軍議
それから5日後、遂に六王国全ての軍がラゴス砦に集結を完了した。砦の上から見ると、無数にも見える大軍が隊列を組んで整然と動く様は、なかなか壮観である。
何をするわけでもなく軍勢を眺めていたユウヤだったが、軍議が開かれるということで会議室に赴いた。
会議室は砦の一室ということで簡素そのものだったがその規模は大きく、多くの出席者を受け入れていた。
ユウヤはオリバーの隣の席に案内される。
各国とも一番前に王や女王が鎮座しており、その後ろに大勢の出席者が座している。
隣にいるオリバーに聞いてみたところ、いずれも将軍級、宮廷魔導士長級、大神官級の中でも最上級の者ばかりらしい。
最初に宮廷魔導士から観測結果の報告があった。
「……以上のことから、魔界の眷属が召喚されるのは今から十日後の正午ちょうど、これは確定です。また、召喚される悪魔の個体数はおおよそ五千体程度。それぞれが数体ずつ魔物を召喚するとして、二万五千体から三万体の魔界の眷属がチャド盆地に出現すると考えられます。なお、悪魔どものうちには五体程度の将軍級が含まれると予測されます。観測結果についての報告は以上になります」
その瞬間、会場中に騒めきが走る。
「三万体の……魔界の眷属……」
「多すぎる……」
「大規模『爆破』とは言え、倒しきれるのか? 」
「将軍級の悪魔だと……伝説中の代物ではないか」
出席者が様々に囁きあう中、エカラデルハン7世が立ち上がる。
「将軍級について、少々補足がある。みな承知かもしれぬが、カレドニア王国のオリバー大将軍の横に座しておる者こそ、此度の戦いのために神より遣わされた、ユウヤと言う者である。この者は過日、『試練の迷宮』にて将軍級の悪魔と対峙した」
出席者がざわめき、その目がユウヤに集中する。
「対峙した際の情報として、まず通常の物理攻撃は効かず、弱点であるはずの光属性の『聖弾』も効かなかったそうだ。さらに、その悪魔は部屋の中で自らを巻き込む『爆破』を放ったが、それによってすら何らダメージを受けなかったとのことだ」
動揺の嘆息が議場に響くとともに、何名かの出席者から意見が上がる。
「『爆破』が効かないのであれば、そもそも作戦が成り立たぬぞ? 」
「そうとは限らぬぞ、何しろ空前の規模の『爆破』だ」
「こうしてこの場にいるということは、ユウヤ殿は将軍級の悪魔と対峙して生き延びたということであろう? 対策があるのでは? 」
答えようとしたユウヤが挙手する前に、エカラデルハン7世が答える。
「この者は全ての『試練の迷宮』を突破し、神々が手づから創造されたアーティファクトを所持しておる。それらアーティファクトの力をもって、将軍級を倒したと報告を受けた」
議場全体が騒めく。
「それは、ユウヤ殿しか使えない手ではないか」
「将軍級はユウヤ殿にまかせればよいのでは? 」
「馬鹿な、五千体からの悪魔がいるのに、一人で将軍級だけ狩って回れるわけがなかろう!? 」
「馬鹿とはなんだ、馬鹿とは!! 」
会場内で怒鳴りあいが始まったが、一人の人物が静かに立ち上がると、にわかに会場が静まり返る。
竜人族の王カイシャン・ハーンだ。
やはり、大陸一とも言われたその武威は特別なものらしい。
「この会議室に、実際に将軍級と立ち会った者がおるのじゃ。まずは、その者に話を聞くのはどうかの? ああ、参考までに言っておくが、ユウヤ殿は、一対一の模擬戦で儂を倒した強者じゃ。それも、圧倒的な差をもってな」
「な!? 」
「カイシャン陛下を……下した? ……」
各国の将軍級が驚愕の声を上げる中、オリバーが続けて発言する。
「補足しておこう。剣を教えたのは私なのだが……全くの素人であったのが、私が全く歯が立たなくなるまで、一か月もかからなかった」
「オリバー殿が……歯が、たたないだと……」
今度は会場が静まり返り、出席者の目がユウヤに集中する。オリバーに促され、ユウヤは口を開いた。
「私がユウヤです……先程お話があったとおり、通常の武器や魔法は将軍級には通じませんでした。それに、大規模なものであっても『爆破』も将軍級には効果がなく、それ以下の級の悪魔に対しても、十分とは言い難いようです」
「見てきたようなことを言われるが、何故それがわかるのだ? 通常の『爆破』とは規模も威力も桁違いになるはずだが? 」
「信じていただけるかどうか……実は昨日、神々にお尋ねしたのです。炎の神ギビル様がお答えになりました」
「神々に尋ねた? ……何を言っておるのだ? 」
「言うに事欠いて、神々の名を騙るとは何事か!! 」
怒号と疑念で会場中が騒めく。
決して嘘ではないのだが、本当に神々と話ができると信じてもらう術もなく、答えに窮するユウヤであったが、カレドニア国王ウィリアム12世が助け舟を出してくれた。
「……通常ならあり得ぬことであるが、この者は我が国が儀式をもって神々に助力を請うた結果、神々より遣わされし者である。ゆえに、神々との対話というのも戯言とは言えぬ。ユウヤ、続けよ」
「ありがとうございます。ギビル様の答えの続きなのですが……『爆破』ではなく、『隕石』を使え、ということでした」
「……『隕石』? それは……何ですか? 」
魔族の宮廷魔導士が口を挟む。
「炎属性、第七階梯の呪文です」
その瞬間出席者達が、特に魔導士や魔族を中心として騒ぎ始めた。
「な……! 」
「第七階梯……だと!? 」
「炎の第七階梯は名前すら失伝しているはずだが……『隕石』……というのか!? 」
「この大陸の魔導士が結集して放つ『爆破』より強力というのか!? 」
「そんな魔法、誰がどうやって使うというのだ!? 」
議場は大騒ぎとなり、収拾がつかなくなった。騒ぎは暫く続いたが、やおらエカラデルハン7世が立ち上がり一喝する。
「静まれい! ……ユウヤ殿に聞く。その『隕石』という魔法、其方が使える、ということでよいのか? 使えるとして、魔導士達の補助はどれくらい必要か? 」
「おそらくは強力すぎる魔法ですので、実際に使ったことはないのですが……ギビル様のお話からすると、私一人で使える、ということで間違いないようです」
「そうか……重ねて聞く。『隕石』なら、十分な効果があるというのだな? 」
「ギビル様は、問題ない、と。周りを山々で囲まれた盆地であればこそ被害が広がりすぎないだろう、とおっしゃってましたので、相当な威力であると思われます」
「今一つ聞こう。作戦は其方も聞いておると思うが、どのように作戦を変更すべきか? 」
「そうですね……魔導士軍の『爆破』に変えて私が『隕石』を使うということになるわけですが、威力がどれほどのものかはやってみないとわかりかねます。そのため、『隕石』の後、魔導士による観測の上で今一度『隕石』を使うなり、『爆破』で追い打ちをするなり、計画通り直ちに竜人族が突撃するなりを決め、魔導士軍から『念話』で各軍に伝達するのがよろしいかと思われます。後、アビジャン回廊の出口に反乱軍に当たる三種族の連合軍を布陣するということでしたが、念のため、こちらも出口から少し引いたところに配置した方が良いかと」
「そうか……。皆に問う。今の変更案、いささか不確定要素も多いとは思われるが、異論があれば申し出よ」
議場はざわついだが、発言する者はいなかった。ウィリアム12世が続ける。
「余は変更案を支持する。戦に不確定要素はつきもの。これ以上議論しても、より良い案が出るというものでもあるまい」
カイシャン・ハーンも立ち上がる。
「我も支持する。竜人族は、我らが友たるユウヤ殿と常に共にある」
この二人の発言が決め手になった。他の四王国も次々に二人に追随し、六王国連合軍の作戦は決したのであった。




