『魔力の試練』 3
地下3階。
「部屋が一つだけ、魔物はいない……と。意外と単純な造りなのね」
「『知の試練』以外は、殆ど似たようなものでしたよ」
「そうなの……。まぁ、単純な構造の方が助かるからいいんだけど」
入ってみると、そこには立方体が一つ浮いていた。
1辺が10mもあるような巨大なもので、その表面は50cm四方程の正方形をしたタイルが並んでいる。部屋自体狭くはないのだが、部屋の空間のほとんどを立方体が占めているため、非常に圧迫感がある。
加えて部屋の壁、天井、床全てに巨大な魔法陣が描かれていた。
「……何だこれ」
「これ、ひょっとして……いや、まずは魔法陣を調べてからね。ちょっと待っててちょうだい」
アディオラ王女は紙とペンを出し、魔法陣を調べ始めた。
1階と同じように、魔法陣の各所に移動し、指でなぞり、時にメモを取り、首を傾げたりしている。
(今回は魔法陣が六つもあるんだし、時間がかかりそうだな)
邪魔にならぬように、おとなしく待っていたユウヤだったが、存外早く解析が終わったようで、三十分程度でアディオラ王女はユウヤに話しかけてきた。
「終わったわよ」
「意外と早かったですね」
「一階のほど複雑な魔法陣じゃなかったしね。6つともほぼ同じものだったし」
「で、解析した結果はどうだったんですか? 」
「3つの術式が織り込まれてるわね。まずは『爆破』の術式。これは1階と同じ、不正防止のためのものね。次に、『飛翔』の術式。こっちは、この立方体が浮いた状態で静止しさせておくためのものね。ここまではいいんだけど……」
アディオラ王女は額を手で押さえながら首を振る。
「残り一つに、何か問題がある、と」
「ええ。この立方体全部が、一つの『魔道箱』になってるのよ」
「『魔道箱』? 何ですか、それ」
「あぁ、ユウヤは知らないわよね。魔道箱は魔道具の一種で、魔族の伝統的なパズルの一種なの。この一つ一つの四角形はそれぞれ独立したピースになってて、そのうちの一つだけが微かに魔力を放ってるの。その魔力を検知して、そのピースだけに魔力を特定の量込めれば、そのパーツが引き抜かれるわ。こんな風に」
アディオラ王女が手元にあったピースに魔力を込めると、そのピースがゆっくりと飛び出し、大きな音を立てて地面に落ちた。
「きゃあっ!? 」
「え? どうしたんですか? 」
「こんな大きい音がするとは思わなかったから……」
アディオラ王女は外れたピースを抱えようとしたが、どうしても持ち上がらないようだ。
「な、何よこれ、持ち上がらないわよ? 何でできてるの? ま、まぁとにかく、今みたいにピースが外れると、他のどこかのピースが魔力を放つようになるから、今度はそれを検知して外して……というのを、全部のピースが外れるまで繰り返すの。魔族の子供が魔力に親しむためのパズルなのよ」
「なるほど。で、何が問題なんですか? 」
「何がって……この巨大なパズルのピースの魔力を一つ一つ調べて外していくのに、どれだけ時間がかかると思ってるのよ。しかも」
「しかも? 」
「普通の魔道箱は仕掛け、つまり魔道具の部分が内部にあって、外部にピースが張り付けてある構造なんだけど、……この魔道箱は周りの魔法陣が仕掛け部分なのよ」
「つまり? 」
「中身が全部がパーツで詰まってる、ってことよ。一辺が二十ピースだから、八千ピース近くあることになるわよね。もう、ふざけてるとしか思えないわ。それだけじゃないわ。上の方のピースには手が届かないし、上の面のピースを外した時、外したピースは片づけなきゃいけないでしょうけど、これだけ重いとなると……」
「なるほど、確かにまともにやると厳しそうですね」
「いっそのこと、罠の『爆破』を起動してやろうかと思ったわよ」
ユウヤは苦笑する。
「それは……さすがに止めときましょう。そうですね……『解析』とか『念力』とかを組み合わせれば、何とかできるんじゃないですか」
「『解析』? 『念力』? どう使う気? 組み合わせるっていうのも意味不明ね。……そういえば、ユウヤの魔法はまともじゃなかったわね。魔力量は馬鹿みたいにあるし、魔法の軌道を曲げたりしてたし」
「軌道を曲げるのはアディオラ様もやってましたが」
「ユウヤみたいに極端な曲げ方はできないわよ。まぁ、今まで軌道を曲げるなんて発想自体なかったから、練習すればもうちょっと何とかなるかもしれないけど……それは今いいわ。とりあえずユウヤの思う通りやってみてちょうだい。駄目なら駄目で他の手を考えましょ」
ユウヤはおもむろに立ち上り、巨大魔道箱に手を当てると、『解析』を使う。
(確かに内部までピースが詰まってるな。後は範囲を広げて……)
魔力をさらに込め、巨大魔道箱全体に『解析』を広げていく。
(ん……魔道箱の上の面に、一つだけ魔力を帯びたピースがあるな……これを抜けばいいのか? 『念力』で……)
『念力』を使ってピースを引き抜き、部屋の隅に落とした。ピースが落ちるゴトンという音にアディオラ王女が反応する。
「今の音は? ……ユウヤがやったの? 」
「全体に『解析』を使って抜くピースを探して、魔力を込めただけですよ。後は『念力』で移動してやればいいだけです」
「……この大きな魔力箱全体を『解析』? それに、離れたピースにどうやって魔力を込めたの? 」
「『念力』の応用みたいなもんですね。やってみたらできました」
「やってみたらできましたって……ええ……それともう一つ、こんな重いものを『念力』で動かせるの? 嘘でしょ? 」
「できるみたいですよ。とっとと終わらせましょう」
ユウヤは引き続き『解析』『念力』を使ってパーツを引き抜いていく。
数千ピースをすべて引き抜くのはなかなか手間取ったが、それでも1時間半が過ぎたころには、大量の残骸を残して全てのパーツを引き抜き終わった。出口の扉が光り始める。
見ると、アディオラ王女が憮然とした表情で座り込んでいる。
「どうしました? 」
「どうしました、って……。もう、何なのよあなた」
「はい? 」
「これでも私は魔族、ひいては大陸でも有数の魔導士と自負してたんだけど……上の階でその自負にヒビが入って、この階で木っ端微塵に吹き飛んだわよ。……どうしてくれるのかしら? 」
「そう言われても……私は色々と特殊な立場ですし、それに、私から見てもアディオラ様の魔法の腕は確かなものですし、私にはない魔道具や魔法陣の知識もお持ちですよね? 」
「だーめ。そんなこと言っても誤魔化されないわよ。……そうね、魔界の眷属と魔王を倒した後、研究に協力してくれるんなら許してあげてもいいわよ? 」
「……わかりました」
「そう、それならいいわ。今から楽しみね」
(どうやら機嫌を直してくれた……のはいいけど、どんな協力をさせられるんだか……人体実験とかされそうで怖いな)
将来が少し心配になるユウヤであった。




