偵察行
「『試練の迷宮』突破、大儀であった。……それにしても、将軍級に『爆破』が効かないというのは、誠だったのか。昨日アディオラから聞いてはおったが……」
次の日、ユウヤから報告を受けたエカラデルハン7世は頭を抱えて唸る。
「はい。部屋の中で『爆破』を使われましたが、使った悪魔自身には何の被害もないようでした」
「魔界の眷属に対しては広範囲の『爆破』で対処する手はずになっておったのだが……加えて通常の『聖弾』も物理攻撃も効かぬとなると……どう対処したものか……」
「口はばったいようですが、私が直接当たるのが一番早いかと」
「……確かにそうではあるが……何処に何体現れるかわからぬものを、ユウヤ殿が一人で対応するというのは無理があろう。いずれにせよ、策を練り直さねばな……ユウヤ殿、情報提供感謝する。数日中には6王国軍全てがこの砦に集結して軍議を行うゆえ、その場で図ることにしよう。……ユウヤ殿にも軍議に参加してもらいたい」
「わかりました」
「それまでは、6箇所もの『試練の迷宮』を突破したことだ、疲労の蓄積もあろう。来るべき魔界の眷属との戦いに備え、ゆっくりと体を休めるがよい。下がってよいぞ」
「お待ちください。意見具申を許可願います」
貴族の中から、ローブを羽織った人物が立ち上がった。
(あ、フェイさんだ)
ユウヤはローブから覗く顔に覚えがあった。モーガン・ド・フェイ。ユウヤがこの世界に召喚されて間もなく、魔法の修練のため、『飛翔』で絶海の孤島に案内してくれた人物だ。
(また少し頬がこけたような……魔王の対応で多忙って言ってたしな)
「フェイ、非礼であるぞ。ユウヤ殿が退出してからにせよ。其方ほどの者が、そんなことも弁えぬとは」
「ユウヤ様がいるからこそ、今あえて申し上げているのです。例の件、ユウヤ様に同行していただければ」
「その件は却下したであろう? 」
何の話かわからないユウヤは思わず質問する。
「あの……すいませんが、何のお話でしょうか。何やら、私に関係することのようですが……」
答えたのは王ではなく、フェイであった。
「戦いにおいて敵の戦力を把握することは非常に重要ですが、残念ながら、現在はそれが十分とは言えない状況なのです。何度も密偵を放ってきたのですが、その成果ははかばかしいとは言えず……そこで、『飛翔』が使える私が直接事に当たることを申し出たのですが……」
フェイがそこまで説明した所で、王が話を引き取る。
「確かに其方程の者であれば、任務を果たせる可能性も少なくないであろう。そう簡単に不覚を取るとも思えぬしな。しかし、例えば不意打ちで近接戦闘を強いられた場合、其方と言えどもひとたまりもあるまい。……この時期に、宮廷魔導士長たる其方を失うリスクを犯すわけにはいかぬ」
「そこで、ユウヤ様なのです。ユウヤ様が同行していただけるのであれば、そのような自体にも対処が可能だと考えます」
「……む……確かに、一理ある。しかしそれは……万が一のことがあった場合、其方のみならず、ユウヤ殿まで失うということを意味するのだぞ。そのことは来るべき戦いにおいて、致命傷となりかねぬ。いくら何でもリスクが大きすぎる」
そこから王とフェイの間で口論にも近い激しいやり取りが続いたが、見かねたユウヤが声をかける。
「お二人ともよろしいでしょうか……お話は分かりました。偵察のお話、受けさせていただきます」
「しかし、それは……」
「リスクへの対応ですが、私は常時『探索』を展開することができますので、不意打ちを食らうことはありませんし、悪魔の一体や二体程度、それが将軍級であっても切り抜ける程度の力はあります。それに万一の場合、『転移』でフェイさんごと逃げることも可能です。そもそも、私は今回の事態に対応するために神々が送り出した存在です。失礼な申し様かもしれませんが、偵察程度の任務をこなせずに、今後何の役に立てるというのでしょうか」
「む……確かに……そうかもしれぬが……しかし、人間族である其方は我が国では目立ちすぎる。密偵としては……」
「そのことなら、問題ないわよ」
声の方を見ると、王の傍らに控えていたアディオラ王女が、指先に輪っかのようなものを引っかけて回している。
「ユウヤ、これあげるわ」
ユウヤはアディオラ王女が投げた輪っかのようなものを受け取った。
「これは……ペンダント、ですか」
「首にかけて、魔力を流してみて」
ユウヤが言われた通りにすると、周りからどよめきの声が上がった。
「肌と目の色を変える魔道具よ。魔力紋までは再現できかったけど、顔に魔力紋がない魔族なんていくらでもいるし、これなら問題ないでしょ? 」
「うむ……確かに、魔族にしか見えぬが……いつの間に、このようなものを……」
「偵察の話は前からあったから、一応作っといたのよ。ユウヤがあそこまで強いとは期待してなかったけど」
「そうか……うむ、わかった。ではモーガン・ル・フェイ、並びにユウヤ。魔王領の偵察を命ずる。……最重要の任務ではあるが、何よりも最優先されるのは其方等の生還であると心得よ」
「はっ」
こうして、魔王領への偵察を行うことになったユウヤであった。
その日の夜、ユウヤはフェイと落ち合った。フェイの横には一つが人間一人程の大きさがある、何やら機械のようなものが並んでいる。
「このお話、受けていただいてありがとうございます。よろしくお願いします」
フェイが頭を下げる。
「かまいませんよ。それより、具体的な行程とかを教えてもらえますか? それと、そこに並んでいる機械みたいなものは何でしょうか」
「はい。まず『飛翔』でここより真っすぐに南下し、チャド盆地に向かいます。大規模な魔力の滞留があり、魔界の眷属が大規模に召喚と目されている場所です。並んでいる物は観測装置で、チャド盆地の周囲に埋め込むことができれば、魔界の眷属の召喚について事前に観測する事が可能です。埋め込む装置が多いほど精密な観測ができるのですが、ご覧の通りかなり大きいものです。私の『収納』と『整地』だと、せいぜい五台程度が限界なのですが……」
「十台ほど並んでますすが、他にもありますか? この程度の物なら、十や二十位どうということもありませんが」
「どうということもない? 魔力量が多いのは存じてましたが、そこまでとは……ああ、装置の数ですが、十台も設置すれば最高精度での観測が可能です」
「わかりました。全てこちらで運びましょう。で、装置を埋め込んだら終わりですか? 」
「いえ、できれば首都オグボモショに潜入し、状況を確認したいと考えております。流石に首都近くまで飛んでいくのは察知される危険が大き過ぎますので、まず『飛翔』でチャド盆地の西、アビジャン回廊に向かい、馬を調達してからオグボモショに向かう予定です」
「わかりました。では、出発しましょう」
観測装置を収納すると、二人は『飛翔』を使い、一路チャド盆地目指して飛んでいく。それなりの時間飛んだはずなのだが、ラゴス砦を出発して以降は建物一つ見かけず、ひたすらだだっ広い退屈な光景が広がっていた。
「何も無い所ですねぇ」
「このあたりはヨルバ平原といいます。六王国軍はここに布陣する予定です。地味が痩せておりますので、開発が進んでいない土地です。ちなみにチャド盆地は、正面に見えてきた山脈を超えたところになります。山脈の右側の方に切れ目があるのがわかりますか? あれはアビジャン回廊という通路の入口で、オグボモショまで通じています。こちらが反乱軍、つまり魔王に従った魔族達の軍の進路となります」
「なるほど」
「チャド盆地で召喚される魔界の眷属と、アビジャン回廊を進軍してくる反乱軍を、ヨルバ平原で迎撃するというのがこちらの基本戦略なのですが、ヨルバ平原にどう布陣するかを決めるために、魔界の眷属、反乱軍共の陣容をできるだけ把握しておく必要があるのです。今回の偵察任務は、そのためのものです」
「魔界の眷属はともかく、反乱軍の陣容はある程度わかるのでは? 元々そちらの国の軍の一部ですし……」
「魔族については、そのとおりです。ただ、これは斥候がもたらした数少ない成果なのですが……少数ながら、オグボモショで既に魔界の眷属が召喚されているという情報があったのです。これが事実なら、少数であっても侮れぬ戦力となります」
「オグボモショに潜入するのは、その辺りの把握のためということですか」
「ええ。……やっとチャド盆地に入りました。ここで一旦降りましょう」




