訓練の日々 2
転生して6日目。
午前中に型稽古を一通りこなし、オリバーと城の郊外の森に来ている。
「この辺りは、弱い魔物がよく出るところだ。まずは魔物を見つけんとな」
2人で森の探索を始める。
「いいところだな」
「何がだ? 」
「前世ではこんなに森の中に入ることもなかったからな。静かだし、空気がうまい」
「空気がうまい? 何だそりゃ」
そんなことを話しながら1時間ほど歩き回ったが、魔物一匹出てこない。
「……何も出てこないな」
「まぁ、出てこない日はこんなもんだ」
「でも、これじゃ訓練にならないぞ。何とかならないかな」
「『探索』でも使えればいいんだがな」
「『探索』って何だ? 」
「自分の周りの状況がわかる魔法だな」
(ん? 確か俺は全ての魔法が使えるんだよな……あぁ、確かに記憶にあるな)
「俺が『探索』を使えるらしいぞ」
「……らしいってなんだよ」
「神が俺の記憶に魔法の知識を刷り込んでくれたらしい」
「マジか。使える奴は宮廷魔術師クラスなんだがな……それなら、とりあえず使ってみたらどうだ? 」
「ああ」
さっそく『探索』を使ってみる。ユウヤの脳内に、レーダーのような表示が浮かんでくる。
(えーっと、この中心が俺のいる場所か。赤い点が無数に表示されてるんだが……魔物にしちゃ多すぎるし、あれ? ほぼ真ん中にも赤い点があるな。……これって、ひょっとしてとんでもなく広い区域が表示されてるってことか? 表示区域の調整は……)
ユウヤが念ずると、ユウヤ達の周りが拡大表示される。
「……できるみたいだな。こっちだ」
レーダーの一番中心に近い点の方に歩いていくと……何か物音が聞こえてきた。
物音を立てないよう、静かに近づいていくと……一体の魔物が歩いているのを見つけた。2足歩行で、身長が5mほどあり、毛むくじゃらだ。右手には、人間より大きな、巨大な棍棒を持っている。
「……でかいな」
「オーガだな。普通このあたりじゃこんな強力な魔物は出てこないんだが……こちらには気づいていないようだな。かなり強いし、ベテランでもそれなりに苦戦する魔物だが……2人がかりでやるか」
「……いや、とりあえず一人でやってみる。やばそうならフォローしてくれ」
ユウヤは気配を殺してゆっくりとオーガに近づき……一気に駆け出した。
オーガもユウヤに気づいたようで、振り向きざま棍棒を振り上げるが、振り下ろす間もなくユウヤは足元にたどり着き、横薙ぎの一撃を放つ。
その一撃は易々とオーガの片足を斬り飛ばし、オーガが悲鳴を上げて倒れる……と、間髪入れずにユウヤはオーガの心臓目掛けて深々と剣を突き刺したのであった。
オリバーが呆れたような顔をして歩み寄ってくる。
「……おいおい……初心者がオーガを一撃かよ。しかも2撃だと……一撃で足や首を斬り落とせるもんじゃないんだがな」
「そうなのか? 」
「普通は足を何度も斬りつけて、耐えられなくなったオーガが膝をついたところにとどめを刺していくもんだ」
「そうなのか? 誰かさんの訓練のおかげだな」
「そういうことにしておこう。しかし、まいったな」
「何かまずいことでも? 」
「こんなにデカい獲物が取れるとは思わなかったから、荷車は持ってこなかったんだよな。獲物は俺の『収納』で持ち帰るつもりだったんだが、こいつはさすがに入らんな。オーガの素材となると、それなりに高く売れるんだが」
「『収納』ってなんだ? 」
「『収納』ってのは風属性の魔法でな、文字通り物を異空間に収納できるって魔法だ。使った奴の魔力量によって収納できる量が決まる。使える奴はそこそこ多いな。商人なんかが重宝する魔法だ」
「ほう」
「ちなみに、似たような魔法で『保管』ってのもある」
「そっちはどんな魔法なんだ」
「『収納』とちがって、中に入れた物が時間経過の影響を受けないらしい。腐ったりしないってことだな。こちらは第4階梯の魔法だから、使える奴もめったにいないし、魔力の消費量も半端じゃないらしいぞ」
ユウヤはしばらく考え込む。
「どうした? 」
「……今記憶を探ってみたんだが、『収納』も『保管』も使えそうだ。あとはこのデカブツが入るかどうかだが……」
ユウヤが『保管』を使ってみると、オーガは目の前から消える。
「……貴公、便利な奴だな。じゃあ、この調子でどんどん行こう」
こうしてその日は多くの魔物を狩り続け、そのうちの一部は夜の食卓に並ぶのであった。
魔法の訓練3日目。
3日目ともなると、大分慣れてくる。石弾もヘルメスの魔法と似たようなレベルまで弾数と破壊力を落とすことができるようになってきた。
並行して、他の低レベルの魔法も練習している。
「まぁ……まだ威力が少しおかしいですが、一応まともなレベルにはなってきてますね。初日のようなおかしな威力の魔法を放つと、味方はもちろん、自分自身にも被害が出かねませんので、くれぐれもご注意ください。逆に言えば、味方に被害が出ない程度に強く魔力を込めることはとても有効ですので、そのあたりの制御はとても重要です。もっとも、普通はそんなに大量の魔力は込めたくても込められないんですが……」
「わかりました」
「ちなみに、全属性とは伺いましたが、それぞれ何階梯の魔法まで使えるんでしょうか」
「神からは、全階梯使えると聞いています」
「!? 」
ヘルメスの動きが止まり、そのままフリーズする。
「何か問題でも? 」
ヘルメスは頭を抱える。
「……通常の人が使えるのは、せいぜい4階梯までです。5階梯が一属性使えれば、宮廷魔導士でも筆頭クラスなんですが……やはり神より遣わされた方だからということでしょうか……? 」
「第6階梯以上は? 」
「第6階梯の呪文が一つでも使えれば、伝説級の魔導士と言えるでしょうね。もっとも、一人では魔力が足りないので、補助を何人かつけて使うということになると思いますが。第7階梯に至っては、古文書に断片的な情報がある程度で、属性によっては呪文の名称すら失われています」
「じゃあ、何か第7階梯の魔法を使ってみましょうか? 」
「止めて下さい!! ただでさえユウヤ殿は魔法の威力がおかしいんです! そんなあなたが伝説の第7階梯なんて使った日には、とんでもないことになりかねません!! 」
「えぇ……」
「……とは言っても、高階梯の魔法についても実践していく必要はありますしね……まぁ、呪文の出力のコントロールも大分出来て来てますし、私から教えられることももうなさそうですので……そうですね、高階梯の魔法を修練できる環境を手配いたしましょう」
「……お願いします」
「では、今日の所はもう一度第2階梯までの魔法のおさらいということで」
こうして魔法の訓練は続くのであった。
魔法の訓練5日目。
ヘルメスが女性を連れてきた。
ローブを羽織っており体形はわからなかったが、その浅黒い顔には刺青のような模様、物憂げな切れ長の目に燃えるような紅い瞳、その細面は多少神経質には見えるとはいえ、間違いなく美人の範疇に入ると言っていいだろう。
「その女性は? 」
こちらはモーガン・ル・フェイ殿。カネム・ボルグ王国、つまり魔人の国の筆頭宮廷魔導士です。先日ちょっと申し上げました、5属性を使える魔導士のうち一人が彼女です。たまたま公用で我が国を訪問されておられるのですが、『飛翔』を使える稀有な魔導士ということで、本日協力をお願いすることになりました」
魔族の女性はうっそりと頭を下げる。
「フェイとお呼びください」
ヘルメスが続ける。
「先日申し上げました高位の魔法の修練なのですが、一部の高位の魔法の訓練は環境を選ぶ必要があります。広範囲を破壊する魔法もありますのでね。そこで、『飛翔』の魔法を使える彼女が、ラスリン島、王国の領海にある絶海の無人島なんですが、ユウヤ殿をそちらに案内し、高位魔法を含めた魔法の訓練をしていただこう、というわけです。『飛翔』も使えるんですよね? 」
「実際に使ったことはないんですが、多分」
「それではまず、『飛翔』の魔法を使ってみてください」
ユウヤは『飛翔』の魔法を唱える、と……ユウヤは瞬時にとんでもないスピードで空高く打ちあげられる。
(うわぁぁぁぁ!? ……え、えーっと、魔力を制御しないと……)
まだ覚束ないながらも多少は覚えた魔力の制御で、『飛翔』の暴走を少しづつ抑えていく。
30分もすると、自分が思うように飛行ができるようになり、景色を見る余裕もできてきた。
「うわぁ……」
雲一つない晴れた空。はるか眼下には緑の大地と、広大な王都デルフォード。遠くには海も見えている。
ユウヤも前世で飛行機くらいには乗ったこくらいはあるのだが、飛行機の小さな窓からのぞき込むのと、周囲全体が何もない空間なのでは、解放感が違う。
それに加え、自由に飛び回れるということは、バイクで疾走するのと似たようでいて、しかしそれとは比較にならない爽快感をユウヤにもたらした。
そうしてしばらく飛行を楽しんでいると、フェイが『飛翔』を使い、ユウヤのそばに飛んできた。
「まともに飛べるようになってきたようですので、そろそろ行きましょうか。ああ、私の魔力は一般人とは比較にならないほど多いのですが、流石にユウヤ殿と比較できるほどではありませんので、あまり早く飛ばないようにお願いします。では、こちらへついて来てください」
と言うと、海の方に飛んでいく。ユウヤもそれについていくのだった。




