オグボモショの結界
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一週間後。ようやくにして会戦の後始末を終えた六か国軍は進軍を始め、アビジャン街道を抜けたところであった。
ここまで来れば、首都オグボモショはもう指呼の間である。
ユウヤは馬車の中で無聊をかこっていた。空を飛べ、姿も隠せるユウヤは斥候を申し出たのだが、
「先日の会戦で、敵軍の大部分が捕虜になっており、残存兵力は殆ど残っておらぬはず。もはやユウヤ殿が出るまでもあるまい。頼むから、残り少ない戦功まで奪ってくれるな」
と、言下に却下されたのである。
(戦功とかどうでもいいんだけどな……)
馬車の外をぼーっと眺めるユウヤ。戦況に似つかわしくなく、どんよりとした曇り空だ。
そこに突然、ノックの音が響く。
「失礼いたします。ユウヤ様、軍議を行うことになりましたので、ご出席願います」
「え? 軍議は城外に着陣してからじゃなかったっけ? 」
「想定外の事態が発生したため、緊急に軍議を行うとのことです」
「想定外の事態? 」
「具体的なことは知らされておりませんので、恐れ入りますが軍議の方でご確認願います」
「わかった」
軍議の参加者は前回と同じであったが、緊急の軍議と言うことで、みな表情が硬い。
ウィリアム12世が口火を切る。
「行軍を止め申し訳ない。既に聞いておると思うが、想定外の事態が判明したため、緊急で軍議を行うことになった」
「想定外の事態とは? 」
「実は、首都オグボモショ全体が結界で覆われていると判明した」
「結界? ある程度以上の規模の都市には普通設置してあるじゃろう? 」
「貴公が言っているのは、空からの魔物の攻撃を弾き返すための不可視の結界であろう? それではなく、半透明のドーム状の結界が都市全体を覆っているのだ。報告によると、いわゆる『結界』の魔法と同等のもので、剣も魔法も弾き返し、人も通れないものらしい。エカラデルハン7世殿、貴国の首都のこと、何か情報をお持ちではないか? 」
「……残念だが、心当たりはない。おそらくは、かの魔王めの仕業であろうが……」
「籠城戦に持ち込むつもりでは? 」
「それほどの結界、魔力の消費は膨大なものとなるはず。長く持つはずもあるまい。我々が着陣するまで持たない可能性も高いし、気にしなくてよいのでは? 」
「会戦で惨敗し、パニックになっているのでは? 兵力差は歴然。少々の被害は覚悟で噛み破ればいいのでは」
「魔王めがそこまで愚かとは思えぬが……何か奸計があるのでは? 」
「奸計とは? 」
「それは……」
意見は百出したが、結論が出る様子はない。
ある程度議論が落ち着いたところで、アデライード3世が発言する。
「会戦の最大の功労者の意見も聞いてみるべきでは? ユウヤ殿はどう考えておりますの? 」
意見を求められたユウヤは考え込む。
「結界を張ったということは、籠城戦を目指しているということでしょうね。ただ……籠城戦と言うのは、言うなれば援軍、または何らかの策のための時間稼ぎの作戦です。援軍を見込める状況ではない以上、やはり何らかの策があると考えべきでしょうね」
「それで、対応策は? 」
「いずれにしろ、敵に時を与えるのは望ましくないでしょうね。予定通り首都オグボモショを包囲するという方針になるかと思いますが……並行してやるべきことがあるかと考えます」
「やるべきこととは? 」
「魔王は元々魔導士、それも卓越した魔導士なのでしょう? つまり策も魔法による何かである可能性が高いと思います。ならば、こちらの魔導士でその策を探ることはできませんか? 」
「……一理ありますね。魔導士軍団としてはどうなのです? 」
フェイが答える。
「……精密な観測は難しいのですが……どんな策であれ、現在の状況をひっくり返すほどのものであれば膨大な魔力が必要なはずですから、逆に察知も可能かもしれません。試してみる価値はあると思料します」
こうして、オグボモショの包囲に並行して、魔導士による魔力観測を行うと言う方針が決まったのであった。
それから三日をかけて、遂に六か国軍によるオグボモショの包囲は特に抵抗を受けることもなく完了した。
懸念されていた『ダッバレミの策』も、今のところ発動する様子はない。
ユウヤとフェイの目の前には、オグボモショ全体を覆う、途方もなく巨大な、白く半透明の結界が聳え立っていた。
「これが、件の結界か」
「確かに、見た目は魔法の『結界』と同じね。サイズ以外は、だけど」
ユウヤは結界をコンコンと叩いてみたが、感触まで魔法の『結界』と同じであった。
「これじゃ、オグボモショに攻撃はできないわね」
「結論を出すのは早すぎるだろ。結界だって無敵ってわけじゃない」
「確かに『結界』は魔法の威力次第で割れることもあるけど、これだけ分厚い結界だとそれも難しいわよ」
「……試してみるか」
ユウヤはアグラヴェインを抜く。収斂した闇属性の魔力を込めていくと、刀身は黒く怪しい光を帯びていく。
刀身が分解する寸前まで魔力を込めると、思い切り結界に斬りかかった。
パァンと言う音と共に、剣が結界を切り裂いた、はずだったが……切り裂かれたはずの結界は、傷一つなくその場に聳え立ったままだ。
「あれ? 切り裂いたはずなんだけどな。感触もあったし」
「……確かに変ね。確かに刀身が結界を貫通したように見えたけど……」
「だよな」
おもむろにフェイは『収納』を唱え、取り出したものを顔に装着する。
それは顔の片側を覆う器械でできた仮面のようなもので、目の部分が望遠鏡のように突き出していた。
「魔力の流れを見るための魔道具よ。これで観測してみるから、もう何回か試してみて」
「わかった」
ユウヤは何回も結界に剣を振り下ろしたが、結果は変わらず、結界自体を斬ることはできているものの、結界に切り口が残っていない。
「……やっぱりね。この結界、自己修復してるわ」
「自己修復? 」
「ユウヤの剣は間違いなく結界を貫通してるんだけど、刀が通り抜けた瞬間に、一瞬で修復されてるのよ」
「なるほどな。じゃあ……」
「魔力が供給が途切れない限り、どうにもならないわね。どんな技術なのかしら……是非研究してみたいわ」
「……それはダッバレミを倒してからにしてくれ」
「倒す前に、どうやって城に……ちょっと待って、念話が入ってるわ」
フェイは目を閉じる。
念話でやり取りしているうちに、表情が険しくなってきた。
念話を終えたフェイは、目を開けるとため息をつく。
「ユウヤ、戻りましょ。緊急で軍議よ」
「またか。なんかあったのか? 」
「ユウヤが提案してた魔導士の観測結果が出たらしいの。詳しくは聞いてないけど……かなり深刻な事態になってそうよ」




