『魔力の試練』 2
地下2階。
「魔物がいるわね」
「数は十八体……多くはありませんが、それだけ強力なものかもしれませんね」
部屋に入ると、遠くに色とりどりの幽霊のようなものが浮かんでいる。
「精霊……それも……かなり高位の精霊ね。種類は……六属性全部、三体づつね」
「精霊を見たのは初めてなんですが、何か注意はありますか? 」
「物理攻撃はしてこない代わりに、こちらからの物理攻撃も効果がないわ。魔法も反対属性のもの以外はあまり効かないわね。精霊と同じ属性の魔法で攻撃すると、逆に強化されるから絶対にやらないでね……『結界』! 」
飛んできた魔法を、アディオラ王女が落ち着いて防ぐ。
それを合図にというわけでもないだろうが、精霊達が一斉に魔法を放ち始める。
二人はそれを結界で防ぎながら、反対属性の魔法で迎撃する。互いに物理攻撃が無意味ということもあり、距離をとって、様々な属性が入り乱れた壮絶なの魔法の撃ち合いが始まった。
(ほう、これはなかなか……王が言っていただけはある)
ユウヤはアディオラ王女の魔法を見るのは初めてであったが、その威力のみならず、起動の速さ、使うタイミングに至るまで、その腕は一流のそれであった。
場合によっては『反射』や『結界』での援護も考えていたユウヤであったが、現在のところそれは必要なさそうである。
魔法の応酬はしばらく続いたが、『結界』を展開し魔法を防ぐ二人に対し、精霊達は想像以上に素早い動きで的を絞らせず、互いになかなかダメージを与えるには至らなかった。
(それなら……これでどうだ)
ユウヤは精霊の動きを先読みした上で放った一撃は、届く直前で軌道が急激に変化し、避けたと思っていたであろう精霊に命中した。
「今のは何!? 魔法が曲がったわよ? 」
「魔力を多めに込めれば、軌道を曲げることも可能です」
「聞いたことがないわ……私もやってみようかしら」
そう言いながらも魔法を撃ち続けるアディオラ王女。暫くするとその魔法は軌道はわずかずつではあるが変化し始めた。ユウヤのように命中させる事はできなかったが、それでもしばしば精霊にかする位にはなってきた。
「少しはコツをつかめたかしら。ユウヤみたいにはいかないけど」
「さすがです。……ただ、さっきから何発か命中させてるんですが、ダメージがあるようには見えないんですが」
「精霊には痛覚がないから、ダメージを受けたように見えないだけよ。さっきからユウヤが攻撃してる土の精霊の大きさ、少し小さくなってるでしょ? ちゃんと効いてるから安心して。このまま続けるわよ」
(確かにそうだな。よし、慣れてきたことでもあるし、魔法の出力を上げていくか。反対属性の精霊を巻き込むとまずいから、範囲は広げないようにして……)
出力を上げたユウヤの『風刃』が土の精霊を襲う。命中すると思った瞬間、魔法と土の精霊の間に、風の精霊が割り込んできた!
「何!? 」
『風刃』が風の精霊に吸収される。出力を上げていたことも災いし、風の精霊が目に見えて巨大化した。
それを見た他の精霊たちも、互いの距離を縮めて密集した隊形をとる。
魔法を躱すのをやめ、先程と同様、魔法と同じ属性の精霊が前に出て吸収する事で二人の攻撃に対応し始めた。
その新しい戦法が有効であることを確認したかのように精霊たちはニヤリと笑うと、前にも増して激しく魔法を連射し始めたのであった。
「まずいな。これじゃ、下手に攻撃できない」
「上位の精霊だから、ある程度の知能があるのはわかるけれど……こんな手を使ってくるなんてね」
下手に攻撃ができなくなった二人は魔法を撃つのを止め、『結界』での防御に専念せざるを得なかった。
ただ守り続けるだけの時間がじりじりと過ぎていく。
「困ったわね、これじゃジリ貧だわ。魔力だって限りはあるんだし……ユウヤはどうか知らないけど」
「冗談を言ってる場合じゃないかと」
「冗談を言ったつもりはないわよ。それより、何か手はないの? 」
「……先程から考えている手は一応あるんですが、うまくいくかどうかは……」
「どんな手かしら? 」
「魔法の撃ち合いで分がない以上、接近戦しかないかと。こいつで」
ユウヤはアグラヴェインを握りしめる。
「言ったでしょ? 精霊に物理攻撃は効かないわよ」
「こいつはちょっと特別でして。あてはあります」
「……他に手がない以上、仕方がないわね。で、私はどうすればいいのかしら? 」
「ここを動かずに『結界』で防御しつつ、機があれば魔法で牽制してください。同属性の精霊に吸収される可能性がありますので、威力は絞るようお願いします」
「了解よ」
「じゃあ、行ってきます」
ユウヤは『加速』『思考加速』『飛翔』を使うと、精霊たちの方に突撃する。
(素早い切り替えができるかどうかがポイントだな)
乱射される魔法を『結界』で弾きつつ、恐ろしいほどの速度で一気に精霊たちとの間合いを詰めると、アグラヴェインに火の魔力を込めざま、目の前の水の精霊に振り下ろす。
アグラヴェイン何の抵抗もなく水の精霊を切り裂いた。同時に、アグラヴェインに水の魔力を込め、割って入った火の精霊を切り裂く。それからも入れ替わり立ち代わり立ちはだかる精霊に、アグラヴェインの属性を変えざま斬り裂き続ける。
(やっぱり属性を瞬時に切り替えるのは難しいな。一瞬じゃ大した魔力を込められるわけじゃないし……て言うか、効いてんのか、これ? こいつら無表情だから、わからないんだよなぁ。さっきはムカつく笑いを浮かべてたけど……しまった! )
ユウヤは視界の端に、今まさに『聖弾』を放たんとする光の精霊を捕らえた。しかし、放たれる寸前に光の精霊に『魔弾』が炸裂し、『聖弾』はあらぬ方向に飛んでいく。
『ユウヤ、聞こえる? 『念話』で語りかけてるんだけど』
『念話』は闇属性の魔法である。便利ではあるが、第6階梯のため使える者はほとんどいない上、殆ど魔法を独学したユウヤには使う機会がない魔法であった。
『聞こえます。牽制助かりました。ところで手ごたえが全くないのですが、自分の攻撃は効いてそうですか? 』
『大丈夫よ、精霊たちが少しずつ小さくなってるようだし、ユウヤの攻撃をあからさまに嫌がって、間合いを取り始めているわ。逆に間合いが開いた分、魔法を撃ってくるでしょうから気を付けて』
『距離が近すぎて6体全部の動きが把握しづらいので、指示をもらえると助かります』
『まかせて』
ただひたすら間合いを詰め、アグラヴェインに属性魔力を込め、精霊を切り裂き続けるユウヤ。的確な指示に加え、精霊が距離をとることを魔法で効果的に阻害し続け、機を見て魔法攻撃も織り交ぜるアディオラ王女。二人は即席であるにも関わらず、精霊のそれに劣らない強力なコンビネーションを築き上げていた。
三十分が過ぎたころ、度重なるダメージによって既に元の半分程度まで小さくなっていた土の精霊の一体が、ユウヤの一撃を受けて音もなく消滅した。そこからは速く、精霊たちは次々に消滅していく。残ったのは闇の精霊だけだ。
『私は光属性を使えないから、最後まで残ったんでしょうね』
『あとは任せてください』
もはや属性を切り替える必要がなくなったユウヤは、アグラヴェインにこれでもかと光の属性を込め、闇の精霊に叩きつける。
闇の精霊は余りダメージを受けていなかったようで、元の大きさからあまり変わってはいなかったが、その一撃であっさりと消滅した。
アディオラ王女がユウヤの方に歩いてくる。
「なかなかの強敵でしたね」
「そうね。一時はどうなることかと思ったわ。ただ……そんなことより、気になることがあるんだけど」
「何でしょうか? 」
「何なの、その剣は? 精霊にダメージを与えられる剣なんて聞いたこともないわ。刀身の色がころころ変わっていたようだけど、それも関係あるのかしら? 」
「ええ。この剣はアグラヴェインと言いまして、アーティファクトの一つです。魔力を込めることができるので、物理攻撃が効かない敵にも有効だろうと思いました。刀身の色は、込めた属性に応じて変わるようです」
「そうなの……解析すれば、魔界の眷属にも有効な剣ができるかもと思ったのだけど……アーティファクトじゃ、解析は無理そうね……残念だわ」
「まぁ、神々が直接造り上げたものらしいですからね……あと3階ありますし、そろそろ行きましょう」




