チャド=ヨルバ会戦 3
やっと50話到達しました。
読んでいただいている方々、ありがとうございます。
よろしければ、ご感想やレビュー、ブックマーク等いただけますと励みになります。
「あー……、そりゃ確かに膠着状態になるわな」
三か国軍と反乱軍の戦闘をはるか下に見下ろしながら、ユウヤは一人ごちる。
アビジャン回廊の入口で、両軍が激しい戦闘を繰り広げていた。
とは言っても、回廊入り口は非常に狭い。
したがって、実際に戦闘に参加できるのは全体のごく一部でしかなく、両軍とも大部分は待機を強いられている状態だった。
(さて、どうするか……このまま続けてもいつかは勝てるんだろうけど、被害もそれなりに出るだろうし、時間もかかりすぎるよなぁ。竜人族が背後を突くにしても、反乱軍がこうも前後に長く伸びてるとなぁ……いっそのこと『隕石』……はこっちの軍も巻き込むだろうから論外だな。反乱軍のど真ん中に『爆破』でも……ん? あれはひょっとして……よし、とりあえず行ってみるか)
ユウヤは敵軍の真ん中辺りに設置された天幕目掛けて降りていく。
天幕自体は無数に設置されていたのだが、ユウヤが目を付けたものはその中でも一際大きく、何かの紋章が大きく染め抜かれた、豪華な一張りであった。
入り口には護衛らしき者が数名立っており、伝令なのか、何名もの兵士がひっきりなしに出入りしている。
(こっそり入るのは無理そうだな、誰かと接触しそうだし。とりあえず、聞き耳でも立ててみるか)
ユウヤは姿を消したまま、テントの裏手に降りて『思考加速』を使い、耳をそばだてる。
「こちらの前線は依然膠着中です。敵方の後詰はかなりの大軍である模様」
「ふん、予定通りよな。そのまま戦線を維持せよ。現時点での我らの役割は陽動だ、このまま時間を稼いでおればよい」
「そろそろ、魔界の眷属がヨルバ平原まで到達する頃ではないか? 」
「敵は大軍であるし、如何に魔界の眷属といっても、単純に戦えばこちらの被害も相当なものになる。そのため、我ら本軍がヨルバ平原を伺うことで敵の一部をこちらに引きつけ、魔界の眷属どもの負担を軽くすると言う作戦でしたが……予測より多くの敵がこちらに引きつけられておるようですな」
「問題はなかろう。どうせこの狭いアビジャン回廊ではごく一部しか戦えんのだ。こちらに如何な大軍が来ようとも、戦線の維持は難しくない」
「こちらに多くの軍が来れば来るほど、魔界の眷属どもは有利に戦える。むしろ想定より望ましい展開と言っていいでしょうな」
「竜人族がこちらに来ておれば、無視できない被害が出るところですが……現在のところ、前線に竜人族の姿もないようですし」
「敵中最強の竜人族を魔界の眷属に当てるであろうという読みも、どうやら当たったようで」
「後はアリーユだが……」
「アリーユ閣下の別動隊もそろそろ戦場に到着するころかと。如何に竜人族とはいえ、魔界の眷属との戦闘中に横あいから不意を衝かれれば、ひとたまりもないでしょうな」
「敵も東から別動隊が進撃してくるとは思っておらぬだろう。竜人族対策に、魔導士のほとんどを別動隊に配置した故、実は我ら主軍は魔法攻撃が殆ど出来ぬのだが……そのことには気づかれておらぬようだし、すべて順調といったところか。……いや、一つ想定外があったか」
「チャド盆地の爆発と爆風ですな。確かに、かなりの被害になりましたな。敵の儀式魔法による『爆破』の影響であろうという結論になりましたが」
「あれだけの爆風が、ここまで届くほどの規模の『爆破』であれば、何度も使えるものではあるまい。かなりの被害はあったが、幾ら規模を大きくしたところで『爆破』では魔界の眷属は止まらぬよ。今頃、チャド盆地は魔界の眷属が猖獗する地となり果てておることだろうて」
「我らの勝利も近いですなぁ。ひとえに、大将軍閣下の戦略眼の賜物にございます」
「まだ戦いは終わっておらぬ。追従は全て終わってからにせい」
(……何言ってんだこいつら? 状況把握もできてないのかよ……魔界の眷属も、アリーユ閣下の別動隊とやらも、とっくに全滅してるんだけどな。まぁ、こっちは観測装置を設置したり、城中まで偵察したりしてたからな……まぁいい、ここが本陣で間違いなさそうだ。で、しゃべってんのがガルバとかいう総大将とその取り巻きってことだな……『爆破』で周囲の軍勢ごとやっちまうか? いや、それより……)
ユウヤは天幕を切り裂き、中に入る。天幕の中で床几に腰かけていた十人ほどの、高級軍人らしい軍装の男達の目がユウヤの方にに集まった。
「な!? 」
「天幕が……裂けた!? 」
みな、天幕が切り裂かれた事はわかっても、ガラハッドで姿を隠しているユウヤには気づいていない。
ユウヤは『加速』『思考加速』を使うと、アグラヴェインを抜いて突撃する。天幕の中の誰一人として剣を抜くことさえできず、数瞬のうちに全員の首が宙に舞う。
(この、兜が一番豪華な奴がガルバかな? まぁいい、全員の首を持って帰るか)
ユウヤは刎ねた首を『収納』出仕舞い込むと、『飛翔』で脱出する。
『フェイ、俺だ。応答してくれ』
『ユウヤ!? どうしたの? 今どこに? 』
『反乱軍の本陣の上空だ』
『何でそんなところにいるのよ!? 』
『とりあえず本陣っぽいのがあったからな。ちょっとお邪魔して、中にいた奴らの首を取った所だ』
『……はぁ? 』
『次はどうしたらいい? この場で『爆破』とか使って暴れてもいいし、ガルバの首を前線に持ってって降伏を呼びかけるって手もあるけど? 』
『……ちょ、ちょっと待って、上に報告するわ』
念話が切れた。
(……とりあえず、ここで待っとくか)
ユウヤは再度ガラハッドに魔力を込めて姿を消し、天幕の上空で様子を伺う。
天幕の中に入った兵士が慌てた様子で天幕から出てきて、そのままどこかに走っていく。暫くすると、兵士の一団が慌てた様子で天幕の中に出入りを始めた。その人数は段々多くなっていく。
(そりゃ慌てるよな。本陣の全員がいつの間にか首なし死体になってるんだから)
『ユウヤ』
『フェイか』
『とりあえず、すぐに本陣に戻って来てちょうだい』
『了解』
ユウヤは『転移』で一瞬にして本陣に戻った。
「わっ!? 」
「な、何奴!? 」
突然本陣に現れたユウヤに、周りにいた人間が慌てふためく。
腰を抜かした者も何人かはいたが、さすがに本陣だけあり、とっさに剣を抜いた者も少なくはなかった。
ユウヤは両手を上げる。
「待った! 私です、ユウヤです、落ち着いて」
本陣にいたのは、竜人族を除く各国の王や幕僚であった。勿論フェイもいる。
「ただいま戻りました」
「何だ、ユウヤか。『転移』だな。全く心臓に悪い……時に、ガルバめを討ち取ったと聞いたが、真か? 」
かなり食い気味に聞いてきたのはエカラデルハン7世だ。
「顔を知ってるわけじゃないんですが、会話から間違いないかと。首を確認されますか? 」
「頼む」
ユウヤは『保管』で取り出した首を並べていく。エカラデルハン7世はそのうちの一つを持ち上げ、ため息をついた。
「ガルバ……」
そのまま感慨深げに、静かに立ち尽くしていたエカラデルハン7世であったが、丁重な仕草で首を置くと、目を伏せるように首から目を離した。
「ガルバに相違ない。他の首も、ガルバの幕僚であるな。ユウヤ殿、大儀であった」
「いえ。必要なら再出撃しますが? 」
「いや、もはや必要あるまい。首魁は討ち取ったのだ。もはや敵も降伏せざるを得んだろう。ただ、指揮すべき者が全滅しておる故、反乱軍は混乱しておろうな。少し時間を与えたほうが良かろう。フェイ、三か国軍と竜人族軍にガルバの死を通達せよ。また前線は一旦距離をとり、ガルバの首を敵前に晒せ。その上で降伏の使者を送るよう伝達するのだ」
「はっ」
それから一時間後、ようやく反乱軍の陣地に白旗が揚げられたのであった。
戦闘は六か国軍の圧勝で幕を閉じたのだが、反乱軍本体が大した死傷者もなく降伏した事もあり、六か国軍は大量の捕虜の武装解除や拘束に大わらわであった。
一方ユウヤはと言うと、軍議に参加している。決定的にして記録的な大勝であった割には、何故か各国の軍首脳の表情は今一つ微妙であった。戦果の報告の後は、ユウヤの放った『隕石』の話題で持ち切りとなる。
「あれが、一人の人間が放った魔法だったというのか!? 」
「……あれが、天変地異ではなく、魔法とは……」
「魔界の眷属よりよほど恐ろしかった……」
「爆風で結構な被害が出たな。死者が出ずに済んだのは幸いだったが」
いたたまれなくなるユウヤ。
「……なんか、申し訳ございませんでした」
「いやいやいや、決してそういう意味で申しておるわけではないのだ。今こうして吞気に話していられるのも、かの大魔法があったればこそ」
「そうそう。あれがなければ、勝てたとしても甚大な損害は避けられなかったであろう」
「いかに神々の遣わせし者とは言え、魔界の眷属をたった一人で全滅させるとは……」
「おまけに、反乱軍の総大将まで討ち取ったと聞いたぞ」
「……これだけの大軍を動員されたというのに、たった一人で戦功の殆どを持って行ったのじゃ。少しぐらいの皮肉や嫌味くらいは許して欲しいところじゃな」
議場に笑い声が響く。会議の雰囲気がようやく和やかになってきた。
「ユウヤ殿以外の戦功と言えば、竜人族が敵の別動隊を壊滅させた位か。全く、我らの立場がないわい」
しかし、水を向けられたカイシャン・ハーンは今一つといった表情で発言する。
「その別動隊なんじゃが……今考えると、些か不審な点があった」
「不審な点? 」
「我らはユウヤ殿の情報に基づいて、別動隊の方に急行したわけじゃが……我らが接敵した時には、すでに別動隊は半壊しておったのじゃ」
「……何ですと!? 」
「悪魔どもがいたにも関わらず、大した被害も受けずに済んだのはそのおかげじゃ。先遣隊の報告では、別動隊に天より閃光が降り注いだ、との報告もある」
「閃光? ……」
「それだけではない。我らは別動隊を壊滅させた後、一隊と負傷兵をその場に残して反乱軍本体の方へ向かったわけじゃが……残した一隊の前に、一人の魔導士が現れたらしい」
「魔導士? 」
「その魔導士は仮面を被っておったそうで、顔も種族も不明じゃが……大勢の負傷兵の手当をしてくれたそうじゃ。それも比類なき強力な『治癒』の使い手であったらしく、明らかに致命傷であった者の傷まで瞬く間に快癒させたと聞く。ちぎれかけた手足が一瞬にして繋がったとか、はらわたを抉られた者まで癒された、とか、眉唾物としか思えぬ報告もあった。本来なら相応の死傷者があったはずなのじゃが……」
アルテミシア5世が首を傾げる。
「それは変ですわねぇ。それほど強力な『治癒』を使える者など、天使族にもおりませんが……」
「我も耳を疑ったのじゃが、証言をする者が一人や二人ではないのじゃ。そしてその魔導士は、いつの間にか姿を消しておった、らしい」
「……ひょっとしたら、先程お話のあった閃光というのも、光属性第六階梯の『聖光』かもしれませんわね。一人で使える魔法ではありませんが、それほど強力な『治癒』が使える者ならあるいは……あ、一人で『聖光』を使えそうな者が一人だけおりますわね。その者であれば、規格外の『治癒』とやらも使えそうですし」
「我もそう思う。ユウヤ殿、あれは……汝であろう? 」
いきなり話を振られたユウヤは首を振る。
「私じゃありませんよ。私は魔界の眷属を狩りつくした後、真っすぐ反乱軍本軍の方に向かいましたので……そもそも私なら、わざわざ顔を隠す意味もないでしょう? 」
「確かにそうじゃが……とすると、誰が……」
「何かしらの奸計と言うことは? 」
「それも考えたのじゃが……他属性の魔法ならともかく、魔族や魔界の眷属がそれほどの聖属性の魔法を使えるわけもあるまいし、そもそも我らを助ける意味などあるまい? 」
「……ここでこれ以上議論しても、結論は出ないでしょうね。今のところは、少なくとも強力無比な聖属性の魔法を使える魔導士がいるらしい、と言う情報共有に留めておきましょう」
「……仕方あるまいの」




