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安直勇者 ~俺はなんでも安直に解決できる勇者様~  作者: 差肥塚 祝


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チャド=ヨルバ会戦 1

 「どうやら各軍とも、布陣は概ね終わったようだな」

 遂に決戦当日。

 ユウヤは一人、ヨルバ平原の南端近く、空中はるか高くに佇んでいた。ただし、ガラハッドに魔力を通しているユウヤは誰からも見えない。

 南西の方、アビジャン回廊の出口付近には、すでに反乱軍が三王国軍に対峙する形で布陣を終えている。

 南に目をやると、眼下には広大なチャド盆地が広がっている。

 ただしその中央部には、黒い瘴気のようなものが渦巻き始めていた。

 最初は常人とはかけ離れた視力を誇るユウヤでも視認が難しいほどの、ほんの小さな点のようなものにすぎなかったが、徐々にその規模と濃さのみならず、禍々しさを徐々に増しており、今では、ユウヤの位置からなら常人でもハッキリ視認できるほどに巨大化していた。

 ユウヤの脳内に『念話』の声が響く。

 『ユウヤ、聞こえてる? 』

 『フェイか。聞こえてるぞ。……盆地で渦巻いてる瘴気みたいなものが、かなり大きくなってきた』

 『こちらでも観測してるわ、視認じゃないけど。そろそろ魔界の眷属の召喚が始まるわよ』

 『召喚のタイミングって、はっきりわかるものなのか? 』

 『そのために観測装置を設置したんじゃない。いい? もう一度確認しておくけど、魔界の眷属の召喚と布陣が整ったところで、ユウヤが『隕石』を発動する。それが開戦の狼煙になるわ。ユウヤと私達で『隕石』の効果を確認して、報告の上で、竜人族軍と魔導士軍の作戦を決定する』

 『ああ、わかってる。ところで、召喚された魔界の眷属が布陣しないで、五月雨式に攻撃を始めるって可能性は考えなくていいのか? 』

 『魔界の眷属はちゃんと知能がある『軍隊』なんだから、そんな馬鹿なことはしないわよ』

 『了解。まぁ今回は、それが仇になるんだけどな……ん? 始まったらしいぞ』

 『そのようね……各軍への伝達もあるから、一旦念話を切るわよ』

 『わかった』

 黒く渦巻く瘴気から、数体の存在が飛び出してきた。距離があるため米粒程度の大きさにしか見えないが、ユウヤはその人並外れた視力によって、それがまぎれもなく悪魔であることを認識できる。

 悪魔たちは暫く何かを確認するかのように瘴気の近くを飛び回っていたが、そのうちの一体が一旦瘴気の中に戻ったかと思うと、その瘴気から、無数の悪魔達がぞろぞろと吐き出され始めた。

 (さっきの数体は偵察ってことか)

 吐き出された悪魔たちは隊伍を組むとともに自ら召喚を始めたようで、説明するのも悍ましい程の、吐き気を催すほど忌々しい異形の存在が次々に湧いてくる。

 瘴気からは続々と吐き出される兵士級に交じって、時折他の者より明らかに大きい、武装をした悪魔も出現し始めた。隊長級なのであろう。

 瘴気から続々と這い出てくる悪魔と、悪魔が呼び出す眷属によって、急速に盆地が埋め尽くされていき、次第に一つの大規模な軍集団が形成されていく。

 軍集団が完成を見るころ、ようやく悪魔が吐き出すのを止めた瘴気の渦は、一瞬にしてその規模が大きくなり、より激しく渦巻き始めた。

 (ん? ……大将のお出ましか)

 瘴気の渦から、あの『試練の迷宮』で対峙したのと同じ、それまでより明らかに巨大な存在が一体ずつ姿を現す。

 その数が五体を数えたところで、瘴気の渦は力を使い果たしたかのように急速に萎んでいき、程なくして痕跡一つ残さず消滅した。

 「やっとお揃いってとこだな……そろそろ始めるか」

 ユウヤは体内に魔力を込めていく。

 その常識外の魔力ゆえ、これまで常に魔力を抑制することに腐心せざるを得なかったユウヤであったが、今回にばかりはその必要がない。

 体内の魔力が天井知らずに、恐ろしいほど膨れ上がり、充実していく。

 「いくぞ……『隕石』! 」

 魔法を使った瞬間、体内に限界まで貯め込まれた魔力が一気に抜け落ちた。それでもまだ足らないといわんばかりに、体の力までが抜き去られていく。

 (おいおい、どんだけ魔力を持ってくんだよ)

 ユウヤは慌てて魔力を込め直すが、込めた端からその魔力も体から吸い取られていく。それに対抗してユウヤは更に魔力を込めていく。

 ユウヤがうんざりしてきたころ、ようやくにして体内の魔力が落ち着いてきた。それはいいのだが、魔法の効果が何一つ現れない。眼前の魔界の眷属はそろそろ動き始めているというのに。

 (どうなってんだ? まさか、失敗したのか? ……シャレにならないぞ)

 『隕石』は開戦の狼煙というだけでなく、魔界の眷属に対しての唯一の切り札となるはずの魔法である。軍議で大見得を切った手前、失敗しましたではすまされない。

 焦り始めたユウヤだったが、突然背筋に寒いものが走る。五感で何を感じられたわけではない。それでも何か底知れない、恐怖そのものにも似た何かを感じたのである。

 (何か、来る……上か!? )

 見上げたユウヤの目が捉えたのは、はるか上空に浮かぶ、一つの黒い小さな点であった。

 暫くはただその場に静止しているようにしか見えなかったその点は、徐々にその大きさを増すとともに、徐々に色が赤変していく。

 それは際限なく巨大化していくと共に、白い光を帯び始めた。

 それとともに、辺りに風が吹き始めた。最初はそよ風程度に過ぎなかったのが、段々その場に立っているのも難しい程の強風と化し、更には空全体が震えるかのような鳴動を始める。

 その間にも、黒い点に過ぎなかったそれは際限なくその大きさと輝きを増していき、最後には山一つ程の大きさの、目を開けていられないほどの白い閃光と化して、鼓膜を突き破る程の轟音と衝撃ともに、盆地のど真ん中に突き刺立った!

 盆地からの衝撃波をまともに受け、吹き飛ばされかけたユウヤであったが、空中で何とか体勢を立て直す。その目に映ったのは、盆地全体から激しく吹き上げる噴煙だった。

 噴煙は見る間に天まで届き、空全体を覆っていく。轟音が鳴り響き続け、はるか上空では断続的に雷鳴が光っている。見下ろしてみると、大地全体が激しく揺れていた。軍全体が大混乱に陥っている。

 (これが、『隕石』!? ……滅茶苦茶じゃねぇか! ……ギビル様……)

 呆然とするユウヤの脳内に、悲鳴のような『念話』が響く。

 『ユウヤ、応答して! ……生きてるの!? 』

 『こっちは大丈夫だ』

 『何なの、これは!? 天変地異!? 』

 『何って……『隕石』、だな。多分』

 『魔法ってレベルじゃないわよ!? 』

 『……正直、俺もそう思う……試し撃ちとかしなくて正解だったよ。それはそれとして、そっちは大丈夫か? 』

 『大丈夫じゃないわよ! 今大混乱してるわ。衝撃で吹き飛ばされたりした人もかなりいるけど……地震も段々弱くなってきてるから、しばらくすれば落ち着くと思う。それより、盆地の状況はわかる? 観測機器が倒れたりして、今機能してないのよ。壊れてはいないと思うけど……再起動するのに、少なくともしばらくはかかりそうなの』

 『『探索』で見る限りでは、盆地の中に残ってる反応は……三十体程度だな。反応は盆地の周辺部にしかないから、吹っ飛ばされてかなりのダメージを受けたんじゃないかな』

 『三万近い軍勢だったのよ!? 本当なの、それ……! 』

 『間違いない』

 『それしか残っていない事に驚けばいいのか、あの爆発で三十体も残ってる事に驚けばいいのか……』

 『全くだ……『隕石』を使った俺が言うのも何なんだけどな。それはそれとして、今からどう動くんだ? 』

 『こっちが聞きたいわ。混乱が収まるまでは動きようもないし。反乱軍の方はどうなってるの? 』

 『反乱軍は……大混乱どころじゃないな。相当の被害がありそうだ。爆心地から近い分、こっちの軍よりはるかに酷い状態なのは間違いなさそうだ』

 『報告してくるわ。ユウヤから報告事項は? 』

 『そうだな……』

 (盆地の中にまだ残ってるのは将軍級か、それに近い連中だろうな……となると、直接俺が対応した方がいいだろう。といっても、この噴煙じゃな……再生能力があるんだし、早いうち倒した方がいいんだけど……。待てよ? 確かアーティファクトの鎧『ガウェイン』の特殊能力って、過酷な環境下でも自由に動けるってものだったよな。兜『ベディヴィア』の視界確保と組み合わせれば……いけるんじゃないか? )

 『ユウヤ? 』

 『ああ、すまん。とりあえず、俺はチャド盆地の残敵を掃討してくるよ。あの状況で生き残ってるのは将軍級か、それに近い強さの奴だろうから、俺が対応した方がいいだろう』

 『あんな噴煙の中に入っていけるわけないでしょ!? 』

 『アーティファクトの能力を使えば、いけると思う。無理そうなら引き返すから、心配はいらない。何かあったら連絡してくれ』

 『……わかったわ。くれぐれも気を付けて』

 ユウヤは念話を切ると、ベディヴィアとガウェイン、ついでにガラハッドに魔力を込めた。

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