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安直勇者 ~俺はなんでも安直に解決できる勇者様~  作者: 差肥塚 祝


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魔王の最後

 地下の通路には装飾一つなく、最低限の照明があるだけだった。

 見えるのは城の素材そのもの、無機質な漆黒の魔封石でできた通路だけだ。人どころか動くもの一つなく、この上なく不気味な静寂の中、ユウヤの足音だけが響く。

 (ここか)

 通路の先には、扉があった。この地下にはお似合いの、簡素な木製の扉だ。

 意を決してユウヤはゆっくりと扉を開ける。

 部屋の中は意外と明るかった。奥に、壁面全体にガラスのように透き通ったものが広がっている。

 それは、人の頭ほどもある歪な塊を無数に寄せ集めたような不気味な形をしており、全体が禍々しい紫色の光を帯び、部屋全体を照らし出していた。

 それより少し手前には台のようなものが設置されており、ローブに身を包んだ人物が忙しそうに動き回っている。

 「よお、お久しぶり」

 ユウヤが声をかけると、ローブの人物は弾かれるように振り返った。

 たちまちその目が驚愕に見開かれる。

 「き、貴様……!! どうやってあの部屋から脱出したのだ!? 」

 「……ん? 普通に脱出したが……大体、俺がどうやってこの城に来れたと思ってたんだ? 」

 「う……まさか……いや、それしか考えられぬ。……『転移』、か? 」

 「ご名答」

 「ク……ククク、フハハハハハ……ふざけるなぁっ!! 『隕石』のみならず、『転移』まで使えるというのか! 」

 「そういうことだ」

 「この化け物が……第6階梯ですら、使える者などほどんどおらぬというのに……」

 「そう言われても、使えるものはしょうがないだろう。で、脱出方法も分かったところで、降伏したらどうだ? お前も当代一の魔導士なんだろうが、まだ俺に勝てると思ってるんじゃないだろうな? 」

 「どうかな? 使える階梯だけが魔導士の能力ではないぞ……『魔弾』!! 」

 通常の魔導士のそれよりも二回り大きい『魔弾』がユウヤを襲うが、『結界』に阻まれる。

 「確かに、そこら辺の魔導士とは段違いの威力だけど……この程度じゃな」

 「……ならば! 」

 ダッバレミは自分の背後の台に向かい、何らかの装置らしきものを操作すると、奥にあるガラス状の何かが一際明るく輝いた。次の瞬間、その至る所から眩しい光線が発射され、ダッバレミが立っているところで収束する。

 光線が消えた後、ダッバレミの姿はあからさまに変貌を遂げていた。

 ローブごしでもわかるほど全身の筋肉が肥大しており、体自体が二回りも大きくなっている。全体が淡く紫色の光を帯びていた。光で見にくいが、肌自体も紫色に変色しているようだ。

 ダッバレミは荒い息をつきながらも、下卑た笑いを浮かべる。その声すらも以前とは違い、部屋に陰々と響く。

 「はぁ、はぁ……、有無を言わさず我を倒さなかったのが、貴様の運のつきよ。この姿になったからには、貴様に勝ち目などない。我の魔道の粋、見せてやろう……『魔弾』」

 その『魔弾』は、前に放ったそれよりは一回り小さかったものの、『結界』をあっさりと貫通してユウヤに命中し、爆発する。

 「何っ!? 」

 「フハハハハハハ! 今の我の魔法に『結界』など効かぬわ! 今のは致命傷……にはならなかったか。久しぶりで、手元が狂ったかな? 」

 しかし、アーティファクトのおかげで殆どダメージを受けていないユウヤ。

 「まぁ、大した威力だな。これは……」

 「教えてやろう。これは魔法の……」

 「収斂、だろ? 」

 「な!? ……驚いたな、知っておるとは」

 「比類なき才能のある魔導士でも、生あるうちに到達することは難しい、魔道の境地の一つ、だったな。お前がそんなに年を食ってるようには見えないが」

 「我は到達したのだよ。史上指折りと歌われた才能と、魔力集積装置によってな」

 「魔力集積装置? 」

 「そうだ。見たであろう、後ろの装置から、我に光が収束するのを」

 「なるほど、あの光は魔力だったってことか」

 「いかにも。今や我が肉体には、とてつもない魔力が宿っておる。我自身が震撼するほどの、な」

 「で、魔力集積装置とやらの魔力は、人間を生贄にして供給する、ということだな。下の階にいるのは、生贄の予備といったところだろう? 」

 「な? 貴様、どうしてそれを……そうか、王族どもの入れ知恵か。そうだ、我は太古の秘術を蘇らせたのよ、大魔導士たる我が才をもってな」

 「借り物の魔力で偉そうにされてもなぁ」

 「負け惜しみを……! まぁよい、まずは貴様を嬲り殺しにして、溜飲を下げることとしよう。それさえ終われば、次元の大穴の固定を再開できる」

 「で、その後はどうするんだ? て言うか、お前の目的は何なんだ? 」

 「知れたこと。魔界の眷属をもって六か国軍を鏖殺し、我がこの大陸の覇者となるのだ。各国の王族どもは根絶やしだ。見目麗しい者のみ、我が物として残してやる。アディオラだけは別だがな」

 「アディオラ? カネム・ボルヌ王国の王女か? 何故アディオラ姫だけ別なんだ? 」

 ユウヤが聞いた瞬間、ダッバレミの顔が醜く歪み、歯ぎしりをする。

 「あの女、我が求愛を断りおったのだ。この世界最高の魔導士たる、我の求愛をだぞ……終いには王族や貴族の奴らまで結託して、この我からアディオラを引き離しおった」

 (何だこいつ、ストーカーかよ)

 呆れるユウヤをよそに、ダッバレミは続ける。

「アディオラめだけは、ただでは殺さぬ。手足を引き抜き、生かさぬよう殺さぬよう、日ごと責め苦を与え続けてくれる。あの高慢な女が手足のない芋虫のような姿となり、泣き喚きながら許しを請うのを見るのが今から何よりも楽しみだ。……そうだ、奴の前で王族を一人ずつ惨殺するのもよいな……」

 ダッバレミは狂気を帯びた表情で、恍惚としながら、妄想を吐き出し続ける。

 「あー、なんだ、もうその変にしとけ」

 げんなりしたユウヤの声に、我に返るダッバレミ。

 「む……まずはお前からだったな。お前も楽に殺してはやらぬ。少しずつその体、削ぎ落としてくれるわ! 『魔弾』」

 ダッバレミはが満を持して、魔力が高密度に収束された『魔弾』を放った。しかしその『魔弾』は、ユウヤの『魔弾』に相殺され、消滅する。

 「何……だと……今……何をした? 」

 「何って、お前と同じだけど? 」

 「同じ……? まさか……魔力を、収斂したとでも言うのか? 」

 「そういうことだ」

 「馬鹿な……馬鹿なぁっ!! 」

 ダッバレミは『石弾』、『火球』、『聖弾』など、あらゆる攻撃魔法を乱射する。しかし、そのことごとくはユウヤの同じ魔法によってあっさりと相殺された。

 「貫通できると思ったんだが、相殺にしかならないか。お前、確かに自分で大魔導士っていうだけのことはあるな」

 「……信じられぬが、本当に魔力の収束を体得しているようだ……それなら、貴様の魔力が尽きるまで魔法を撃ち続けてやろう。我が魔力集積装置には、未だ膨大な魔力が宿っておる」

 「生憎だが、そんなものに付き合う気はないぞ」

 「あきらめたか? 」

 「おいおい、間抜けかお前? 俺の目の前に急所を晒しといて、何を言ってるんだ? 」

 ユウヤは『加速』『思考加速』『剛力』を使いざま、ダッバレミとの距離を詰める。

 「しまっ……『結界』!! 」

 しかしユウヤは、ダッバレミがとっさに張った『結界』の脇をすり抜け、そのまま部屋の奥に突っ込むと、鞭状に伸びたアグラヴェインを何度も魔力集積装置に叩きつけた!!

 魔力集積装置は数回点滅したが、それを最後に一切の光を失う。

 その瞬間、ダッバレミの全身が激しく光りだす。

 「ぐぁあああああ! 」

 苦悶の叫びを上げるダッバレミ。

 ユウヤはダッバレミと距離を取って様子を見る。

 目を開けていられない程の激しい光と共に、ダッバレミの体から膨大な魔力が放出されていることがユウヤにもハッキリと認識できた。

 「あ……あが……」

 暫くして光と魔力の放出が収まった後には、ダッバレミが倒れていた。その姿は、魔力集積装置を使う前以上に萎び果てている。

 魔力集積装置の破壊によって大きなダメージを受けたのか、おぼつかない震える手足で装置の方にゆっくりと這いより、涙をにじませ装置を仰ぎ見る。

 「あ、あぁ……わ……我が魔力集積装置が……魔力が……」

 「お前のじゃなくて、人から奪った魔力だろうが」

 「……き、貴様……! 」

 こちらに振り向いたダッバレミの表情に浮かんでいたのは、これまでの敵愾心や憎悪ではなく、ましてや嘲笑でもなく、怯えだけであった。

 「で、次の出し物は? 」

 「あ……あ……」

 「……終わりのようだな。何か言いたいことでもあるか? 」

 「た、助け……」

 「生憎だがアディオラ様とは知り合いでな、手足を引き抜くなんて言ってた奴を助けるわけにもいかんだろ? 」

 「……あ……」

 「じゃあな」

 ユウヤはもはや抗うこともままならぬダッバレミの首筋にアグラヴェインを当てると、一息に横に薙いだ。

 (予定が完全に狂ったが……まぁいいか)

 ダッバレミの首を『保管』で仕舞い込むユウヤに、念話が入る。

 『ユウヤ!? 無事なの!? 』

 『フェイか。特に問題ないぞ。それはともかく、結界が消えたんじゃないか? 』

 『ええ。軍を突入させるわよ? 』

 『必要ない』

 『え? 』

 『軍の突入は必要ない。事情は戻って説明する』

 ユウヤは念話を切ると、『転移』を唱えた。

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