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安直勇者 ~俺はなんでも安直に解決できる勇者様~  作者: 差肥塚 祝


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トラップ

 「ユウヤ殿、本当に一人でよいのですか? 軍中には其方ほどではなくとも、武勇や魔道に優れた者はいるのですよ? 」

 と心配そうな顔のアルテミシア5世を、カイシャン・ハーンが宥める。

 「アルテミシア殿、心配はわかるが、姿を消すことができるのも、『転移』を使えるのもユウヤ殿のみ。加えてユウヤ殿には比類なき武勇がある。大丈夫、きっと帰ってきてくれると信じようではないか」

 「……そうですね……しかし、これだけの大軍がありながら、ユウヤ殿一人に頼らざるを得ないとは……何ともどかしい」

 居並ぶ他の指導者たちも、口々にユウヤに声をかける。

 「行ってみないとわかりませんが……まぁ、何かしら土産を持って帰ってきますよ。では、行ってまいります」

 ユウヤは姿を消すと、『転移』でオグボモショ城の上空に移動した。

 真昼にも拘らず、城は素材である魔封石の性質なのか、一切の光を反射することなく夜同様の漆黒の姿でオグボモショの真ん中に鎮座している。

 (見張りがあちこちにいるが……まとまった軍がいるわけじゃなさそうだな。やっぱり先の会戦で壊滅したってことか……この程度なら、潜入は難しくなさそうだ……罠かもしれないけど)

 ユウヤは大胆にも城の正面入り口に降りる。どうせ姿は見えないのだ。広い空間の方が、他人と接触して潜入が発覚する危険が少なくて済む。

 ユウヤは『探索』を使い、城の上から順に部屋の構造と敵の位置を調べていく。

 (城の上の方の階にはあまり広い空間はないな……魔力の集積場はかなり広い空間が必要と言ってたから……こっちは後回しだな。下の方は……一階の、この部屋は結構広いけど、敵の反応が多いな……あ、ここは前回悪魔が入っていった部屋か。悪魔がいるスペースを除いたら、大した面積はないな……ここでもない、と。広い空間があるのは……一階と、地下だけだな。ん? 地下は二階までと聞いてたはずだけど、五階まであるな……ここが本命か? まぁいい、一階から下を探索してみよう)

 一階の広い部屋は、中央付近の一部屋だけだ。城内に潜入したユウヤは慎重に、『飛翔』で一階の天井近くを移動していくと、廊下の突き当りで高い天井の一番上近くまである巨大な、華美な装飾がある扉に行き当たった。扉は閉まっており、警備兵も辺りにはいない。

 (こりゃ、謁見の間だろうな。今は謁見の時間じゃないってことか。まぁこの部屋に魔力の集積場があるとは思えないけど、一応見ておくか。鍵がかかってるかもしれないけど)

と、扉に触れた瞬間、ユウヤは手に衝撃を感じると同時に、城全体に響き渡るようなけたたましい音が鳴った。

 (トラップがあったのか……ガラハッドの効果も切れたらしいな)

 程なくして、兵士があちこちから駆けつけてくる。

 「侵入者はどこだ!? 」

 「あそこだ! 天井近くに浮いてるぞ! 」

 「不審な奴、降りてこい!! 」

 「捕獲する必要はない! 殺せ!! 」

 兵士たちは口々に叫びながら、『魔弾』や投げ槍で攻撃を始めた。ユウヤはとっさに『結界』を張って対応する。

 (こんなにあっさりバレるとはね……失敗したな。一度引くか? ……いや、あれだけ偉そうに手があるとか言っといてすぐ、手ぶらで帰るのはさすがに……な。とりあえず、やれるところまでやるか)

 ユウヤは『石弾』で反撃する。魔力と効果範囲を絞らずに放たれたそれは、本来の効果を超えてもはや範囲魔法と化し、一撃にして多数の兵士に突き刺さる。

 一瞬怯んだ兵士たちであったが、しかしその間にも続々と援軍が駆けつけ、ユウヤを包囲する。

 「こいつ、強いぞ! 油断するな!! 」

 「『反射』を使え! 」

 「一斉にかかれ!! 」

 (『反射』は拙いな……剣を使うか。とりあえず、『加速』だけでもいけるか? )

 ユウヤはアグラヴェインを抜きざま、包囲する兵士達の中に飛び込んだ。

 いきなり急接近され、一瞬兵士たちの反応が遅れた兵士を、これ幸いとユウヤは次々に切り倒していく。幾ら包囲しているといっても、一般の兵士がユウヤに伍するべくもなく、辺りには次第に死体の山が築かれ始めた。

 援軍が増え続けるにも関わらず、戦闘を有利に進めるユウヤであったが、その目の端に、迫りくる悪魔達が映る。

 (来たな。あまり手の内は見せたくないが……これくらいはしといた方がいいだろうな)

 ユウヤはアグラヴェインに魔力を込める。白く輝くアグラヴェインが、ユウヤと兵士たちの間に割って入った悪魔を一撃で切り裂いた。

 続々と駆け付けてくる悪魔たちが、その鋭い爪で、魔法で次々にユウヤに襲い掛かる。兵士たちを巻き込んでもお構いなしだ。

 一時的に包囲が狭まるも、ユウヤは剣と魔法を駆使して持ち直す。隊長級の悪魔までが参戦し始めるも、『加速』『思考加速』で素早さを強化して対抗した。

 ユウヤのみならず、悪魔にも攻撃されたため、兵士たちの姿は既にない。悪魔たちも一体、

 また一体と倒れていく。数が減っていくことにより、ますますユウヤは有利になっていった。

 「これで……終わりだ!! 」

 ユウヤの叫びとともに、最後に残った悪魔が袈裟懸けに、真っ二つにされた。

 (やれやれ、潜入失敗か…どうするかな)

 とりあえず安堵の息をつくユウヤだったが……突然、謁見の間の扉が軋み音を立てながら、ゆっくりと開いていく。

 謁見の間の方に振り向くユウヤ。玉座に一人の魔導士が座っていた。

 魔導士はユウヤに話しかけてきた。その耳障りな、不快な声で。

 「ようこそ、オグボモショ城へ」

 「……どうも。玉座に座ってるってことは、お前がドゥナマ・ダッバレミか? 」

 「左様。貴様は……カレドニア王国が呼び出しおった男だろう? ……確か、ユウヤとか言ったか」

 「よくわかったな」

 「兵士どもだけならともかく、あれだけの数の悪魔を単身打ち倒すなど、他におらぬわ。カイシャン・カーンやオリバー・アイアンサイドでも無理であろうよ。目的は…この首か? 」

 「他に目的があったんだが……もう、そういうことでいいや。護衛も全滅したみたいだしな」

 「護衛なら……おるぞ。この部屋ではないがな」

 ダッバレミの玉座の周りの床が、円形に光り始める。警戒態勢を取るユウヤ。ダッバレミは嘲弄するような笑みを浮かべ、

 「怯える必要はないぞ? これは『転移』の魔法陣に過ぎぬ……この首が欲しければ、貴様も転移してくるのだな」

 そう言い残すと、その姿は一瞬揺らめき……跡形もなく消え去った。

 玉座に近づくと、確かに玉座を中心とした魔法陣が描かれている。その場で腕を組み、しばし考えるユウヤ。

 (どう考えても、罠だよなぁ……本当に転移の魔法陣かどうかもわからないし。どうしたもんかな? 一旦戻って……も、意味はないよなあ。予定通り地下を探すか? いや、魔力の集積場なんて大切なものを放置して逃げるなんて真似をするか? それに、奴のあの消え方、確かに『転移』によるものだったし……)

 「ええい、行っちゃえ」

 ユウヤはダッバレミが消えた魔法陣に魔力を流す。その姿はやにわに揺らめき、その場から消え失せたのであった。




 「ここは……」

 転移先は、天井も床も壁も真っ黒な魔封石で出来た、何もないがらんとした、城の面積にも等しい広大な空間であった。窓一つなく、照明があるわけでもないのにそれなりに明るいのは、『試練の迷宮』と同じである。

 「……来おったな」

 さっきも聞いた不快極まりない声が、部屋中に反響する。

 「折角のご招待だしな。で、まさかこの場で正々堂々一騎打ちってわけでもないんだろう? どんな仕掛けがあるんだ? 」

 「別に教えてやる義理も義務もはないが……折角我が魔道の粋を凝らして用意した部屋だ、それもつまらぬな……よかろう、教えてやる。この部屋では、攻撃魔法は一切使えぬ」

 ユウヤはおもむろに『聖弾』を唱えた……が、何も起こらない。

 「確かに使えないようだな。……ん? お前魔導士だろう? わざわざ自分の攻撃方法を使えなくして、どうするんだ? 」

 「我にとって最大の誤算であったチャド盆地のあれは、貴様の『隕石』であろう?」

 「………何故そう思う? 」

 「あのような大魔法、この世界の魔導士が何人集まっても発動できるわけがないからな。『爆破』なら織り込み済みであったのだが、『隕石』とはな……名前すら知るものは殆どおらぬというのに。そのような魔法を使える者が相手ならば、まずその魔法を封じねばなるまい? 」

 「で、魔法を封じて、どうやって俺を倒すつもりなんだ? 」

 「それは……こうするのよ! 」

 やにわに部屋の一角で魔法陣が光り、悪魔が出現する。悪魔はユウヤに襲い掛かったが、白く輝いたアグラヴェインに一刀のもと切り倒された。

 「おいおい、今更ただの悪魔に俺が倒せるとでも思ってんのか? さっき城内で何があったか知らないのか? 」

 「勿論把握しておる。今更十体や二十体の悪魔で貴様を倒せるとも思っておらぬ。……しかし、それが百体、千体ならどうかな? 」

 その瞬間、部屋の床のあらゆるところで魔法陣が光り、大量の悪魔が出現した。

 「攻撃魔法が使えぬ以上、剣で一体一体倒すしかあるまい!? 我の作戦は、無数の悪魔による飽和攻撃よ!! 悪魔どもよ、行け! 」

 その合図とともに、悪魔が一斉にユウヤに襲い掛かる。しかも、床のあらゆる魔法陣は光り続け、際限なく悪魔が湧き始めた。

 (攻撃魔法は使えないってことなら、それ以外なら使えるってことだよな)

 ユウヤは『加速』『思考加速』『剛力』を使い、目にも止まらぬ速度で次々と悪魔を切り倒していくが、それを上回る凄まじいスピードで悪魔が出現し続けるため、悪魔の数は増えていく一方である。

 それでも三十分近く戦い続けたが、時間と共にユウヤは段々追い詰められ、部屋の隅で防戦一方となってきた。剣戟の音にマジって、ダッバレミの嘲笑が響く。

 「なるほど、凄まじい剣の技量だ……が、所詮一人でどこまで持つのかな? 」

 (確かに、これじゃ近づくこともできないな……そろそろ、アレを使うか)

 アグラヴェインの輝きが増していき、白い光が部屋全体を照らし出していく。

 刀身は膨大な魔力を帯びて、どんどん光を増していき……突如眩しくて見ていられないほどの光を放ち、パァンという音が鳴り響く。

 光が消えた後、ユウヤの持つ柄からは10mもあろうかという光の束が伸び、その光の中に、魚の鱗のような形をしたアグラヴェインの破片が等間隔に浮かんでいた。何が起こったか理解できない悪魔たちが一斉にユウヤから距離を取る。

 「な、何だ、それは!? 」

 ダッバレミの声が響く。その声は相変わらず不快であったが、それまでの嘲弄するような響きは消え失せていた。

 「これはな……こう使うんだよ! 」

 ユウヤは瞬時に悪魔との距離を詰め、アグラヴェインを振る。鞭のように撓り、伸びていくアグラヴェインの軌道上にいた悪魔十体ほどが一度に体を両断され、塵のように崩れ去った。

 「どんどん行くぞ」

 ユウヤは悪魔目掛けてアグラヴェインを振り回すたびに、十体程度の悪魔が両断され、崩れ去っていく。しかしそれでも次々と召喚され、怯むことなくユウヤに襲い掛かり続ける悪魔たち。次第に戦況は膠着状態に陥った。

 (切りがないな……そろそろ狙ってみるか)

 ユウヤはアグラヴェインを振り回しながら、少しずつ位置を移動していく。そして意を決すると、一足飛びにダッバレミに襲いかかった!

 しかし、アグラヴェインが切り裂いたのは悪魔たちのみだった。ダッバレミはアグラヴェインが振り下ろされた瞬間、凄まじいスピードでその攻撃範囲から退避していたのだ。

 「……『加速』か」

 「ご名答、だ。確かに強力無比な武器ではあるが、鞭のように撓るゆえ、貴様が振ってから攻撃が届くまで、一瞬遅れる。当たらなければ、どうということもない。我も『加速』は得意でな」

 「なるほどな」

 「我だけではなく、召喚した悪魔どもも、そのことに気づき始めておるぞ。こんな奥の手があるとは思わなかったが、さすがにここまでだな。後は時間をかけ、ゆっくりと料理してくれる」

 そう言うダッバレミの口調には、嘲弄の響きが戻っている。ユウヤはため息をつくと、

 「……奥の手が通じないんならしょうがないな。さらに奥の手を使うか」

 「何? 」

 ユウヤはアグラヴェインに今まで以上、限界を超えて魔力を込めていくと、突然柄から延びる光の束が音もなく消滅する。アグラヴェインの破片は今や白い光を纏ったまま、バラバラになって中空に浮かんでいた。

 ダッバレミが呵々大笑する。

 「剣がバラバラになってしまったではないか! さては、魔力に耐えられず崩壊したか? 」

 「んなわけないだろ、これでいいんだよ。行くぞ」

 その瞬間、アグラヴェインの破片全てが、目にも止まらぬ速さで動き始めた。

 数十もある破片がそれぞれバラバラに、部屋中を飛び回る。

 止まることなく動き続ける、白い光を纏った破片に悪魔達はなす術もなくその身を貫かれ、次々と消滅していった。

 それでも止まることなく召喚され、増え続ける悪魔であったが、どうやら召喚よりも倒されるペースの方が若干早いようで、悪魔は徐々にその数を減らしていった。破片はダッバレミにも襲い掛かる。最初は『加速』によって楽々と破片を躱していたのだが、悪魔の数が減るにしたがって破片がダッバレミを襲う頻度が増え、ダッバレミの表情からは段々と余裕が奪われていく。

 「なかなか当たらないな、『加速』が得意って言うだけはある」

 「こ、こんな馬鹿な! ……止むを得ん、悪魔どもよ、我が転移したら魔法陣を破壊しろ! 」

 ダッバレミが最初に立っていた位置に走りよると、その周りの床が光り、ダッバレミの姿が歪み、そして消失した。

 それと同時に、残っていた悪魔達が一斉にダッバレミが消えた床辺りを攻撃する。

 「何の真似だ? 」

 言いながらも悪魔を掃討するユウヤ。程なくして、部屋に残っていた、数少ない悪魔たちも全滅した。

 (悪魔が出てこなくなったな。ダッバレミが逃げたせいか? )

 考えるユウヤに『念話』が響く。

 『まさか、ここまでやるとはな……誉めてつかわす』

 『ダッバレミか。何処に逃げた? 』

 『その場で死んでいく貴様に、関係はあるまい』

 『死ぬ? 俺が、ここで? どうやって? 』

 『見たであろう、悪魔どもに『転移』の魔法陣を破壊させた。貴様の武器がいくら協力と言っても、さすがにその部屋のぶ厚い壁を貫くことは叶うまい? その部屋では攻撃魔法も元より使えぬ以上、もはや貴様は、その部屋から出ることかなわぬ。餓死するまでその部屋におるがよいわ。なに、部屋代はいらぬぞ』

 『なるほど、そういうことか』

 『万が一汝が生き延びたとしても、一か月もすればこの世と魔界の間に扉が開く。恒久的な扉がな。そうなってしまえば、もはや貴様一人など、何ほどのこともない』

 『なるほどな』

 『確かに汝が強かったことだけは認めてやろう……我に止めを刺せなかったことを呪いながら、その場で指を咥えてゆっくりと死を待つがよい。では、さらばだ』

 それを最後に念話は途切れ、一人部屋に取り残されたユウヤは首を傾げる。

 (この部屋、『転移』も使えないのか? 魔法陣の『転移』は発動してたけど……とりあえず)

 ユウヤが『転移』を使った次の瞬間、その身は『謁見の間』に戻っていた。

 (ん? 普通に出られたじゃねえか。ひょっとして……俺が『転移』を使えるのは想定外だったってことか? まぁ出られたからいいや。それより、奴は何処に行った? )

 ユウヤは『探索』を使う。

 (地下一階には……いないな。二階にもいない。地下三階……一つだけ敵の反応があるな。これか? 地下四階は……小さい部屋に仕切られてて……なんだこりゃ? 無数に反応があるな。敵ではないようだが……。地下五階は誰もいない……って、扉も何もないな。さっきまでいたのはこの部屋か? まぁいい、地下三階に行ってみよう)

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