凱旋式
それから一週間後、ようやく軍が引き上げを始めた。
ユウヤはオリバーの馬車に同乗している。
「随分かかったな」
「これでも最大限急いだのだがな。城があんな有様では、仕方があるまいよ」
「まぁな。ところで……俺はいつまで同行すりゃいいんだ? もうそろそろお暇したいんだけどな」
「何を言ってるんだ、貴公は? 」
オリバーが呆れた顔をする。
「敵ももういないんだし、俺がやるべきことももうないだろ? 」
「あのな、論功行賞もまだだろうが」
「別にいらないんだが……そもそも神々からの使命だったわけだし、魔物を倒したり各国にレシピ売ったりで金にも困ってないしな」
「そりゃそうだろうが、あれだけの功を立てた貴公に報奨の一つもなしでは、各王国が鼎の軽重を問われる。それに、凱旋式の主役は当然貴公だぞ。主役がいなくなってどうするんだ。第一……」
「第一? 」
「いや、何でもない」
とオリバーが口ごもる。
「凱旋式……そういやそんなのあったな。あんまり参加したくないんだが……目立つの好きじゃないし」
「そんなわけにいくか。貴公は一番最後、一番目立つ配置になると決まっておる。あきらめるんだな」
「えぇ……」
ユウヤはため息をつく。
「まぁ、あと何日かの辛抱だ。我慢しろ」
こうして二人が話をする間にも、馬車は進んでいく。しかし隣国の首都までの道程は遠く、まったりとした退屈な時間が、ゆっくりと流れていくのであった。
凱旋式は既に佳境に入っていた。軍が続々と城門からデルフォードに入っていき、城門からは大きな歓声が響いてくる。
ユウヤはと言えば、最後に入場する手はずになっているため、城門の近くで山車を見上げながら待機していた。その表情は完全に仏頂面である。
「……これに乗るのかよ」
山車は二階の建物ほどもある巨大なものであり、十頭を優に超える馬で曳くようになっている。それだけならともかく、この上なく豪華な装飾で埋め尽くされている。
「そうだ。主役の貴公が立つのは一番上のあそこ、一番目立つところだな。他にも、各国の大将軍クラスが同乗する」
「オリバーもか? 」
「ああ。貴公の隣、一段下がったところだな」
「なんか気恥ずかしくないか? なんていうか、晒し者みたいで……」
「……多少はな。まぁ、見世物になるのも職務のうちだ」
「俺は職務じゃないんだけど……」
ため息をつくユウヤ。そこに、真剣そのものの表情をした役人が話しかけてきた。
「もうすぐ出番ですので、山車にご乗車願います」
ユウヤ他六人の大将軍が乗り込んだ山車がゆっくりと動き出した。
城門を抜けると、城外とは比較にならないほどの大歓声だ。
沿道にはびっしりと詰めかけた観衆が歓声で声を枯らし、建物のいたる窓から身を乗り出した人達が、花や紙吹雪を撒き続けている。
オリバーに目で促されて、ユウヤもいやいやながら観衆に向けて手を振る。
(思ってたのより数倍盛り上がってるな……こんなに人がいるとはね)
むずがゆくなるような気持ちを押さえ、手を振り続けるユウヤ。
速く終わってほしいという気持ちとは裏腹に、山車はゆっくりとしか進まない。
ユウヤが気疲れしてきたころ、ようやくにして城が近づいてきた。城のバルコニーには六王国の王たちが勢ぞろいし、歓声に応えている。
(凱旋式は城までだったよな。あと少し、頑張れ俺)
そこから、客観的にはともかく、ユウヤの主観的には非常に長い時間を経て、山車はようやく城にたどり着いた。促されてユウヤはそそくさと山車から降りる。
山車から降りたユウヤを出迎えたのは、見覚えのある白髪の老人だった。確か、カレドニア王国宰相スペンサー・コンプトンである。
「ユウヤ様、こちらへ」
同じく山車を降り、リラックスして談笑する大将軍たちをよそに、コンプトン卿に促されて城内に入るユウヤ。
「何処に行くんですか? 」
「ついてきていただければわかります。急ぎましょう」
二人は護衛兵に付き添われ、城内を登っていく。いくつもの階段を登り、廊下を抜け、扉の前に辿り着いた。
「兵はここで待機。ユウヤ様はこちらへ」
コンプトン卿が開けた扉をくぐると、そこは先程城外から見た、六王が立っていたバルコニーであった。王たちが真剣そのものの表情でユウヤの方に向き直る。
(え……? )
六王は真剣な表情のまま……無言で腰の剣に手をかけた!
(……狡兎死してなんとか……ってことか? やりゃあ勝てるだろうけど……勝ってもその後が問題だよなぁ……逃げるか? )
そんなことを考えるユウヤをよそに、六王は剣を鞘ごと腰から抜き、膝立ちとなって剣の束の方をユウヤの方に差し出す。
「……は? 」
いつの間にか後ろに立っていたコンプトン卿が、とまどうユウヤに耳打ちする。
「それぞれの剣を抜いて口づけし、鞘に戻してください」
ユウヤはわけが分からないまま、とりあえず右端にいたウィリアム12世の剣を鞘から引き抜き、剣に口づけをした。
その瞬間、ウィリアム12世の体から光が放たれる。放たれた光は6色の光球に分かれ、ユウヤの周りを舞ったかと思うと、そのままユウヤの体に吸収された。観衆から大きなどよめきが起こる。
「え? 何だこれ? 」
慌てるユウヤに、コンプトン卿が後ろから耳打ちする。
「お静かに。特に害はありません。お続けください」
一瞬コンプトン卿を胡散臭そうに振り返ったユウヤであったが、とりあえず剣を鞘に戻すと、他の王の剣にも口づけをしていく。その都度、先程と同じように光球が舞う。
6王全ての剣に口づけが終わると、六王は満足そうな表情で立ち上がり、部屋に戻っていった。
またもコンプトン卿が耳打ちする。
「バルコニーの一番前に立って、手を振ってください」
ユウヤが言われたとおりにすると、この日一番といっていいほどの大歓声が上がったのであった。




