりとした視線を向けるユウヤ。
「……どういうこと、これ? 」
コンプトン卿がしれっと答える。
「どうもこうも……皇帝となられ、各王国の王女殿下を娶られるということで、大慶の至りでございますな」
「……」
「どうやらお疲れのご様子、本日はゆっくりとお休みください。お部屋に案内いたしましょう。」
用意された部屋に入るなり、ベッドに力なく崩れ落ちるユウヤであった。




