報告
「ユウヤ殿!! 」
突然戻ってきたユウヤに、本陣に詰めていた皆がどよめく。
エカラデルハン7世がユウヤに掴みかかるようにして、早口でまくし立てる。
「無事か? 心配しておったのだぞ!? 魔力の集積場は破壊できたのか? 結界が消えたようだが、突入が必要ないというのは何故だ?」
「まぁ落ち着いて。とりあえず、これを」
ユウヤは生首を取り出し、机に置く。
「これは……ダッバレミ!? 」
「細かくは後で報告しますが、魔力の集積場を見つけるより早くダッバレミに遭遇してしまいまして、集積場は奴が逃げた先にありました。で、装置を破壊したついでにダッバレミを倒しました」
「……ついで……に……? 」
「その前に衛兵や悪魔達も倒し、『探索』で敵が残っていないのを確認しております。以上のことから、もはや軍の突入は必要ないかと。ただ……」
「ただ? 」
「『探索』で、地下4階に大量の反応がありました。敵ではなく、これから生贄となる予定だった人達ではないかと。また、城内各所にダッバレミが設置した魔法陣があるようですので、軍より魔導士を入れ、調査をしつつ地下4階の人達の救助をすべきかと。何なら自分が先導しますよ」
「なんと!! ……わかった。すぐに手配しよう。ただそういうことなら、先導はもはや不要である。後は我らに任せて、ユウヤ殿は休息するがよい。何かあれば呼ぶ故にな」
ユウヤが天幕を出ると、既にとっぷりと日が暮れていた。大勢の兵士が突入に備えて待機しているが、眠そうにしている者も少なからずいる。
(まだ全然動けるんだけどな……まぁいいか、確かに疲れたし……寝るとするか。兵士たちには悪いけどな)
自分の天幕に入るとすぐ、ユウヤは深い眠りについた。
「ユウヤ」
「ん? 誰だ? ……折角いい気分で寝入った所だったのに」
寝ぼけ眼をこすりつつユウヤが目を開けると、またもや見慣れた光景、すなわち目の前に6神が鎮座していた。みないつもより少しばかり上機嫌そうだ。
「あ……失礼しました」
マルドゥク神が話始める。
「よいよい。それよりも、確かに見届けたぞ。汝は遂に、使命を果たした」
「……ええ、まぁ」
「なんじゃ、寝ぼけておるのか? 汝は神々の前におるのじゃがな」
「すいません。今寝入ったところだったんで……」
「……もう少し感慨というか……まぁよい。改めて言うが、汝は完全に使命を果たした。今の人生において成すべきことは、全て成し遂げた、と言うことじゃ。よって」
マルドゥク神が続ける。
「次の人生においてもう一段高いステージに至ることを約するとともに、今の人生において、今後自由に過ごすことを認める。汝の肉体はまだ若いゆえ、この先の人生も長かろう。これからは、思い通りに人生を謳歌するがよい。汝の肉体に宿る規格外の能力をもってすれば、どのようにでもやっていけよう。もっとも虐殺など、悪行を積んでもらっては困るがの」
「はい。料理人になるか、冒険者になるか……じっくりと考えたいと思います」
「……料理人? 冒険者? ……汝が、か? 」
「はい。前世では料理人を目指しておりましたし、冒険者になってこの世界をもっと知りたいとも思っていますし……」
「……あぁ、まぁ、我らは別にそれでも構わぬが……ゴホン。そうそう、アーティファクトも汝のものゆえ、そのまま使い続けるがよい」
「ありがとうございます」
「こうして我らの方から汝の前に現れるのはこれを最後とするつもりじゃが、どうしても必要とならば、神殿にて祈るがよい」
「はい」
「では、今はさらばじゃ。真に大儀であった。今生の終わり、また会うのを楽しみにしておるぞ」
その言葉を最後に目の前は暗転し、そのままユウヤは深い眠りについた。
「……暇だな」
ユウヤはオグボモショ城外の開けた地でのんびりしていた。
目の前には大勢の兵士たちが歓声を上げている。兵士たちの中央はぽっかりと丸く空いており、そこでは何組かの兵士が模擬戦を行っていた。
ユウヤはダッバレミを討ち取った次の日に改めて詳細な報告を行ったきり、別になすこともないまま、既に五日を過ぎようとしていた。
「まだ帰れないのか? 」
傍らに座るオリバーが、ユウヤに聞かれて苦笑いする。
「それはしょうがないだろう、貴公。オグボモショ城下町鎮撫に被害の把握、城の調査と地下に捕まってた連中の救助、やることは大量にある。もうしばらくはかかるだろうな」
「そんなに忙しいのに、大将軍閣下がこんなところでさぼってていいのか? 」
「別にさぼっているわけじゃないぞ。普通なら、敵の城を攻め取った場合はもっと忙しいんだろうが、今回は元々味方の城を解放しただけだ。暴動が起るわけじゃなし、治安維持はカネム・ボルヌの連中だけで事足りる。城の調査に当たってる魔導士連中は結構忙しいらしいがな」
「へぇ」
「ダッバレミが城中に設置してた魔法陣の調査と破棄に時間がかかってるらしい。『転移』の魔法陣なんてものもあったらしいからな」
「あー、そういやあったな。破棄するのに、そんなに時間がかかるのか? 」
「はぁ……。いいか、貴公は当たり前のようにポンポン使ってるが、『転移』なんて名前は知られてても誰も使えない魔法の代表格だぞ? それを使える魔法陣なんて、世紀の大発見と言ってもいい」
「そうなのか? 」
「これだから貴公は……まぁとにかく、『転移』も含めて、貴重な魔法陣は解析してからじゃないと破棄するわけにはいかん。そんなもんが幾つも見つかってるんだ。魔導士どもは体が幾つあっても足らんだろうよ」
「なるほどな……でもそういうことなら、兵士とか指揮官とかは先に帰ってもいいんじゃないか? 」
「魔導士だけ放っぽって帰るわけにもいかんさ。それに、凱旋式の件もあるし」
「凱旋式? 」
「あぁ、それも知らんか。戦争に勝った軍隊が、隊列を組んで母国の城下を練り歩くんだよ。今回は、我が国の首都デルフォードで大々的にやる予定だ」
「そうなんだ」
「そうなんだ、って……いいか、軍にとっても、兵隊一人一人にとっても、凱旋式に参加できるってのは最高の名誉なんだよ。晴れ姿と言っていい。順次兵隊を返してたら凱旋式にならんだろう? 特に、今回の戦争では戦功を上げた者が少ないんだ。凱旋式位は盛大にやってやらんと、兵士も報われん」
「戦功をあげた者が少ない? そうなのか? 」
オリバーは頭を抱えて思い切り呆れた顔をする。
「約一名ほど、魔界の眷属を一人で全滅させたうえに、敵本軍の大将を討ち取り、城まで制圧して、おまけに魔王まで倒した化け物がいたんでな」
「あー……もう少し押さえたほうが良かったか? 」
「いや、貴公のおかげで異常に被害が少なくすんだんだから、この上なくありがたいんだが……兵士や将官としては、肩透かしを食ったというか……な。だから、今俺たちの前で即席の剣闘会をやってるわけだ。軍から賞金が出るよう手配してな」
「そうだったのか……ん? ということは、俺のせいで軍が余計な出費をするってことか? 」
「おう、だから貴公も金を出せ……というのは冗談だ。貴公のおかげで戦争があっさり終わったから、予算も大分浮いてるんだ……ん? 誰か来るな」
兵士たちの輪の中から、二人の方に走ってくる者がいる。
「スミス、どうした? 」
スミスと呼ばれたのは、オリバーの副官を務める男だ。
「カイシャン陛下がお呼びでございます」
「何かあったのか? 」
「模擬戦が一通り終わりまして、上位入賞者に賞金も支払ったのですが……上位入賞者から強い要望があり、カイシャン陛下が副賞を授けることにしました」
「副賞? 何を出すんだ? 」
「上位三名それぞれに、大陸最強格の強者、具体的にはカイシャン陛下、オリバー閣下、ツァンフェイ殿下との模擬戦を賜うとのことです」
「……ほう。体もなまってるし、ちょうどいい。行こうか、ユウヤ」




