『生命力の試練』 2
「随分長い階段ねぇ」
「入り口が随分高い位置にあったからな。それより、地下3階だが……地下1階と似てるな。大きい部屋があって、かなりの数……百体近い魔物がいるな。大丈夫か? 」
ヴィキ王女は頬を膨らませる。
「大丈夫よぅ。一階みたいなヘマはもうしないもん。成長したヴィキ様の活躍を見せてあげるわよ」
「……まぁ、アテにしてるよ。無理はすんなよ」
二人は長い長い階段を降り、そのまま通路を抜けて部屋に入る。
部屋の奥に無数に浮かんでいる、襤褸に身をまとった白く半透明な存在が、口々に悍ましい叫び声を揚げている。
(レイスか……ヴィキは……緊張してるみたいだが、パニクってはないな。よし)
レイス達はかなり遠くから、魔法で攻撃してきた。
「『結界』で魔法を防ぐから、魔法で攻撃してくれ」
ユウヤは二人の前に結界を張り、その後ろから魔法を撃ち始めた。
アンデッドだけあって、ゾンビと同じく『聖弾』『浄化』は有効のようだが、ゾンビと比べると動きそのものが早いうえに、空を飛べるだけでなく壁や床を通り抜ける事もできるため、狙いが定め難い。
その上、階梯が低いとはいえ各種攻撃魔法を連発してくる。
魔法の応酬がしばらく続く。この膠着状態を維持した上で、レイスの数を減らしていこうと考えたユウヤであったが、その戦略はあっさりと破綻した。
魔法を躱すことはするものの、アンデッドだけあって恐怖心がないのだろう、レイスは二人の魔法でその数を相当減らしながらも、二人に肉薄してきたのだ。
いざやられてみると、これは非常に厄介である。相当数を減らしたとはいえ、数十体のレイスが四方八方から魔法で攻撃してくるのだ。
最初は結界を体の前のみに展開し、結界の端から魔法を撃っていた二人だが、戦い続けるにつれ、レイスは色々な方向から攻撃してくるようになり、段々半球状の形に結界を広げざるを得なくなってきた。
最終的に二人はレイスに上下も含めて包囲され、完全な球形になった結界に閉じこもらざるを得なくなった。
四方八方から魔法が結界に命中する衝撃音がする。
「どうしようどうしよう!? 結界だっていつかは割れるよ? 」
「かなり強い結界を張ったから、暫くは大丈夫だけど……これじゃ逆に攻撃もできないしな……うーん……よし、この作戦で行こう」
「どんな作戦? 」
「まず、ヴィキが魔法を撃ちたい方向を指す。俺が合図したら、思い切り『浄化』をぶっ放せ」
「結界があるから、レイスまで届かないよ!? 」
「合図と共に、『結界』に穴をあけて、『浄化』を撃ったらすぐ結界を閉じればいい」
「そんな器用な真似できるの? 」
「多分やれる。他に方法も思いつかないしな。やれるか? 」
「……うん、やってみる」
ヴィキ王女が、レイスが多数いる方向を指し示す。
「やれ! 」
ユウヤは合図するとともに、『結界』に魔法が通れる程度の穴をあける。
ヴィキ王女がタイミングよく『浄化』を放つと同時に、ユウヤは結界の穴を閉じた。
『浄化』の靄に包まれたレイスが数体消滅する。
「やったぁ! 」
「どんどん行くぞ」
二人は同じ方法を繰り返す。最初の何回かで数十体のレイスを消滅させることができたが、
「段々当たらなくなってきてない? なんで? 」
「数が減ったせいで密度が下がったし、指で指し示した方向から逃げるようになってきたからな」
「じゃあどうすんのよ!? まだ三十体くらいいるよ? 」
「そうだな……方法を変えよう」
「どんな方法? 」
「ここからは俺がやるから、結界の中にいてくれ」
そう言うと、ユウヤは結界を変形させ始める。結界は球形から段々楕円形に、楕円形から二つの球形がつながった形に変形していく、更には二つの球形の間が細くなっていき……最終的にはユウヤとヴィキそれぞれが別の球形の結界に入っている形になった。
ユウヤは更に魔力を込めると、二人が入っている球形の結界は離れ始める。レイスはおよそ十体ずつに分かれて二つの結界を追い始めた。
(……よし、これぐらいの数なら何とかなるな)
ユウヤは『加速』『思考加速』を使った上で、アグラヴェインに聖属性の魔力を込めていくと、刀身が白く輝きだす。
そしてレイスの攻撃が途切れる一瞬を見逃さず、ユウヤは自分の周りの結界だけをを解除し、その瞬間に抜く手も見せずアグラヴェインで周囲のレイス全てに斬りつけた!
『加速』を使った連撃は周囲にいた十体あまりのレイスは、一瞬にして全て切り裂かれ、音もなく消滅する。
ヴィキの結界を攻撃していたレイス達もユウヤに向かってきたが、わずか十体程度のレイスでユウヤに対抗できるわけもなく、『浄化』とアグラヴェインによってあっさりと消滅したのであった。
ヴィキ王女が床にへたり込む。
「……やっと、勝った、んだよね? 」
「ああ、難敵だったな。……よく頑張ったな」
「本当にそう思う? 」
「もちろん」
「ほんとにほんとに? 」
「ああ」
ユウヤが肯定した瞬間、ヴィキ王女が破顔する。本当に嬉しそうだ。
「ヴィキは後1階で終わりだ。頑張れ」
「ん! 」
こうして、苦戦しながらもやっと地下3階を突破した二人であった。
地下4階は一本の通路のみになっていた。ただし距離は20km近くある。魔物はいないようだ。
(『力の試練』にも同じような所があったな……いやな予感がする)
とはいっても、何があるかわからない現状では注意のしようもない。
不安がらせるのも良くないだろうと判断したユウヤは、あえてヴィキ王女には何も言わないことにした。
二人は歩き始めた。これまでしゃべり通しであったヴィキ王女であったが、歩くにつれて段々口数が減っていく。
三十分も経った頃には、殆ど無口になっていた。
「大丈夫か? 」
「ん? ……うん、大丈夫」
それからも歩き続ける二人。2時間を過ぎたころにユウヤがふと見ると、ヴィキ王女がいつの間にか飛ぶのを止めてぽてぽてと歩いている。
「大丈夫……じゃないよな」
「なんか、少し疲れたかも……地下2階よりマシ、だと思う」
「地下2階は毒の影響だったよな」
ユウヤはヴィキ王女に『浄化』と『治癒』をかける。
「どうだ? 」
ヴィキ王女はかぶりを振る。
「あんまり、変わらない、かも」
「きついようなら、背負っていくぞ」
「まだ大丈夫、頑張る」
ヴィキ王女はそれか言葉通り頑張っていたが、明らかに息が上がりはじめた。
ユウヤが自分の体の状態を確認すると、よく意識しないとわからない程度であるが、微かに疲労というか、違和感を感じる。
(確かに、何かおかしいな。理由がわからないってのが性質悪いな。確か……『力の試練』では、重力が強くなったんだったな。重力も力の一つってことだろうな。となると、この迷宮は『生命力の試練』だから……まさか)
「ヴィキ、仮にも王女様に失礼な形になるとは思うが、俺に任せてもらっていいか」
ヴィキ王女は口を開くのも厳しい状態なのか、黙ってうなづく。
ユウヤはアーティファクトの小手、ガレスに魔力を込めると、長いロープが出現した。ガレスには魔力を具現化させて物体を作成する特殊能力がある。
ユウヤはロープを使って自分の体にヴィキ王女をしっかりと括りつける。
(ヴィキは小柄だし、どう見ても体力があるとは思えない。予想通り生命力を奪う通路だとしたら、歩いて行くと時間がかかりすぎる。通路が狭いから危ないけど、そんなことを言ってられる場合じゃなさそうだ)
「『飛翔』『思考加速』」
ユウヤは宙に浮くと、全速力で飛び始めた。一本しかないとはいえ通路は狭く曲がりくねっており、高速で飛行するには衝突のリスクが非常に高いのだが、ユウヤは『探索』と『思考加速』、それに今までの経験で培ってきた魔力の精緻な操作と集中力をもって切り抜けていく。
「そろそろだな……あれか」
ユウヤは下り階段を見つけると、階段の下まで一気に、滑り込むように飛んで行った。




