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安直勇者 ~俺はなんでも安直に解決できる勇者様~  作者: 差肥塚 祝


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『生命力の試練』 3

 ユウヤはガレスの魔力を切ってロープを消滅させると、ヴィキ王女を抱きかかえて様子を見る。体が少し冷たい。手足は力なく垂れ下がり、意識も朦朧としているようだ。

 「……息はあるな。効果はないかもしれないけど、一応使っとくか」

 『浄化』と『治癒』を使うが、やはりあまり効果がないようだ。

 それでも様子を見ているうちに少しづつ回復してきたようで、5分もするとヴィキ王女の意識はしっかりしてきた。

 「足を引っ張ってごめんなさい、なの」

 「気にしなくていい。俺ももう少し早く手を打つべきだった。何も考えなくていいから、もう少し休んどけ」

 地下4階を抜けた効果なのだろう、それからの回復は早く、20分もたったころには大体回復したようだった。

 「もう、大丈夫」

 「そりゃ良かった。後はあそこの扉を開けてくれれば、あとは見ててくれりゃいい」

 「うん」

 ヴィキ王女が扉に手をかざす。部屋の奥には身長は20m近くもある巨人が待ち構えていた。酷く不細工な顔をしており、その口からは鋭く、太く長い牙が突き出している。

 一見肥満に見えるその体形はよく見るとみっしりと詰まった筋肉の鎧であり、丸太、いや大木のように太い手足は全体の大きさに比べて不釣り合いに短い。

 その不格好さに似合わず、肌は大理石のように白く、美しい光沢を放っていた。

 左手には一見ただの鉄塊にしか見えないような、無骨そのものと言っていいハンマーを握りしめている。

 「……何だ、こいつ」

 「トロール……に、見えるけど、身長は倍以上あるね。色もトロールとは違うけど……」

 「まぁいいや。後はまかせろ」

 ユウヤは部屋に入る。と、トロールは悍ましい、地響きのような叫びをあげながら、その体形に似合わず素早い動きで一直線にユウヤに突撃し、ハンマーを振り下ろしてきた。

 (体形のわりに素早いな)

 一歩引いて躱すユウヤだったが、躱されたハンマーは巨大な衝撃音と共に床の表面を粉々に粉砕し、1mほどのクレーターを作る。

 (力も相当強い。当たったらただじゃすまなそうだ。一応使っとくか)

 ユウヤは『加速』と『思考加速』を使うと、トロールがやたら滅多に振り回し続けるハンマーをユウヤは難なく躱し続ける。

 トロールの攻撃は強力無比な上に、その連撃の速さも相当なものだが、フェイント一つ使わず闇雲にハンマーを振り回し続けるだけの攻撃を躱し続けることは、ユウヤにとってさほど難しいことではなかった。

 (そろそろ攻撃してみるか)

 ユウヤはトロールの攻撃を躱しざま放った『聖弾』が、トロールの脇腹に命中し、爆ぜる。

 その一撃はトロールの皮膚の表面を酷く傷つけたが、見る見るうちにその傷は修復されていき、ものの数秒で傷が元々なかったかのように消滅した。その間にも、トロールは意に介さず攻撃を続ける。

ユウヤは続けて『火球』、『石弾』、『魔弾』と試していく。どの魔法もトロールにダメージを与えはするが、すぐに修復される。

 (比較的ダメージが大きかったのは『魔弾』か。『聖弾』のダメージが小さかったし、こいつは魔属性が弱点ってことだな。それなら)

 「『魔弾』! 」

 トロールの顔面を狙って『魔弾』を放つ。ただし、今度は相当の魔力を込めてだ。

 命中の衝撃音とともにトロールは仰け反り、始めて連撃が止まった。見ると、トロールの顔面は半ば吹っ飛んでいる。片側の眼球は眼窩から飛び出して垂れ下がり、元々低かったが大きかった鼻が跡形もなくなっている。牙が何本か折れた顎は左側がちぎれ、右側だけが辛うじて顔面につながっていた。神経が切れたのか、ゴトンという音とともに、巨大な眼球が一つ地面に落ちてくる。

 (かなりのダメージのはずだが……どうだ? )

 様子を見るユウヤ。と、トロールの崩壊した顔面が不気味に脈うち初め、蠢き始める。見る間に抉れた顔面全体が大きく盛り上がり、元と同じ顔面が形成された。おもむろに地面に落ちた眼球を拾い、唯一復活せず、空洞になっていた左の眼窩にはめ込むと、また大きな叫び声をあげ、再びユウヤ目掛けてハンマーを振り回し始めた。

 (大した再生能力だな……魔法はとりあえずこれくらいにしとくか)

 ユウヤは襲い掛かってきたハンマーを紙一重で躱しざま、ハンマーを持つ左手をアグラヴェインで抜き打ちに斬りつける。その一撃は狙い過たず手首に命中したのだが……

 「固……っ!? 」

 手首に深い傷を負わせるも、ハンマーを取り落とすほどではなかったらしい。トロールは相変わらずハンマーを振り回し続ける。しかも、手首の傷も数秒で何事もなかったかのように再生した。

 (手首を両断するつもりだったんだがな。皮膚が固いのか、中身まで頑丈なのか……両方か。少し本気を出すか……まずは機動力を奪う)

 ユウヤは『剛力』を使い、アグラヴェインに闇の魔力を通す。突進してきたトロールに自分から突っ込むと、すれ違いざま足首にアグラヴェインを思い切り叩きつけた。

 『剛力』によって強化された一撃はトロールの足首を容易に両断し、勢い余ったトロールは切断された足首を残して、前のめりに地響きをあげて倒れ伏した。

 (よし、これなら……は!? )

 倒れ伏したトロールの、切断された足と足首の両方の切断面から無数の触手のようなものが禍々しく伸びてきた。

 触手は何かを探すように不気味に蠢き、両側の触手が触れたかとと思うとたがいに何重にも絡み合い、収縮し始め……足首が足にくっついた。

 トロールは何事もなかったかのように立ち上がると、またしてもユウヤに襲いかかる。

少し焦りながらも、ユウヤは連撃を躱し続ける。

 (四肢を両断しても駄目とは、な……いつぞやのゴーレムじゃあるまいし、再生能力高すぎだろ。となると……首か)

 「『飛翔』」

 ユウヤは宙に浮かぶと、トロールが振り回すハンマーを飛びながら躱し続け、トロールの隙を伺う。

 「ここだ! 」

 連撃の一つが大振りとなって、態勢を崩したトロールにユウヤは殺到し、一瞬で首を跳ね飛ばした。トロールの首がドサッと音を立てて床に落下する。

 首を落とされたトロールの体は傾いていき……そのまま倒れるかと思いきや、その右手でガシッと切り落とされた頭を掴むと、首の上に乗せた。

 頭と首の間に先ほど見た触手が蠢いたかと思うと、頭と首がしっかりとくっつく。

 トロールは頭がくっついたことを確かめるように左右に何回か首を振ると、またもユウヤに襲い掛かってくるのだった。

 (おいおい、首を斬り落としても死なないって……さすがに無茶苦茶だろ。……どうするよ? 攻撃を躱すのは難しくないっていっても、あまり長引くと万一ってこともあるしな……ゴーレムなら核がどこかにあるんだろうけど、こいつは血を流してたからゴーレムじゃないだろうし……残った弱点は……心臓、くらいしかないか。しかし……)

 相変わらず左手の巨大なハンマーをブンブンと振り回し続けているトロールの胸の真ん中を突きさすのは、首を刎ねるのに比べてもかなり難しそうだ。

 (……背中からだな。それにはまず、態勢を崩させないと……)

 ユウヤはそれまである程度取っていた間合いを詰め、トロールのすぐそばをに密着せんばかりに飛び回り始めると、攻撃リーチの長いトロールは逆に狙いを定められなくなりなり、叫び声をあげながら、両手を闇雲に振り回しつづけた。

 (大分イライラしてきたようだな……よし)

 ユウヤは突然トロールから距離をとる。ちょうどトロールのハンマーの間合いからギリギリ外れる距離だ。

 トロールはユウヤ目掛けて思い切りハンマーを振り下ろしたが、とっさに無理やり間合を詰めて攻撃したために体勢を崩し、その場に倒れこむ。

 (よし)

 ユウヤはハンマーを躱しざま天井まで飛ぶと、一転してトロール目掛けて全速力で急降下し、その勢いのままトロールの背中、胸の裏側あたりにアグラヴェインを根元まで深々と突き刺す。

トロールは断末魔のような、ひときわ大きい雄叫びを上げたが……突き刺さったアグラヴェインを握ったユウヤをぶら下げたまま、のろのろと立ち上がる。

 (え? )

 トロールはゆっくりと後ろ向きに歩き始める。最初の数歩は歩いていたが、段々駆け足に近くなっていき、最後にはかなりのスピードで自らの背中をユウヤごと壁に叩きつけた。

 「ぐぁ……っ!! 」

 ユウヤはなす術もなく壁とトロールの背中に潰され、力なく床に落下する。落下とともに、その口から大量の血が吐き出された。

 ユウヤは朦朧としながらも、とっさに身をよじり、ギリギリでトロールの踏み付けを避ける。

 (まず……った……。血の味が気持ち悪い……頭が……全身が痛い……何か所か折れてるな……)

 ユウヤが考える間にもトロールの連撃は止まらない。ロクに動けなくなったユウヤは芋虫のように転がって何とか躱しながらも、必死で『治癒』の魔法を使い続ける。

 その甲斐あって、何度か際どい場面を挟みつつも、ユウヤは再び立ち上がることができた。

(……危なかった……あんな手で来るとはな。しかし、どうする? 四肢も心臓も頭も、何処を切っても再生するとなると……弱点はないってことか。他に手が残ってるとすれば……できるかどうかはわからないが)

 「……全身を消滅させる、しかないな」

 そうユウヤは呟くと、アグラヴェインにありったけ魔属性の魔力を込める。刀身を瘴気のような黒い靄が覆っていく。

 靄はどんどん濃くなっていき……パァンという音とともに、柄剣が分解した。柄から伸びる、黒く濃く、禍々しい瘴気のような靄。その靄の中に、魚の鱗のような形をしたアグラヴェインの破片が等間隔に浮かんでいる。

 「出し惜しみはもう無しだ」

 怯むことなく突っ込んで来るトロールに躊躇なく振り下ろしたアグラヴェインは鞭のように撓りながら、肩口から鳩尾までを易々と切り裂いた。

 傷口から触手が伸びて絡み合い、再生を始めたが、ユウヤはそれを待たずにトロールの腹を横一文字に切り裂く。

 その傷口も再生を始めたが、ユウヤはそれも無視して見境なくトロールを切り裂き始めた。

 トロールは全身を切り裂かれ続け、攻撃をするどころではなくなってきたが、血だるまになりながらも、その体は執拗と言ってもいいほどに再生し続ける。

 ユウヤはひたすらトロールを切り裂き続ける。そのうち、トロールの周りは次第に巨大な血だまりとなっていき、凄惨な様相を呈してきた。

 (血だまりが出来てるってことは、その分の血は本体に戻ってないってことだな。それに、小さい肉片もそのままになってる……つまり、効果はあるってことだ)

 ただひたすらトロールをひたすら切り刻み続けるユウヤ。その姿は既に、返り血で真っ赤に染まっている。

 そうして何時間か立っただろうか。状況はあからさまに動いていた。数え切れないほどの回数切り刻まれたトロールは目に見えてやせ細っていたのだ。それだけでなく動くことも、あの悍ましい雄叫びを上げることもままならず、ただ切り裂かれ続けるだけの肉塊と化していた。

 それでも冷酷かつ残忍な悪鬼と化したように、ただひたすらアグラヴェインを振るい続ける血まみれのユウヤ。

 「ちょっと……ちょっと! ユウヤ!! 」

 背後から声をかけられたユウヤがハッとして振り返ると、そこにいたのは顔を引き攣らせたヴィキ王女だった。

 「もう終わってるってば! 」

 「……え? 」

 ユウヤの目の前に残っていたのは、巨大な血だまりと、バラバラに砕かれた大量の骨だけになっていた。部屋の奥の扉がいつの間にか光っている。

 「……すまん。……あぁ、しんどかった」

 脱力したユウヤは床に尻もちをつく。

 ヴィキ王女がユウヤに『治癒』と『浄化』を使うと、まだ残っていたユウヤの痛みが引いていき、血まみれになっていた体も綺麗になった。

 「『守護者』の背中と壁で潰された時はどうなるかと思ったわよ」

 「あぁ……あれはキツかった。怖い敵だったな」

 「……アタシは『守護者』よりユウヤの方が怖かったわよ。その変な武器を狂ったみたいにずっと振り回してたし」

 「なかなか死んでくれなかったんでな」

 「まぁ、首刎ねても心臓刺しても死ななかったし……」

 「まぁ、何とか勝てたけどな。……さすがに疲れた。もらうもんもらって帰ろう」

 二人が小部屋に入ると、安置されていた鎧を手にする。他のアーティファクトと同じく漆黒で、意匠も合わせられている。全身鎧ではあるが、片手で持ち上げられるほど軽い。

 「わぁ……綺麗! 軽そうだし、美しいこのアタシにピッタリかも」

 「その体格でどうやって装備するんだよ」

 「う……うるさいわよっ!! 」

 こうして二人は『試練の迷宮』を突破したのであった。

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