訓練の日々 3
飛びながら、ユウヤはフェイに話しかける。
「モーガン殿は魔族の国の方と伺いましたが」
「そうですが、それがなにか? 」
「前世には、魔族などという種族はいなかったもので」
「そうでしたか。どんな種族がいたのでしょうか? 」
「人間しかいませんでしたね」
「この世界には、ユウヤ殿のような人間族、我ら魔族、エルフ族、竜人族、天使族、ドワーフ族の6種類の種族がおりまして、それぞれの種族がひとつづつ王国を作っています。各種族は見た目のみならず、それぞれ得意な能力、信奉する神、得意な魔法属性があり、文化も異なります。折角ですから、我ら魔族についてお教えしておきましょう。我ら魔族は、ご覧の通り浅黒い肌に紅い瞳、体の何か所かには、魔力を発するときに青白く光る魔法紋と言われる模様があります。魔族という名の通り魔法に秀でた種族で、一般的に他の種族より魔力が多く、中でも闇属性を得意とします。それ以外の属性についても、反対属性となる聖属性を除いて多属性を操る事ができる者が多く、また高階梯の魔法を使える者も多いです。半面、身体的な能力には残念ながら見るべきところがなく、いわゆる戦士としての適性があるものは少数です」
そんなことを話しながら、風を裂き、30分ほど飛んでいただろうか。振り返っても、もう大陸は見えない。
遠くはるかに、小さな陸地が見えてきた。
ほんの小さな島、というより巨大な岩礁といった具合だ。
草も生えていないようで、島全体が赤茶けた色をしている。
「着いたようですね。では降りましょうか」
と、二人は島に降りていく。
「それで、今日はどのような訓練をするのですか」
「ユウヤ殿次第です」
「え? 」
「実は私がここに来たのは、ユウヤ殿を訓練するためではなく、『飛翔』でユウヤ殿を案内するためです。ユウヤ殿は、現在では失伝しているようなものも含め、全ての魔法を使えるのでしょう? 魔力も膨大で、魔法の威力も桁違いとも伺っております。先程の『飛翔』を含めて魔力の制御がある程度形になってきているようですので、誰かが何かを教えるよりも、ご自分で実際に色々な魔法を使っていただき、魔法に慣れていただくことが一番良いという結論になりました。この場所なら、大威力の魔法を使っても誰にも被害は出ないでしょうから」
「なるほど」
「では私はこれで失礼しますが、帰る方向はわかりますか? 」
「え? 帰っちゃうんですか? 方向はわかると思いますが……」
「一魔導士として、ユウヤ様の規格外の魔法、特に幻の第7階梯などを見たいのはやまやまなのですが……残念ながら、筆頭宮廷魔導士という立場上、魔王への対応で多忙を極めておりまして……実は、今日も無理やり予定を開けて来ているのです」
「わかりました。お忙しいところ、ありがとうございました」
「この場所なら周囲に被害を及ぼすことはないでしょうけど、ご自分が怪我などしないように気を付けてくださいね。では、私はこれで失礼いたします……いつか、第7階梯を見せてもらえるのを楽しみにしておりますね」
そう言うと、フェイは帰っていった。
(投げっぱなしジャーマンかよ……さて、どうする? そうだな……低位の魔法は一通り練習したけど、魔力を絞り込んで放ってたんだよな。せっかくいい訓練場を紹介してもらったことだし、調整しないとどうなるか、試してみるか)
「『火球』」
頭上に直径10m程の火の玉が現れ、海に向かって飛んでいき……50m程先の海面に着弾し、爆発を起こした。ユウヤのところまで水しぶきが飛んでくる。
(どんどん行こう)
火球、風刃、石弾、聖弾、魔弾、水流と、第一階梯の呪文を一通り、込める魔力を様々に変えて。繰り返し放っていく。
そうして昼頃には、どれくらいの魔力でどれくらいの威力になるのか、大体わかってきた。
「『水流』」
大量の水が勢いよく噴射される。
(うーん……、第1階梯の魔法は大体攻撃魔法なんだけどなぁ……この『水流』だけは使い物にならなそうだな……。水を噴射したくらいで魔物が倒せるわけじゃないし。……いや待てよ)
不意にユウヤは前世の記憶で、確かウォーターカッターというものがあるのを思い出した。
(確かすげえ細いノズルから、超高圧で水を噴射して、なんでも切れるって話だったような……ちょっと試してみるか)
ユウヤは魔力を多めに込め、ウォーターカッターをイメージしながら『水流』を放ってみると、レーザービームのように細い『水流』がすさまじい勢いで発射され、近くの大きな岩塊に命中した。
そのまま岩を横切るように『水流』を操作すると、『水流』が横切ったところに沿って岩がゆっくりずれ始め、斬られた部分は大きなしぶきをあげて海に沈んでいった。
(おっ! うまくいった。これで『水流』も役に立ちそうだな。……ってことは魔法って、意外と融通が利くもんなのか? ちょっといろいろ試してみるか)
それからユウヤは『火球』を火炎放射器のように炎を吹き出すようにしてみたり、『石弾』を一つの巨大な弾を発射するようにしてみたり、魔法の変わった使い方を習得していくのであった。
その魔法はヘルメスやフェイが見たら卒倒するような、あまりにも異常な代物だったのだが……
魔法の訓練6日目。
昨日に続いて、ユウヤの姿はラスリン島にあった。
(そろそろ高位の魔法も試しとかないとな。とりあえず第7階梯で何かいっとくか? 第7階梯の魔法は……『隕石』ってのを使ってみるか)
ユウヤは『隕石』を発動……しようとしたが、何も起こらない。
(あれ? すべての魔法を使えるんじゃなかったのか? ……考えてもしょうがないし、低レベルの魔法から試していくか。まず第3階梯から)
記憶にある第3階梯の魔法から一つ選ぶ。
「『氷柱』」
長さ50cmほどのの氷柱が10本現れ、海に向かって飛んでいく。
(うまくいったな。第4回鄭の呪文はこの前『探索』を使ったから、次は第5階梯で……)
「『爆破』」
……何も起こらない。
ユウヤは考え込む。
(……そういえば、ヘルメスが第6階梯の魔法は一人じゃ使えないとか言ってたっけな。確か魔力が足らないとかいう話だったような……。ひょっとして、込める魔力が少なすぎたってことか? )
今度は少し魔力を多めにして『爆破』を使ってみる。
白い火花のようなものが飛び……目標地点に届いた瞬間、一瞬の閃光の後に、轟音とともに大爆発が起こった。爆発の影響で、10mにも達しようかという巨大な波がユウヤめがけて襲い掛かってくる。
「うわっ!? 『飛翔』っ! 」
ユウヤは慌てて空に逃げて事なきを得たが、荒れ狂う波によって島は完全に水没し……海面がおちつき、島が着地できるようになるまではたっぷり10分ほどもかかったのであった。
島が波をかぶらなくなったのを確認して、ユウヤは島に着陸する。
(やっぱり魔力の問題だったか。……それにしても、とんでもない威力だったな。第5階梯の『爆破』でこれなら、さっきの『隕石』は……うん、封印だな。津波とか起りそうだ。それにしても、この島を紹介してもらってよかったな。やっぱり高位の魔法も、どれくらいの魔力でどの程度の威力になるか、把握しとかないと危ないからな……いろいろと試してみよう。『隕石』以外は、だけど)
それからユウヤは日がな一日、いろいろな魔法を試してみたのであった。
熱中しているうちに段々と日が傾いていき、気づけば太陽が殆ど沈みかけていた。
(困った……これじゃ向こうにつく頃には真っ暗だな。前世と違って街灯があるわけじゃなし……そうだ、『転移』って魔法があったっけ。一度行った場所にワープできるんだったな。よし)
「『転移』! 」
視界が歪んでいき……次の瞬間、ユウヤはオリバー邸の前に立っていたのであった。
転生して約一か月後。
型稽古はすでに卒業し、森での魔物狩りもやりすぎたせいか、あまり魔物がいなくなってきたので、ここのところはオリバーとの模擬戦が中心となっていた。無論、ユウヤは寸止めでだが。
「……参った」
四つん這いになったオリバーが、荒く息を吐く。
「はぁ、はぁ……まさか一か月でここまでになるとはな」
ユウヤの剣術はありえない速度で上達し、オリバーすら相手にならないレベルに至っていた。
「寸止めでこれとは……な。これでも俺は大陸で指折りの達人と言われてるんだが、正直……もう歯が立たん。わざわざ召喚魔法で召喚されてきたのは伊達じゃないな。型も完全に身についたようだし……貴公、免許皆伝だ」
「一か月の間、世話になった。礼を言う」
「なんの。それよりも、魔法の訓練の方はどうなんだ」
「魔法も一通り使えるようなったぞ」
「わかった。では、そろそろ『試練の迷宮』に挑むってことでいいか」
「ああ」




